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幕間 王太子レビン

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「エステル・アリウは、まだ見つからないのか。件(くだん)の闖入者が、相当上手く匿っているようだな」

 ユリオス達が治安所を出た頃。この国の中央にあるアルハク城では、細い眼鏡をかけた知的に映る美男が顎に手をやっていた。
 彼はこの城の次期主である王太子、レビン。マリナを気に入りエステルに罪をかぶせた、この騒動の元凶の一人だ。

「これだけ各所を探しても発見できないという事は、家内に匿われている可能性が高い。したがって増員が叶う明日の昼からは、貴族も含めた各家の屋内を徹底的に調べるとしよう」
「ですが殿下、貴族に関する調査は様々な問題が発生しますよ。どうされるおつもりですか?」

 隣にいる清楚な雰囲気を持つ少女が、嫋やかに首を傾ける。
 こうして表向きは清らかに感じる人物は、マリナ・アリウ。エステルが逃走をする原因を作った、この騒動のもう一人の元凶だ。

「奴らはそれなりの地位と影響力を持っているが、こちらは王族。その更に上に君臨する存在だ。その気になれば、何もかも問題なく押し通せる」
「流石は殿下。その、虫けらを見るような目は素敵ですわ」
「事実虫けらなのだから至当であり、そう言うお前もなかなかのものだろう。なにせこの俺が、いたく気に入ったのだからな」

 レビンは他貴族を嘲笑うマリナに対して目を細め、室内にある豪奢な掛け時計を一瞥。文字盤を眺めながら、明日(あした)の予定の確認を始めた。

「明日(あす)は午前9時から式の打ち合わせがあり、その後は夕刻まで公務だったな。至極面倒な上にエステルが捕獲された場合は、すぐその顔を目視できないのが難点だな」
「殿下は意外と、あの子に興味を示していますよね? もしかして、異性として気になり始めているのですか?」
「冗談はよせ。あんな輩に興味はない」

 レビンは「俺の好みは熟知しているだろう?」とため息を吐き、それが収まると悪意に満ちた表情になった。

「逃げ回っている者が捕らえられた時に見せる、絶望に満ちた顔。アレを見たくてたまらないだけだ」
「うふふ。殿下はかなり、性格が悪い人ですね」
「それは、褒め言葉として受け取っておこう。…………やはり、『その時』を逃してしまうのは惜しいな。どうせ逃げ道などないのだから、公務中は一時捜査を止めて泳がせておくか」

 どんな時でも自身の勝利を確信している悪質な王太子、レビン。彼は、自分が『泳がされている』とも知らず、マリナと共に喉を震わせたのだった――。
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