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第5話 2人目の王子様 アリス視点(2)

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「アリス!? どうしてなんだい!? なぜこんな男に耳を貸そうと――」
「おや? 貴方様は、本物の『王子様』なのですよね? なにを焦ることがあるというのですか?」

 わたしへと大急ぎで歩み寄ろうとされていた、アルチュール様。その足は、オーレリアン様のお言葉によってピタリと止まりました。

「『王子様』を名乗る者が複数現れたのですから、どんなに信頼していたとしても、即答できない問題となるでしょう。公爵様であらせられる方であれば尚更容易に理解でき、それこそ『そうだね』と即答できるものではないでしょうか?」
「そ、そうだなっ。ああそうだともっ。ご、ごめんよアリス、ついムキになってしまった。許しておくれ」
「さすがは公爵様でございます。ではアリス、僕の言い分を聞いてください。まずは――」

 オーレリアン様がはじめに紡がれたのは、10年前の出会いから別れについて。

 虹色に輝く蝶が縁で、偶然出会ったこと。
 おんぶをして、導いたこと。
 ウサギさんやリスさんに頼んでダンスを見せてもらったり、歩きながら色々なお喋りをしたこと。
 その間にお互いはっきりと好意を抱くようになっていて、今日の日の約束をして別れたこと。

 これらの内容がスラスラと、一度の淀みもなく出ました。

「以上があの日、エプリスヒの森で起きた出来事。アリス、何か質問はあるかな? 胡散臭いと、嘘だと感じる部分があったら、遠慮なく聞いて欲しい」
「お伺いしたい点が、2つ――1つ、ございます。改めて、わたしが迷子になった過程についてお教えください。わたしは何を追いかけて、迷い込んでしまいましたか?」
「ロット湖で、彼――珍しい虹色の蝶を見つけて、夢中になって追いかけた。あの時、君からそう聞いたよ」
「はい、仰る通りです。……オーレリアン様。貴方様が仰られた内容には、僅かの不自然もありませんでした」

 語られたものは全てがわたしの記憶と一致しますし、『エプリスヒの森』を間違えなかった点、それになにより――。この方は最初から、蝶を『彼』と呼んでいます。
 そのため天秤はかくりと、オーレリアン様へと傾くようになりました。

「その様子だと、ファズエルス様は何かしらのミスをされていたようですね。でしたらステップを1つ飛ばしても、よさそうで」
「うるさい偽者は黙っていろ! あれは偶々のミスだっ!! アリスっ、これから俺が本物だという確固たる証拠を出す! アレク――従者に預けているものを持ってくるから少し待っていてくれっ!」

 アルチュール様は再び大きなお声で声をかき消し、早歩きで退室されてしまいました。
 確固たる、証拠……?
 思い当たるものが、ないのですが……。いったい、何をお持ちになられるのでしょうか……?


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