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第5話 その日の夜のお話~勝利の小さな宴と、予想外の来訪者~ セリア視点(2)

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(こんなところから人がいらっしゃるのは、初めてです。どちら様なのでしょうか?)
(俺はファルラン侯爵家の長男、アルフォンス。これがその証拠だ)

 小声で伺うと同じ声量で返事があって、彼は懐から紋章入りのペンダントを取り出した。
 私は子爵家なため上位貴族とあまり面識はないものの、19歳のアルフォンスという名の方がいらっしゃることと、有名貴族のファルラン家の紋章のデザインくらいは知っている。ソレは確かにファルラン家のもので、この方は本当にアルフォンス・ファルラン様だ。

(侯爵家の嫡男様が、なぜこんな時間にお独りでこんな場所に……? どういった御用なのでしょうか……?)
(この体勢で長々と説明していると、誰に目撃されるか分からない。まずは室内に入れて欲しい)
(そうですね、畏まりました。すぐお開けします)

 侯爵家が本気になれば、ウチなんてあっさりと丸め込めてしまう。以上の理由で悪意はないと判断し、カギを開けて部屋にお通し(?)した。

(理解が早くて助かる、が、予想以上に円滑だった。こんなところに人が居て驚かないのか?)
(そうですね。2週間前の自分なら大声を出していましたが、色々とありましたので。この程度のことでは、驚かなくなりました)

 3人の裏切りと、時間の逆行。特に後者は荒唐無稽で、あれに比べたら大したことはないんだよね。

(……色々、ね。思ってた通り、いや――。思った以上の、何かがあるな)

 小さかった声のボリュームが更に小さくなり、ファルラン様は顎に右手をやる。けれどその手はすぐに離れ、俯きがちになっていたお顔が上がった。

(室内に入ったら説明する、そう約束をした。今は指定した状況になっているから、約束通りここを訪れた理由を説明する)
(はい。お願いします)
(俺が、君――セリア・ハミンズを知ったのは、3日前。馬車で通っている際に、偶然君の姿を目撃したんだ)

 部屋での籠城を始めた直後。窓の傍で干し肉とパンを食べているところを、見られてしまっていたらしい。

(その際に君にあった、異様なほどに強い意志を宿した瞳。それが印象的で、俺はそういう目をした人が好き。独りの人間として、独りの女性として、両方の意味で一目惚れをしてしまったんだよ)
(………………)

 想定外の、告白の言葉。そんなものを聞いても、今の私は何とも感じない。私は小さな頃から恋、恋愛に憧れていたはずなのに、心がドキンともしない。
 それはきっと、シリルと妹と父ドナルドやソフィ―の影響。様々なことを経験してしまって、絶望したから……。そういったものに、冷めてしまったんだ。

(……セリア・ハミンズ――フルネームだと、長くなるな。セリア、と呼んでも?)
(はい。ご自由にお呼びください)
(では、セリアと呼ばせてもらう。……どうやら俺は、俗にいう地雷を踏んでしまったようだ。いきなり打ち明けるのはよくない、そういった考えはあったんだよ。されどこういったケースの場合、あとで好意を表すのは反則かつ卑怯となる。そこで先に伝えさせてもらった)
(いえ、それはこちらに原因がありまして……。申し訳ございません、お気遣い痛み入ります)

 この方は、何も悪くない。なので頭を下げて謝罪をし、顔を上げると私は首を傾けた。

(ファルラン様、お伺いしたいのですが。先ほど仰られた『こういったケース』とは、どういうことなのでしょうか?)

 そこが、よく分からない。この方は、好意を伝えにきてくれたんじゃないの?

(勘違いをさせてしまったが、俺はこの気持ちを伝えるためにここに来てはいないんだよ。そういった想いは二の次だ)
(二の、次……。でしたら、本命はなんなのですか?)
(俺がセリアと接触した、一番の目的。それは、『君に協力する』という言葉を伝えることなんだよ)


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