花火を見上げる、君と僕

柚木ゆず

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花火を見上げる、君と僕

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 夏の夜。とある地方の花火大会。
 高校2年生の少年は、母親の実家に帰省している幼馴染の少女と一緒に花火を見ていた。
 二人は同じアパートに住んでいて、幼稚園から中学3年生までずっと一緒のクラス。東京に引っ越してからも関係は続き、本当の兄妹のように仲が良かった。
 だがそんな少年には、秘密があった。
 中学3年生だった時の、ある日。少女に対する恋心に気付いてしまう。

 好き。好きだ。
 笑ってる顔も怒ってる顔も。全部含めて、世界で一番好きだ。

 少年の中にある恋心は膨張を続け、いつしか抑えきれないほどになっていた。
 しかし。
 告白という行為は、どちらに転んでも『今』の関係性を失ってしまう。片道切符の行動。
 だから少年は今ある関係を崩したくないと、本心を隠し続けて別れを迎えてしまった。

 その結果。少年は今現在まで、酷く後悔する日々を送る羽目になる。

 好きの気持ちは膨らみ続けて、身体を内側から圧迫する。
 どこにも吐き出せない想いが膨れて膨れて、苦しい。
 こんな思いをするくらいなら、告白したらよかった。目の前にいる時に、告白すればよかった……っ。

 
 そうして月日が流れ、今日。今夜は本心を伝えるチャンス。

 
 だった、のだけれど。あの時勇気を出さなかったことへの罰なのか。
 今朝久し振りに顔を合わせた少女から、信じられないサプライズを聞かされた。


 実はあたしね、好きな人ができたんだ!


 離れている間に、少女は恋をしていた。
 相手は、男子バスケットボール部の先輩。顔がカッコ良くて爽やかで優しい、完璧な人。
 少女は再会した時から何度も先輩の話をして、その話が終わるたびに、顔に焦りを浮かべた。
 なんでも少女の友人が、今日その先輩に告白するらしい。そのため少女は、もしOKしたら、と酷く焦り不安がっていたのだ。
 そんな少女に対し少年は繰り返し『大丈夫だよ。落ち着いて』と励ましていたが、そんな少年も実は酷く焦っていた。


 もしもその先輩が、OKをしたら……。


 もし友人との恋が成立したら、少女の恋は不成立となる。そうなれば今度は、自分との恋が成立するかもしれない。
 だから少年は、密かに成立を祈っていた。少女のスマホにかかってくるらしいイエスかノーかを報告してくる電話に対し、イエスであれと念じ続けていた。

 けれど。

 少年の中には同時に、少女が悲しむ顔は見たくない、という気持ちもあった。
 少女が大好きだからこそ、幸せになって欲しいという気持ちもあった。
 

 ――どうなることが、正解なのか――。
 ――自分はどう願えばいいのか――。


 少年は答えを出せないまま、目の前で上がり続ける花火を眺める。
 少年と少女はそれぞれがそれぞれの焦燥を抱え、気を紛らわせるように花火を見上げるのだった。
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みんなの感想(8件)

Y.Itoda
2024.01.19 Y.Itoda

文章がとても綺麗で読みやすく、登場人物の感情が伝わってきました。特に、花火の描写は美しく、二人の想いが重なる場面は感動的でした。幼馴染の恋愛は甘酸っぱくて切ないものですが、この作品は希望に満ちたエンディングでした。私はこの作品を読んで、夏の思い出を振り返りました。

ありがとうございました。

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能登原あめ
2021.09.05 能登原あめ

なんだかゆずさまの昔の作品が読みたくなってこちらへやってきました。
(他サイトで書いていたものもザ・恋愛という感じでもう一度読みたい気もあるのですが)

こちらの2人のその後も気になりますね( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ )♡
この先を想像するのも楽しいです♪

解除
みのる
2021.05.23 みのる

お返事、ありがとうございます。

密やかに前々からあなたの御活躍をうかがっておりました。
今後も更なる飛躍、影ながら応援しております。

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