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第1話 書き間違えではなかった アンナ視点

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「レテア……。これは……」
「ええ……。受け入れたくないけれど、そうせざるを得ないわ……。あの方は、アニーという女性に心変わりをされている……」

 こちらのお手紙はレルザー侯爵家の方が、ここ――リロレット伯爵邸へと直接届けてくださりました。そのため差出人は間違いなく、ロマニ様となっています。
 ですのでお手紙をお見せするや、お父様とお母様は執務室の天井を仰ぎました。

「『親愛なるアニー』、それは書き間違えじゃない……。別人に、宛てたものだったのね……」
「何かしらの手違いによって、手紙が入れ替わってしまったようですね。ですが――いえ、なんでもありません。お父様、お母様。こういった場合は、どういった行動が適当なのでしょうか?」

 気になる点がありましたが、そちらよりも大事なことがあります。ですので私は、お二人を交互に見つめました。
 貴族の婚約は家と家の問題であるため、この家のトップである当主夫妻――お父様とお母様の判断を仰がなければなりません。こういった場合は、どう動くべきなのでしょうか。

「そうだな……。幸いにもロマニの父レルザー卿は、反故や裏切りを嫌う御方だ。この証拠を持って――、その前にアンナよ。お前の心は、大丈夫なのか?」
「裏切りをこんな形で知って、ショックでしょう? こういったお話は一旦置いておいて、少し休んではどうかしら?」
「お父様お母様、お気遣いありがとうございます。問題はありませんので、どうぞ続けてください」

 私は幼い頃から喜怒哀楽の『哀』に、不思議なくらい耐性のようなものがありました。
 ずっとロマニ様を愛していましたので、この事実は大きな落胆をもたらしています。ですがそういった性質があるため、悲しみはあるものの平常心を保っていられます。
 そしてさっき口にしかけていたように、この一件には気になる点があります。そちらを解明したい気持ちもあって、このお話を続けることにしました。

「うむ、分かった。この手紙を持ってレルザー卿を訪ねれば、こちらが満足する対応を得られるはずだ」
「……アンナ。ロマニ様との関係を維持するつもりは、ないわよね?」
「はい。そういった感情は、一切ありません」

 心が狭いのかもしれませんが――。恋に関する裏切りは、2度目はないという考えを持っています。ですので即座に首を、左右へと動かしました。

「それを聞けて、親としても安心したわ。あなた」
「ああ、この子を連れて話しをしてくる。アンナ、外出の支度を――」
「旦那様っ! 至急お伝えしたいことがございますっ‼」
「――ん? なんだ?」

 執務室のドアが速いテンポでノックされ、扉を開けると家令ジェームズさんがいらっしゃりました。
 この方は『老紳士』の異名を持つ、いつも落ち着いている方なのに。どうされたのでしょうか?

「お前らしくないな。どうしたいうのだ?」
「わ、わたくしには皆目見当がつかないのでございますが……。レルザー侯爵家の双子の弟ダヴィッド様が、いらっしゃられまして……。『婚約を破棄される問題について――兄からの手紙について、大事なお話がございます』と仰られたのでございますっ!」

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