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第5話 エルザ編3日目 一昨日の続き エルザ視点(3)
しおりを挟む「頭ではまだ分からないけれど、舌でなら分かるんだ。紅茶の時よりも、はっきりと感じられるんだよ。君が向けてくれている愛と、僕が向けていた――今も心の奥では向け続けていた、君への愛を」
ユーゴさんは珍しく興奮気味に、予想外の言葉を紡いでくれました。
あの3回の行動は、違いを確かるためのもの。ごく僅かだけでも、感じてもらえるだけでも嬉しかったのに……っ。鮮明に、感じ取ってくださっていました……!
「エルザが淹れてくれたアールグレーで目覚め始め、エルザの手で食べさせてもらった事で蘇ったのだと思う。僕を想って紅茶を用意してくれていたし、さっきはわざわざマドレーヌを取りに行ってくれた。そんな君のおかげだよ」
「ユーゴさん、それだけではありません。私がそうしたくなるくらい想い愛してくださっていた、貴方のおかげでもありますよ」
ウィリアム様と過ごし、嫌というほど理解しました。
愛というものは、一方通行では意味がありません。両想いになって、大きな大きな力を発揮するんですよね。
「私達が一緒なら、何だって出来そうな気がします――いいえ。出来そうではなくて、絶対に出来ますよ……!」
「そうだね、僕もそう確信してる。一歩一歩前へと進んでいくこの足取りは、今日限りではない。傍にエルザが居てくれのならば、次もその次も続いてゆく。君に会うたびに大きく前進して、ゴールに到達できるよ」
ユーゴさんは力強く頷いてくださり、自信が満ちた目で見つめてくださいます。そしてお顔を綻ばせ――かけた、その時でした。緩んでいた顔が、再び歪みました。
「ユーゴさんっ! 大丈夫ですかっ!?」
「……ぁぁ、なにも問題はないよ。苦痛の原因は、一昨日と同じく頭の痛み。僕らにとっては、有難い痛みだからね」
激しい頭痛は、回復の過程で発生してゆくもの。仰る通り有難い、ご本人にとっては大変ではあるのですが、関係者全員が熱望している痛みです。
「今回のソレは前回よりも大きく、こういった面でも前進していると分かる。痛みが発生したら、念のため安静にしなければならないけれど――。痛みが来てくれて、嬉しいよ」
「ええ、そうですね。でしたら、ユーゴさん」
「うん、ごめんね。今日はここまでになってしまう。でも、その前に」
ユーゴさんはテーブルにあったマドレーヌを手に取り、ぁ……っ。少し膝を曲げて高さを合わせ、こちらへと差し出してくれました。
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