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第2話(1)

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「リルっ! お帰りなさいっ!!」
「リル、よく頑張ったな……っ。お疲れ様……!」
「姉ちゃんお帰りっ! やったねっ!」

 玄関を潜ると家族に囲まれて、あたしの胴上げが始まる。
 みんなは『自分達は何もしてあげられない……っ』と悔やんでくれて、あの日からずーっと悩んでくれてたもんね……っ。ハズマお父様、リノラお母様、ザック、ありがとう……!

「「「リル万歳っ! リル万歳っ! リル万歳っ!」」」

 合計9回宙に舞って、それが終わると全員で拳を高々と突き上げる。
 あたしは帰ってきた! この家の住人は、再び4人になるっ!

「「「「いえーーーーーーーーーーいっ!!」」」」

 全員で思い切りハイタッチを交わして、以上で歓迎会(前哨戦)はお仕舞い。羽目を外しまくって合わせて8分くらい大はしゃぎしたあたし達は、とりあえずソファーに座って紅茶を飲むことにした。

「「「「…………はぁー、お茶が美味しい。平和っていいなぁ……」」」」

 地獄の10か月を経験したら、日常が尊く感じる。
 普通の生活ができるって、こんなにも幸せだったんだね。当たり前が当たり前にあると思ってはいけない。これからは、全てに感謝をして生きていこう……!

「はふぅ~、この景色を眺めるのも久し振りだなぁ~」
「「「そうだな(そうね)(そうだね)。リル(姉ちゃん)がいる景色も、久し振りだ(だわ)(だね)」」」
「みんな……。この天井も……。この壁も……。何もかもが懐かしくって、愛おしくって――ん? ねえ、部屋の隅にあるものってなに?」

 縦横7メートルくらいで、高さは……1・5メートルくらい。そんな大きな箱が置かれていた。あれはなんなんだろ?

「「「………………」」」「「「……………」」」

 お父様、お母様、ザック。あたし以外の3人と、近くに居た使用人さん達が固まった。
 ……。どうして、固まる?

「ねえ。あたしが家を出る時は、なかったよね? あそこにある箱はなに?」
「そういえば。リルも今日からは、自由の身ね。まずは何をしたい?」
「おいおい母さんっ。何をって、そんなもの決まっているだろうっ?」
「そうだよ母様っ。伯爵家嫡男のアルフレッド・ロザス兄さん18歳男と会う、しかないよっっ!」

 いきなりお母様が手の平をポンと打ち、お父様とザックがケラケラと笑い出した。

 怪しい。明らかに、怪しい。

 ロザス家はウチの近所にあって、あたしが小さい頃から家族ぐるみの付き合いをしている。なのにまるで他人みたいに長々と説明して、おまけに嫡男って言ってるのに男と言う。

 滅茶苦茶、怪しい。

「……ねえ、あれはなんなの……? 絶対に、何の変哲もない荷物じゃないよね?」
「「「………………」」」
「お父様、お母様、ザック。あそこにあるのは――」
「あっ、馬車が停まった音がした!! 使用人リッグさんに報告を頼んでたから、アルフ兄さんが来たんだよっ!!」
「ええっ、間違いないわねっ! さあリルっ、出迎えましょっ」
「十か月ぶりの再会だ。こんなどうでもよくて仕様もない話は止めて、出迎えようじゃないかっ!」

 まんまと話を変えられた。けど、あたしはそうせざるを得ない。

 だって、大好きな人が来てくれてるんだもん!

 あたしは誰よりも先に走り出して、玄関を開け放つ。そうしたら――

「リルっ! ずっと会いたかったぜ……っ!」

 ツリ目で少しツンツン髪の、中身も外身も犬っぽい少年。アルフレッドも同じように走ってきてくれていて、ふわり。あたしは持ち上げられるように抱き締められ、懐かしい香りに――爽やかなシトラスのような香りに、優しく包まれたのでした。

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