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第1話 気が付いたら シドニー視点

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「「なっ!?」」

 わたしは――わたし、だけではありませんでした。わたしとバジル様は揃って驚きの声をあげ、おもわず顔を見合わせてしまいます。
 なぜならば――

「では、ここにサインを」
「……………………。承知いたしました」

 ――教会にいたはずのわたし達はワズテイルズ邸内の応接室に居て、目の前にある大理石製のテーブルには婚約に関する書類が置かれていたのですから。

「……? 急にどうしたのだバジル。サインに、何か問題があるのか……?」
「……? シドニー……?」
「……この光景を、俺は知っている……。こいつは、もしかしなくても……! ちっ、父上! 今日は何日ですかっ!? それとっ、ランドラ―ズン暦は何年ですか!?」
「きょ、きょう……? 今日は、7月の15日だな……? ランドラ―ズン暦は、2421年、だな」
「2421年!! やっぱりそうだ!! 今は去年だ!! 去年の7月15日なんだ!!」

 時間が巻き戻っている――。それを理解するやバジル様は立ち上がり、満面の笑みで右の拳を突き上げました。

「きょ、去年……? バジル……お前はなにを言っているんだ……? びょ、病院でも、行くか……?」
「その必要はありません!! 父上っ、この婚約は中止します!!」
「なんだって!? 中止にする!?」
「そうですっ、中止です! この件はまだ公にしていないのだからっ! 取り消しは可能ですよね!?」
「そ、それは可能だが……。さっきまで、あんなに喜んでいたじゃないか……。そもそも、この婚約はお前が言い出したことじゃないか……。なぜそんなことに、なるのだ……?」
「俺には真に愛すべき女性がいるんですよ!! この女は一番ではなくて――詳しい話はあとでしますよ! とにかくシドニーなんかと結婚するつもりはなくてっ、この話を白紙にしたいんですよっっ! 構いませんよね!?」
「……あ、ああ。構わんよ」

 あの頃と違って一年経っておらず、なかったことにしても大きな悪影響は発生しません。ですので今回の要望はすぐさま認められ、バジル様は歓声をあげました。

「やった!! やったぞ!! 奇跡だ!! 奇跡が起きたっ!!」
「……これは……。やはり、一度病院で検査をするべきなのか……?」
「だからその必要はなくてっ、俺は正常なんですよ! 父上っ、真に愛する人は帰国して――今は去年だから彼女はまだ隣国フェローテに留学しているんですよ! すぐさま会いにいきましょ――ああそうだ」

 勢いよく部屋を飛び出そうとしていたバジル様は、わたしへと視線を動かしました。

「よくやったぞシドニー! 褒めてやる!」
「い、痛み入ります」
「俺に貢献した褒美をやろうじゃないか!! 父上っ、格下だからと言って蔑ろにしてはいけません。白紙に関する慰謝料を弾んでやってください! 特別に相場の1・2倍与えてやりましょう!!」
「ぁ、ああ……。お前がそう言うのなら……。そうしよう……」
「そうしてください!! ああそうだシドニー! 1・2倍も弾んでやるんだ!! 伯爵夫人になれないからってしつこく付きまとうなよ? いいなっ?」
「心得ております」
「もしも反故にしたら、その時は容赦なく潰す。ゆめゆめ忘れるなよ」

 そうして早口で釘を刺したバジル様は、今度こそ移動開始。当主様の手を引き、欣喜雀躍しながら部屋を去ってしまいました。

「…………………………なんなのだこれは…………一体なにが起きているのだ……? シドニー、お前は理解している、のだな……?」
「はい、理解しております。この件の詳細は、移動しながらお伝えします。お父様、わたし達も参りましょう」

 婚約が白紙になった――。そちらを一秒でも早く伝えたい、伝えなければならない人がいます。
 ですのでお父様と共に急いで馬車に乗り込み、訪れる時とは正反対。わたしは微笑みを浮かべながら、ワズテイルズ伯爵邸を発って――




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