その後２人を待っていたのは、正反対の人生でした

第１話 ウィリアム編１日目 訪れる、１つ目の異変 俯瞰視点（１）

「…………この屋敷からアイツが消えても、なんとも感じはしない。なぜオレは何か月間も、あんな女に夢中になっていたのだろうか」

　エルザ・セルメントが馬車に乗り込み、去った直後のことでした。わざわざ設けられた専用の執務室でコーヒーを飲んでいたウィリアムは、大きく呆れの息を吐きだしました。

「美点長所の数はメリッサの半分にも満たない、圧倒的に魅力不足な女。おまけに、無表情。あれしきの出来事・・・・・・・・で表情を失ってしまう、もろい女。我ながら、理解に苦しむ感情だったな」

　高い金を出して数々の工作を行い、細心の注意を払わせてユーゴ・フェルスタを襲わせる。
　どう考えても、あの女・エルザにそれだけの価値はない。だが、そうしてしまった。手元に置きたい・・・・・・・と熱望し、実際に９か月間置いていた。このまま支配を続けるつもりだった。

「…………………………。実に不思議だ」

　ウィリアムは引き続きあまりにも自分勝手な言い分を思い、口に出し、ブラックコーヒーを飲み干して――つまらない話題は、ここでお仕舞い。エルザに関する内容は全て頭から追い出し、ここからは脳内がメリッサ・ソレス真の運命の相手で染まります。

「今日晴れて・・・婚約破棄となり、数日中にはオレは被害者という認識が広がる。となると…………婚約発表は、７～８か月後には可能となって――この辺りには、できそうだな」

　あまりに期間が短いと、よからぬ噂を立てる愚者が出てくる――。そういった警戒心はありますが、今の彼はとにかくメリッサとの関係を公にしたい。
　そのため色々と計算を行い、机上にある卓上カレンダーに赤丸をつけました。

「婚約発表は、その前後で確定。次は、同棲について。ココへは、いつ呼ぶとしようか……」

　同棲は、内密に行えばいつでも可能となる行為です。しかしながら現在真の愛しの人は、今日から６日間この国にはいない――嫁いだ姉の出産を支えるべく、母親と共に隣国へ行っています。
　ウィリアムとメリッサは、恋人になったばかり。彼としては即座に予定をキャンセルさせたかったのですが、姉の嫁ぎ先は他国の侯爵家なため手荒な真似はできません。ですので仕方なく、本当に仕方なく、見送っていたのです。

「帰国するのは、夜になると言っていたな。……どんなに遅くなっても、メリッサは馬車に乗っていただけ。そこから動かしても問題はないな」

　彼はいつものように自己中心的な理屈を並べ、８月８日――今日から６日後となる部分に丸印をつけました。そして続いて、その日のそのあとの事を考え――ようとしていた、時でした。

「ぐぁあっ!?」

　突如。彼を、異変が襲い始めるのでした。