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第4話 久しぶりの再会は、予想外 アン視点(2)

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「……え……? けい、かく……?」

 信じられない言葉を聞いたわたしは、おもわず目を瞬かせてしまう。
 こちらが一切害を受けず、お父様とイブライム様をどうにかする方法がある……?

「はい、計画です。しばらく前から――10か月前から、水面下で動かしていたものがあったのですよ」
「ここに記している内容が、その全容だ。目を通してみてくれ」
「は、はい。拝見します」

 叔父様から手渡された、合わせて3枚の紙が入ったファイルを開いてみる。そうするとそこには――

 お父様を商会頭の座から引き摺り下ろす。
 お父様を当主の座から引き摺り下ろす。

 そんな、二つの計画が事細かに記されていた。

「ケヴィック商会頭を会頭たらしめているのは、上層部の腰巾着たち。利益を求めて傍にいるだけであって、忠誠心は微塵もありませんよね?」
「そ、そうですね。あの人達に、そういったものはありません」

 自分達が豊かになれるから、従っているだけ。もし豊かにならないのであれば、即座に去る人達ばかり。

「ならばその性質を利用すれば、現状を――あらゆる現状を変えられるのですよ。とはいえ腰巾着たちを動かすのは相当のものが必要で、ずっと『決め手』を探している状態でした」
「そんな時ハーニエル家で不自然な変化が起き、我々はそこに希望を感じていたのだよ。そこでアンとの単独の接触を渇望し、今日叶ったというわけだ」

 叔父様とお兄様も、わたしと同じだった。
 お父様や敵が居ない場所で会い、希望を見出す。

 この場に居る全員が、おんなじ目的を抱いていた。

「さっきアンが教えてくれた事実は、『決め手』になるには充分すぎるものでした。これを上手く使えば間違いなく腰巾着たちは嬉々として動き、ケヴィック商会頭は全ての座を失いことになります」
「この計画は構想期間もこの段階に至るまでの活動期間も短いが、それは今日までエリオッツが不休で先頭を切って動き回ったが故のこと。一分の隙もないと私が保証するよ」
「そう、だったのですね……」((だから目の下にクマが……))

 お会いした時に違和感を見せてしまった事由の、2つのうちの1つ。前回お会いした時にはなかったものがあったので、あの時言葉が出てこなかった。

「お兄様、ありがとうございます。でも、どうしてそんなになるまで……?」
「その理由は3つあって、ひとつはあの婚約は大失敗に終わると確信していたからです。イブライム達は胸の内では、格下を心底見下していましたからね。そんな人達と良い関係を継続できるはずがなく、アンがひどい目に遭うと嫌な確証を持っていたのでどうにかしようとしていたのですよ」

 お兄様や叔父様は、あちらの方々の笑顔はハリボテだと気付いていた。こうなることを想定していて、滅茶苦茶にならないよう対策を講じてくれていた。

「理由の2と3は、すみません。それらは、ケヴィック会頭の件が――それと、ハーニエル家に対する『お礼』が済んでからにさせてください」

 微苦笑を浮かべて、小さく頭を下げる。そんな風に顔と身体を動かされたお兄様は、表情を元に戻し――。わたしが持っていた、紙の3枚目へと視線を移動させたのだった。


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