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プロローグ

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 7月9日。今日は17年の人生で、最高な日となります。
 なんと長年あたしを虐げ奴隷のように扱ってきた性悪姉さんが、不祥事発覚で国から追放されるの!


『はぁ、今日もストレスが溜まったわ。エステル、紅茶とお菓子を持ってきなさい。3分以内に持ってこないと、往復ビンタだからね』
『あ~も~、イライラする。エステル、頭を出しなさい』


『皆様、ごきげんよう。何か困ったことがあれば、いつでもおっしゃってくださいね』
『私にとっての一番の幸せは、皆さんが笑顔になってくれることなんです。そのためでしたら、喜んでお力になりますよ』

 家では両親に溺愛されているのをいいことにあたしをストレスの捌け口にして、外では清楚な子に擬態するマリナ姉さん。そんな変装のおかげで周囲の評判は抜群で、ついには5人の王太子妃候補――容姿や性格や学力を考慮して国が選んだ、王太子殿下のお嫁さん候補になってしまった。

 だけど。やっぱり、悪い事をしたらしっぺ返しが来るようになってるんだね。

 婚約レースを競っていたライバルに脅迫などの度が過ぎた妨害をしていたらしく、それが国王様に露見してしまったの(何かしらの理由で国王様が候補者の一人の近くにいて、それが切っ掛けでバレちゃったみたい)。
 まさかの、国王様のファインプレー。その結果5人から脱落となり、貴族籍を剥奪の上永久に国外に追放されることになったの。

(もうすぐウチに連行する馬車が来て、部屋で落ち込んでいる姉さんは連れていかれる。うん、最高……っ!)

 到底人様にお聞かせできないレベルの罵倒をしちゃいそうになるくらい恨みを持っているあたしは、部屋でガッツポーズ。姉さんの今後の人生を想像して、ついぴょんぴょんと飛び跳ねる。

(酷い事をした人が酷い目に遭うのは、ホント気分がいいっ。早く、姉さんを迎えに来てくれないかな――あっ。来たみたい)

 馬車が停まる音が聞こえてきて、あたしは早足で一階にある玄関へと向かう。
 これからいよいよ、姉さんの(悪い意味で)巣立ちの時だもんね。最期の姿をこの目にしっかりと焼き付けないとだ。

「…………こほん。それではこれより、読み上げを始める」

 家族全員が玄関の前で並び、馬車から降りてきた人が大きめの紙を広げる。
 こうやって家族の前で改めて宣告をされて、連れていかれる。これがこの国のルールで、あたしにとっては最高の演出その1です。

「首謀者として数々の悪事を行った事、そして被害者が受けた心の傷を鑑みると、減刑の余地はない。したがって、貴族籍の剥奪および国外への永久追放処分とする」

 俯きがちになっている姉さんに粛々と伝えられ、ここからは最高の演出その2。『罪人○○。これよりお前を連行する!』という台詞のあと手錠を嵌められ、むなしく連れていかれるのです。

(『罪人マリナ・アリウ』。さあその言葉を、性悪女に言い放ってくださいっ)

 あたしは内心ニコニコしながら男性の口元を凝視して、やがてその口がハキハキと動いて――

「罪人エステル・アリウ。これよりお前を連行する!」

 ――意味不明なことを、言い放った。

 え? 追放されるのは、あたし?
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