演劇とトラウマと異世界転移～わたしが伯爵令嬢のフリ！？～

第10話 今は違う理由（１）

「エリスさん、申し訳ありません。記憶を見せる術には時間の制限がありまして、一度にお見せできるのはここまでとなっております」

　憧れのコンテストに参加して、失敗をして……。聞こえてきた声によって、ピアノを弾けなくなってしまう……。
　わたしみたいに真っ青になって泣いているステファニーさんの姿を見ていると、急に目の前が真っ白に光って元の景色に戻った。

「可能ならばこのあと――わたくしがそれらを克服した姿をお見せしたかったのですが、仕方がありません。こちらで証明をさせていただきましょう」

　ステファニーさんはもう一度デスクに向かい、今度はトロフィーを一つ持って戻ってきた。

「こちらは去年、ソレイユで最高金賞をいただいた際のものです。……あの日から約１年後。わたくしは再びピアノを弾けるようになり、練習を重ね、ようやく悲願をはたしたのですよ」

　召喚された影響で、この国の言葉と文字を理解できるから分かる。
　これは去年のソレイユの、ピアノ部門のトロフィー。ピアノを弾けなくなっていたステファニーさんが、ピアノを弾けるようになっている……！

「どっ、どうしてなんですかっ!?　どっ、どうやったんですか!?　どうしてまたできるようになってるんですかっ!?」

　わたしとそっくりだった人が、今のわたしと正反対の状態になっている。
　その理由を１秒でも早く知りたくって、おもわず身を乗り出してお顔を覗き込んだ。

「記憶を見せてもらったから、知ってますっ。ステファニーさんは真っ青になって震えていましたっ。あんなにも怖くなっていたのにっ。どうしてなんですかっ!?」
「わたくしが、元のわたくしに戻れた理由。それは、大事なことを思い出したからです」

　おもい、だした……？
　なに、を……？