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プロローグ
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「妹・ソフィ―の毒殺を目論み一時昏睡に陥れた、ハミンズ子爵家の長女セリア。被告に極刑を言い渡す」
王都にある、裁判所。被告が立つスペースで後ろ手に拘束されている私は、大粒の涙を流しながら判決を聞いていた。
大量の涙が溢れている理由は、罪を後悔しているからじゃない。その罪は捏造されたもの、冤罪だからだ。
――その始まりは、今から2週間前。4月14日のこと――。
その日私は、婚約者と――子爵令息のシリル・ラーナイン、そして妹のソフィ―と、3人でピクニックに行った。
それは、私達3人の仲を深めるためのイベント。そう思っていたのは、私だけ。その実態は私という邪魔者を排除し、残った2人が結ばれるためのイベントだったのだ。
私の婚約者、シリル。彼と私は、家の未来のために結婚することになった――要するに、政略結婚の駒。互いの両親によって計画された婚約で、3か月半前が初対面なためお互いに好意はなかった。
16歳腹違いの妹、ソフィ―。彼女は小さな頃から私を慕ってくれていたのだけれど、それは全て演技。実母――私にとっては継母にあたるアンナの計画を円滑に行えるよう、私を油断させるためのものだった。
アンナの計画。それは、私を――昔から嫉妬していた今は亡きお母様への復讐の一環として、お母様の娘である私をハミンズ家から追い出すこと。
そのため彼女は私利私欲の権化であるお父様に政略結婚を持ち掛け、『断れば可愛がっている妹が望まない結婚をする羽目になるぞ』と暗に脅して私を頷かせたのだ。
だけど――。
その計画は、ソフィ―の恋によって大幅な変更を余儀なくされてしまう。
『お姉ちゃん、ごめんね~。実はこの騒動は全部、あたし、ママ、シリルが起こしたものなんだよ~』
勝者の余裕、嘲笑混じりで行われた種明かしによると――。彼が初めてウチに来た日から4週間後。ソフィ―はシリルに好意を抱いていると気付き、同時にシリルもソフィ―に好意を抱くようになっていて、2人は結婚したいと強く思うようになっていたそう。
『ママっ、あたしがシリルと結婚したいの。お姉ちゃんとの婚約はナシにして』
『分かったわ、ソフィ―。先方は縁ができればそれでいいのだから、お母さんが上手く変更してあげ――待って……。そうすればソフィ―がこの家からいなくなって、逆にセリアが居続ける羽目になるわね……』
『ママ、そこは大丈夫だよ。セリアはずっと、あたしにとっても目障りだったもん。ちゃんとシリルと相談してて、面白いコトを閃いちゃった』
それが、私に毒殺の濡れ衣をかけること。
実は妹ソフィ―の美や才に嫉妬していた、などなど。そういった妬みが理由でランチに毒物を混ぜ、ソフィ―を殺害しようとした。
水面下ではそういった計画が進行していて、やがて何も知らない私は引っかかってしまう。侍女も使用人も全員が買収されていたため証拠が全部揃っていて、私は即日逮捕。
特権階級はとりわけ罪が重くなる上に、理不尽な理由と毒薬の違法所持に使用。それらの罪で、極刑が――ギロチンにかけられる未来が決まってしまったのだ。
「執行は、明日の正午。それまで人生最後の時間を楽しむがいい」
そうして私は、複雑な表情を浮かべる継母と妹と婚約者に――内心嘲笑っている犯人達に見送られながら牢屋に戻り、格子が締まるやボロボロのシーツを被って横になる。
泣き疲れてしまっているし、今は眠って現実逃避をしたい。なので唯一所持を許されているもの――お母様の形見のペンダントを両手で握り締め、赤ん坊のように丸まって眠りの世界に落ちていったのだった。
「…………おやすみなさい、お母様……。……………………あ、れ……?」
今日は、ペンダントがやけにあったかい。
このぬくもりは、おかあさまの、ぬくもりに、にている……。
きっと……。おかあさま、が……。はげまして、くれているん、だ………………。
王都にある、裁判所。被告が立つスペースで後ろ手に拘束されている私は、大粒の涙を流しながら判決を聞いていた。
大量の涙が溢れている理由は、罪を後悔しているからじゃない。その罪は捏造されたもの、冤罪だからだ。
――その始まりは、今から2週間前。4月14日のこと――。
その日私は、婚約者と――子爵令息のシリル・ラーナイン、そして妹のソフィ―と、3人でピクニックに行った。
それは、私達3人の仲を深めるためのイベント。そう思っていたのは、私だけ。その実態は私という邪魔者を排除し、残った2人が結ばれるためのイベントだったのだ。
私の婚約者、シリル。彼と私は、家の未来のために結婚することになった――要するに、政略結婚の駒。互いの両親によって計画された婚約で、3か月半前が初対面なためお互いに好意はなかった。
16歳腹違いの妹、ソフィ―。彼女は小さな頃から私を慕ってくれていたのだけれど、それは全て演技。実母――私にとっては継母にあたるアンナの計画を円滑に行えるよう、私を油断させるためのものだった。
アンナの計画。それは、私を――昔から嫉妬していた今は亡きお母様への復讐の一環として、お母様の娘である私をハミンズ家から追い出すこと。
そのため彼女は私利私欲の権化であるお父様に政略結婚を持ち掛け、『断れば可愛がっている妹が望まない結婚をする羽目になるぞ』と暗に脅して私を頷かせたのだ。
だけど――。
その計画は、ソフィ―の恋によって大幅な変更を余儀なくされてしまう。
『お姉ちゃん、ごめんね~。実はこの騒動は全部、あたし、ママ、シリルが起こしたものなんだよ~』
勝者の余裕、嘲笑混じりで行われた種明かしによると――。彼が初めてウチに来た日から4週間後。ソフィ―はシリルに好意を抱いていると気付き、同時にシリルもソフィ―に好意を抱くようになっていて、2人は結婚したいと強く思うようになっていたそう。
『ママっ、あたしがシリルと結婚したいの。お姉ちゃんとの婚約はナシにして』
『分かったわ、ソフィ―。先方は縁ができればそれでいいのだから、お母さんが上手く変更してあげ――待って……。そうすればソフィ―がこの家からいなくなって、逆にセリアが居続ける羽目になるわね……』
『ママ、そこは大丈夫だよ。セリアはずっと、あたしにとっても目障りだったもん。ちゃんとシリルと相談してて、面白いコトを閃いちゃった』
それが、私に毒殺の濡れ衣をかけること。
実は妹ソフィ―の美や才に嫉妬していた、などなど。そういった妬みが理由でランチに毒物を混ぜ、ソフィ―を殺害しようとした。
水面下ではそういった計画が進行していて、やがて何も知らない私は引っかかってしまう。侍女も使用人も全員が買収されていたため証拠が全部揃っていて、私は即日逮捕。
特権階級はとりわけ罪が重くなる上に、理不尽な理由と毒薬の違法所持に使用。それらの罪で、極刑が――ギロチンにかけられる未来が決まってしまったのだ。
「執行は、明日の正午。それまで人生最後の時間を楽しむがいい」
そうして私は、複雑な表情を浮かべる継母と妹と婚約者に――内心嘲笑っている犯人達に見送られながら牢屋に戻り、格子が締まるやボロボロのシーツを被って横になる。
泣き疲れてしまっているし、今は眠って現実逃避をしたい。なので唯一所持を許されているもの――お母様の形見のペンダントを両手で握り締め、赤ん坊のように丸まって眠りの世界に落ちていったのだった。
「…………おやすみなさい、お母様……。……………………あ、れ……?」
今日は、ペンダントがやけにあったかい。
このぬくもりは、おかあさまの、ぬくもりに、にている……。
きっと……。おかあさま、が……。はげまして、くれているん、だ………………。
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