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第8話 エルザ編 5日目 一緒と吉報と依頼 エルザ視点(3)
しおりを挟む「「いただきます」」
あの日はわたしもガバン殿もロラ殿も、用事で家にいなかった。折角なのだからソレも再現しておこう。お父様達はわざわざ外食をしてくださっていて、今日は私達2人だけ。私とユーゴさんは一緒に頷いて、夜のご飯が始まりました。
「まずは、主役のオムライスから。………………流石、エルザだね。卵はふわふわで、ケチャップライスの部分も美味しい。いいバランスだよ」
「ありがとうございます。ですが、ユーゴさんの切り方、炒め方のおかげでもありますよ。それに、ユーゴさんの卵だってふわふわ。優しい味がお口に広がってます」
食べる人の事を考えて、丁寧に作ってくれている。込められたものがよく分かる、温かくて柔らかなオムライスです。
「そっか、褒めてもらえて嬉しいよ。このオニオンスープ、サラダも美味しいね」
「ですねっ。ユーゴさんが洗ってくださったレタスはシャキシャキしていますし、オニオンの食感が良いアクセントなっています」
「……エルザのアドバイスが上手な上に、なによりエルザの想いがある。今の僕は、舌では愛を感じられるからね。どれもが格別だよ」
ユーゴさんは本当に幸せそうに目尻を下げてくださり、だからなのでしょう。非常にテンポよくお料理達が減っていって、あっという間に完食。もちろん私も想いは同じですから、こちらもあっという間にお皿が空っぽになりました。
「ごちそうさまでした。ユーゴさん、美味しく、楽しかったです」
「ごちそうさまでした。エルザ、僕もだよ。すごく美味しくて、すごく楽しかった」
指を使って行う微笑みに即微笑みが返ってきて、顔を綻ばせたまま食卓を今一度眺めるユーゴさん。彼はそのあとキッチンへと視線を動かし、目線はまた私へと戻ってきました。
「もうこんな時間は、この味は、共有できないと思っていた。こうしてまた共有できて、幸せだよ」
「私も、です。あの時間は、もう戻ってこないと思っていましたので。幸せで、夢のようで――ふぇっ。く、くしゅんっ」
夢のようです。そうお伝えしようとしていたら、くしゃみが出てしまいました。
「ご、ごめんなさいユーゴさん。もう……。今日のくしゃみは、意地悪です……」
「狙いすましたかのようなタイミングだったね。まさか、こんなところまで同じになるなんて。ビックリだよ」
実は初めてオムライスを作って食べた時も、こうやってくしゃみが出ていました。あの時は『大好きな人とのお料理はずっと憧れていて、夢のようです』と言いかけていて、『夢のようで――ふぇっ。く、くしゅんっ』となってたんですよね。
なので、前言は訂正です。
今日のではなく、今日も、くしゃみは意地悪。2度も邪魔をされてしまって――…………。あれ……? これって……。
「? エルザ?」
これは…………………………。やはり、そうです。そうです……っ!
「??? エルザ、急にどうしたの?」
「ユーゴさんっ! その出来事も――くしゃみのお話も、私達だけの秘密になっていましたっ」
つまりっ。
「つまりそれは、お父様もおじ様も知らない事。情報として得られない事。……ユーゴさんの記憶が、戻っています!!」
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