3 / 24
第1話 気が付いたら シドニー視点
しおりを挟む
「「なっ!?」」
わたしは――わたし、だけではありませんでした。わたしとバジル様は揃って驚きの声をあげ、おもわず顔を見合わせてしまいます。
なぜならば――
「では、ここにサインを」
「……………………。承知いたしました」
――教会にいたはずのわたし達はワズテイルズ邸内の応接室に居て、目の前にある大理石製のテーブルには婚約に関する書類が置かれていたのですから。
「……? 急にどうしたのだバジル。サインに、何か問題があるのか……?」
「……? シドニー……?」
「……この光景を、俺は知っている……。こいつは、もしかしなくても……! ちっ、父上! 今日は何日ですかっ!? それとっ、ランドラ―ズン暦は何年ですか!?」
「きょ、きょう……? 今日は、7月の15日だな……? ランドラ―ズン暦は、2421年、だな」
「2421年!! やっぱりそうだ!! 今は去年だ!! 去年の7月15日なんだ!!」
時間が巻き戻っている――。それを理解するやバジル様は立ち上がり、満面の笑みで右の拳を突き上げました。
「きょ、去年……? バジル……お前はなにを言っているんだ……? びょ、病院でも、行くか……?」
「その必要はありません!! 父上っ、この婚約は中止します!!」
「なんだって!? 中止にする!?」
「そうですっ、中止です! この件はまだ公にしていないのだからっ! 取り消しは可能ですよね!?」
「そ、それは可能だが……。さっきまで、あんなに喜んでいたじゃないか……。そもそも、この婚約はお前が言い出したことじゃないか……。なぜそんなことに、なるのだ……?」
「俺には真に愛すべき女性がいるんですよ!! この女は一番ではなくて――詳しい話はあとでしますよ! とにかくシドニーなんかと結婚するつもりはなくてっ、この話を白紙にしたいんですよっっ! 構いませんよね!?」
「……あ、ああ。構わんよ」
あの頃と違って一年経っておらず、なかったことにしても大きな悪影響は発生しません。ですので今回の要望はすぐさま認められ、バジル様は歓声をあげました。
「やった!! やったぞ!! 奇跡だ!! 奇跡が起きたっ!!」
「……これは……。やはり、一度病院で検査をするべきなのか……?」
「だからその必要はなくてっ、俺は正常なんですよ! 父上っ、真に愛する人は帰国して――今は去年だから彼女はまだ隣国フェローテに留学しているんですよ! すぐさま会いにいきましょ――ああそうだ」
勢いよく部屋を飛び出そうとしていたバジル様は、わたしへと視線を動かしました。
「よくやったぞシドニー! 褒めてやる!」
「い、痛み入ります」
「俺に貢献した褒美をやろうじゃないか!! 父上っ、格下だからと言って蔑ろにしてはいけません。白紙に関する慰謝料を弾んでやってください! 特別に相場の1・2倍与えてやりましょう!!」
「ぁ、ああ……。お前がそう言うのなら……。そうしよう……」
「そうしてください!! ああそうだシドニー! 1・2倍も弾んでやるんだ!! 伯爵夫人になれないからってしつこく付きまとうなよ? いいなっ?」
「心得ております」
「もしも反故にしたら、その時は容赦なく潰す。ゆめゆめ忘れるなよ」
そうして早口で釘を刺したバジル様は、今度こそ移動開始。当主様の手を引き、欣喜雀躍しながら部屋を去ってしまいました。
「…………………………なんなのだこれは…………一体なにが起きているのだ……? シドニー、お前は理解している、のだな……?」
「はい、理解しております。この件の詳細は、移動しながらお伝えします。お父様、わたし達も参りましょう」
婚約が白紙になった――。そちらを一秒でも早く伝えたい、伝えなければならない人がいます。
ですのでお父様と共に急いで馬車に乗り込み、訪れる時とは正反対。わたしは微笑みを浮かべながら、ワズテイルズ伯爵邸を発って――
わたしは――わたし、だけではありませんでした。わたしとバジル様は揃って驚きの声をあげ、おもわず顔を見合わせてしまいます。
なぜならば――
「では、ここにサインを」
「……………………。承知いたしました」
――教会にいたはずのわたし達はワズテイルズ邸内の応接室に居て、目の前にある大理石製のテーブルには婚約に関する書類が置かれていたのですから。
「……? 急にどうしたのだバジル。サインに、何か問題があるのか……?」
「……? シドニー……?」
「……この光景を、俺は知っている……。こいつは、もしかしなくても……! ちっ、父上! 今日は何日ですかっ!? それとっ、ランドラ―ズン暦は何年ですか!?」
「きょ、きょう……? 今日は、7月の15日だな……? ランドラ―ズン暦は、2421年、だな」
「2421年!! やっぱりそうだ!! 今は去年だ!! 去年の7月15日なんだ!!」
時間が巻き戻っている――。それを理解するやバジル様は立ち上がり、満面の笑みで右の拳を突き上げました。
「きょ、去年……? バジル……お前はなにを言っているんだ……? びょ、病院でも、行くか……?」
「その必要はありません!! 父上っ、この婚約は中止します!!」
「なんだって!? 中止にする!?」
「そうですっ、中止です! この件はまだ公にしていないのだからっ! 取り消しは可能ですよね!?」
「そ、それは可能だが……。さっきまで、あんなに喜んでいたじゃないか……。そもそも、この婚約はお前が言い出したことじゃないか……。なぜそんなことに、なるのだ……?」
「俺には真に愛すべき女性がいるんですよ!! この女は一番ではなくて――詳しい話はあとでしますよ! とにかくシドニーなんかと結婚するつもりはなくてっ、この話を白紙にしたいんですよっっ! 構いませんよね!?」
「……あ、ああ。構わんよ」
あの頃と違って一年経っておらず、なかったことにしても大きな悪影響は発生しません。ですので今回の要望はすぐさま認められ、バジル様は歓声をあげました。
「やった!! やったぞ!! 奇跡だ!! 奇跡が起きたっ!!」
「……これは……。やはり、一度病院で検査をするべきなのか……?」
「だからその必要はなくてっ、俺は正常なんですよ! 父上っ、真に愛する人は帰国して――今は去年だから彼女はまだ隣国フェローテに留学しているんですよ! すぐさま会いにいきましょ――ああそうだ」
勢いよく部屋を飛び出そうとしていたバジル様は、わたしへと視線を動かしました。
「よくやったぞシドニー! 褒めてやる!」
「い、痛み入ります」
「俺に貢献した褒美をやろうじゃないか!! 父上っ、格下だからと言って蔑ろにしてはいけません。白紙に関する慰謝料を弾んでやってください! 特別に相場の1・2倍与えてやりましょう!!」
「ぁ、ああ……。お前がそう言うのなら……。そうしよう……」
「そうしてください!! ああそうだシドニー! 1・2倍も弾んでやるんだ!! 伯爵夫人になれないからってしつこく付きまとうなよ? いいなっ?」
「心得ております」
「もしも反故にしたら、その時は容赦なく潰す。ゆめゆめ忘れるなよ」
そうして早口で釘を刺したバジル様は、今度こそ移動開始。当主様の手を引き、欣喜雀躍しながら部屋を去ってしまいました。
「…………………………なんなのだこれは…………一体なにが起きているのだ……? シドニー、お前は理解している、のだな……?」
「はい、理解しております。この件の詳細は、移動しながらお伝えします。お父様、わたし達も参りましょう」
婚約が白紙になった――。そちらを一秒でも早く伝えたい、伝えなければならない人がいます。
ですのでお父様と共に急いで馬車に乗り込み、訪れる時とは正反対。わたしは微笑みを浮かべながら、ワズテイルズ伯爵邸を発って――
897
お気に入りに追加
1,528
あなたにおすすめの小説
バイバイ、旦那様。【本編完結済】
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。
この作品はフィクションです。
作者独自の世界観です。ご了承ください。
7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。
申し訳ありません。大筋に変更はありません。
8/1 追加話を公開させていただきます。
リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。
調子に乗って書いてしまいました。
この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。
甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。
サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです
珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。
※全4話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる