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第8話 ループ~一つの出会いと複数の後悔、そして~ ???視点(10)

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「ルロア・エンディス。今なら、やり直せますよ?」

 肉体と魂の消滅。それを実感していたら、正面からそんな声がやって来た。

「サクレ様……。やり直せる、とは……?」
「言葉の通りですよ。リアナ・ベルテギアにそうしたように、今度は貴男を逆行させる。そうすることで、この未来を変えることができるのですよ」

 ループが始まる前――自分を犠牲にしてもと叫ぶ前に戻せば、肉体と魂の消滅を防げる。サクレ様は、そう仰った。

「命――肉体の消滅と魂の消滅は、重みがまるで違います。どう違うか、分かりますか?」
「……肉体のみの消滅なら、生まれ変わることができる。魂が消滅した場合は、それができない。そういうこと、ですよね?」
「正解です。いつまで経っても、再誕はありません。貴男は永遠に、無となるのです。貴男が救われることは、ないのですよ」

 穏やかだったサクレ様の表情と声音が、変わる。どちらもが、真剣で深刻なものへと変化した。

「それは『神』が与える最大級の罰と同じで、これ以上に辛く苦しいことはないとされています。……ルロア・エンディス、改めて問います。貴男はそれでもいいのですか?」
「はい。構いません」

 僕は――。言下、即答した。

「あの時申し上げたように、ずっと覚悟をしていました。それに透明人間としてループを繰り返して、その間に『無』には慣れてしまいましたから。平気ですよ」

 リアナ様はループ中に学院に通っていたけれど、その際に僕がいないと気が付かなかった――本の修繕などが発生していないと、一度も気付かなかった。恐らくはループスタートの切っ掛けとなったことで、世界から僕の存在が切り取られていたのだろう。
 そんな状況を、三十八回分――何十年も経験してきたから、すっかりその感覚が馴染んでしまったのだ。

「それに僕がその選択をしたら、リアナ様の努力が水の泡になってしまいます。それどころか、最悪の人生が待っています。ですので僕は、そちらは選びません。約束した通り、喜んですべてを差し出しますよ」
「……そうですか。ますます、貴男という個体を気に入りましたよ」

 大きく頷きを返すとサクレ様もまた頷きを返され、右手の人差し指がスゥッと横に向いた。なので、その方向を見て見ると――十数メートル先の地点に、光り輝く真っ白な扉が現れた。

「ならば光の泡沫と化してしまう前に、お行きなさい。あそこにあるのは、運命を固定するための門。リアナ・ベルテギアが生存するという未来を継続させるための門。此度の件の中心点である貴男がそこを通ることで、その未来は確定します」
「そう、なのですね。……では、まいります。ありがとうございました、サクレ様」

 もっとしっかりお礼を行いたいけれど、間に合わなくなってしまったら大変だ。そこで精一杯の気持ちを込めて頭を下げ、力を込めて白い地面を蹴る。
 そうして僕は、真白の世界を走り抜けて――

 門を、潜ったのだった。




 〇〇



「許してくださいね、ルロア・エンディス。ワタシは400年ぶりに起きたばかりで、まだ本来の調子ではないのですよ。そのため・・・・には、あの時のように、改めて明確な意思と決意が必要だったのですよ」

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