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第21話 今度こそ アンナ視点(1)
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「アンナ様。ようやく、終わりましたね」
ロマニ様とアニー様が連行されてから、およそ6時間後。私達は、治安局の外に停めてある車の中で――レルザー侯爵家所有の馬車の中で、向かい合っていました。
主催者様へのお詫びや、局員の方々へのお礼、改めての事情の説明などが終わりましたので。まだ裁判などが残ってはいますが、やっとこの騒動が落ち着きました。
「僕の我が儘で、遅くなってしまって申し訳ございません。……何度も躓いてしまいましたが、どうにか、貴方を迎えにゆける資格を達成できました」
これまでの出来事を、振り返られているのだと思います。ダヴィッド様は5秒ほど瞑目され、ゆっくりとその瞼が上がりました。
「ですので、サンドラ、アンナ様。そのお手を、取らせていただきたく思います」
「はい……っ。私のために、こだわってくださってありがとうございます。アドリアンくん、ダヴィッド様。この手を、握ってください。貴方の手を、握らせてください」
下がった目尻を見ていると、すぐに私の目尻も同じようになって。そうして私達は声と表情で今の感情をたっぷりと表し、お互いの手が前方へと伸びてゆきます。
――私達は生徒会メンバーだったこともあって、今まで何度も握手をしてきました。この手に触れたことは、何度もありました――。
でも今回のそれは、まるで意味が違っていて。ダヴィッド様の手のぬくもりに触れると、そこから全身へと温かなものが広がっていきました。
この不思議な感覚は、『幸せ』。瞬く間に体中が幸福で満たされ、あっという間にキャパシティーを超えてしまって。その一部は雫へと姿を変えて、両目からポロポロと零れ落ちるようになりました。
――ですので――。
この変化は、必然でした。
「生まれ変わったら記憶がなくなっていて、お互い近くに住んではいないかもしれない。でも、たとえそうだったとしても。どんな障害があっても乗り越えて、必ずやその手を握り締めにいくから。次こそは最後まで君を守るから、待っていておくれ」
アドリアンくんと、最後に交わした言葉。どこからか聞こえてきたその肉声を切っ掛けとして、あらゆる光景が頭の中に浮かび上がってきて――。
「…………ダヴィッド様。そういえば2回目の結婚記念日には、三日月の形をしたネックレスをプレゼントしてくれましたね」
「ええ、そちらを贈りました。……アンナ様、貴方は……っ」
「はい……っ。もう、断片的ではありません。全てを、思い出しました……っ!」
ロマニ様とアニー様が連行されてから、およそ6時間後。私達は、治安局の外に停めてある車の中で――レルザー侯爵家所有の馬車の中で、向かい合っていました。
主催者様へのお詫びや、局員の方々へのお礼、改めての事情の説明などが終わりましたので。まだ裁判などが残ってはいますが、やっとこの騒動が落ち着きました。
「僕の我が儘で、遅くなってしまって申し訳ございません。……何度も躓いてしまいましたが、どうにか、貴方を迎えにゆける資格を達成できました」
これまでの出来事を、振り返られているのだと思います。ダヴィッド様は5秒ほど瞑目され、ゆっくりとその瞼が上がりました。
「ですので、サンドラ、アンナ様。そのお手を、取らせていただきたく思います」
「はい……っ。私のために、こだわってくださってありがとうございます。アドリアンくん、ダヴィッド様。この手を、握ってください。貴方の手を、握らせてください」
下がった目尻を見ていると、すぐに私の目尻も同じようになって。そうして私達は声と表情で今の感情をたっぷりと表し、お互いの手が前方へと伸びてゆきます。
――私達は生徒会メンバーだったこともあって、今まで何度も握手をしてきました。この手に触れたことは、何度もありました――。
でも今回のそれは、まるで意味が違っていて。ダヴィッド様の手のぬくもりに触れると、そこから全身へと温かなものが広がっていきました。
この不思議な感覚は、『幸せ』。瞬く間に体中が幸福で満たされ、あっという間にキャパシティーを超えてしまって。その一部は雫へと姿を変えて、両目からポロポロと零れ落ちるようになりました。
――ですので――。
この変化は、必然でした。
「生まれ変わったら記憶がなくなっていて、お互い近くに住んではいないかもしれない。でも、たとえそうだったとしても。どんな障害があっても乗り越えて、必ずやその手を握り締めにいくから。次こそは最後まで君を守るから、待っていておくれ」
アドリアンくんと、最後に交わした言葉。どこからか聞こえてきたその肉声を切っ掛けとして、あらゆる光景が頭の中に浮かび上がってきて――。
「…………ダヴィッド様。そういえば2回目の結婚記念日には、三日月の形をしたネックレスをプレゼントしてくれましたね」
「ええ、そちらを贈りました。……アンナ様、貴方は……っ」
「はい……っ。もう、断片的ではありません。全てを、思い出しました……っ!」
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