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第3話 変化と変化 アン視点(4)

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((『実家に戻り、お父様に交渉してまいります』。そう言っておけば、簡単にこの場を離れられるのだけれど……。それはそれで、面倒なことになるわね))

 大喜びするイブライム様達と、笑顔で握手をしながら。わたしは心の中で眉根を寄せる。

((お父様が現状を知ったら……。絶対に、最悪な選択をしてしまうでしょうね))

 あの人は、自己顕示欲の塊。家や商会は二の次で、とにかく自分の地位を高めようとしている。
 商売では決して手に入らない、『名家』とのパイプ作りに執心している。
 この件を活かして服従路線に持ち込んでおけばいいものを、欲を出してより大きな魚を吊り上げようとする。今回のように相手をロクに分析せず敵対貴族に飛びついてしまい、やがて手酷く裏切られ、大失敗をしてしまう未来しか見えない。

((次の相手選びは、重要よね))

 男爵家とはいえ貴族の一員として生まれたという自覚はあって、わたしは幼い頃から家の発展のための『駒』であり『歯車』になる覚悟はしている。とっくに我は捨てていて、家の糧となるならどんな相手とでも結婚するし子どもを作るつもりでいる。
 なのでどんなに自己中心的で我が儘でも耐えられるのだけど、何があっても裏切らない『家』に属する人間を選ばないといけない。

((でも、それがお父様にはできないし……。あまつさえ、現状お父様を止める術はない))

 おじい様――ご先祖様たちが築き上げた財産や地位を譲り受けただけの存在だけど、当主であり商会頭という地位は非常に強い。副会頭である実弟叔父様に座を奪われないよう色んな人を味方につけていて――金で従わせていて、正論を以てしても両方どころか片方の席ですら奪い取れはしないのよね。

((はぁ。どうしたものかしらね))

 この場から脱出するには、お屋敷に戻る以外の選択肢はない。しかしながら戻って状況を伝えたら、更に酷い道に転換する羽目になってしまう。

((お屋敷に突然帰ったら理由を聞かれるし、状況を隠したままココに戻ってきたら暴走が待っている。どうすればいいのかしらね……))

 現状この二つしか選択肢がなく、どっちを選んでも待っているのはバッドエンド。おもわずこめかみを抑えたくなる酷さで現実逃避をしたくなるけど、考えることを放棄してしまったらご先祖様に申し訳が立たなくなってしまう。

((…………動きながら、どうにかして見つけるしかないわね。活路を))

『現状この二つしか選択肢がない』のだから、この先選択肢が増える可能性がないわけではない。
 どこかに光はあると、信じて。
 わたしは前を向き、思考を巡らせながら実家への帰り支度を始めて――。翌日。

 とある計画を胸に秘めた状態で、ハーニエル家が用意した馬車に乗り込んだのだった。


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