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第3話 必然と偶然の出会い リリアーヌ視点(2)
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「………………妹さんを苦しめていた呪いは、全部消しました。今はまだ眠ったままですけど、妹さんはすぐに目を覚まして元気に――かふっ!?」
一度目の解呪を終えて、ニッコリ笑っている時でした。突然身体の中心に激痛が走り、わたしは大量の血を吐き出してしまったのでした。
「聖女様っ!?」
「「「「リリアーヌ様っ!?」」」」」
「………………大丈、夫……。大丈夫です……。原因は、分かっています……。呪いを消す力を使った……負担がかかった、だけです……。命に別状はありませんので、安心、してください……」
わたしの力は、この国とこの国の民を護る力。そのため異国の民には対応しておらず、無理やり『異国用』に変換したことにより激しい負荷がかかっていたのです。
「はぁ、はぁ、はぁ……。………………血が出てしまいましたが、見た目ほど危険な状態では、ないんです……。ですから……できます。次は、お兄さんの番です」
聖女の力によってこの肉体は、物理的な攻撃や魔法魔術的な攻撃だけではなく、病気でさえも無効化できてしまえるほどに強くなっています。ですので常人なら即死してしまうこのダメージも、わたしの場合は寿命が1か月程度縮まる程度で済みます。
合計2か月で2人の命を救えるなら、安いもの。わたしは口元の血液を拭い、お兄さんに近づいていって――
「いえ、僕は遠慮しておきます。聖女様にこれ以上ご無理はさせられません」
――お兄さんは、大きく首を振ったのでした。
笑顔で。
「どんなお医者様を頼っても、妹と僕の異変の原因が分からなかったんです。……全員がもう諦めていて、ここに来たのは最後の希望だったんです。聖女様のお姿を直接見たら聖女の力で治るんじゃないかなって、一か八かで列に並んでいたんですよ」
「……………………」
「奇跡が起これば治るかもしれない。その奇跡が本当に起きてくれたんです。大事な妹が助かったんです。……もう充分すぎるものをもらっていて、これ以上望んだら罰が当たっちゃいますよ」
だから、自分は治してもらわなくていい。
解呪しないと死んでしまうのに……。妹さんほどでないとはいえ、今も相当辛いはずなのに……。
変わらず笑顔で。本心で。
その時お兄さんは、そう言ったんです。
「ありがとうございます。大切な家族が助かって、僕は本当に幸せです。このご恩は一生忘れません」
そしてそう続けて、去る準備を始めたんです。
だから――。
わたしは、迷わずこうしました。
「ちょうど周りに他の人がいなくて、よかったです」
「な!? 聖女様っ!?」
解呪、発動。
再び聖女の力を使い、お兄さんの身体から呪いを消し去ったのでした。
「ぐ………………かはっ!! はぁ、はぁ、はぁ……。はぁ……」
「そんな……! どうして……」
「…………勝手なことをして、ごめんなさい。……お兄さんはすごく優しい人だから、どうしても死んで欲しくなかったんです」
呪いを解かないと自分が死んでしまう状況なのに、わたしの身体を案じてくれた。こんなことを本心、本音で出来てしまえる人に出会ったのは、初めてでした。
そんな珍しい、とってもとっても温かな人。
お兄さんにはずっと元気でいて欲しいので、自分勝手なことをさせてもらいました。
「……わたしのせいで嫌な思いをさせて、ごめんなさい。妹さんと一緒に、お幸せに。時間が来たので、もう失礼しますね。お元気で」
連続の使用により立っていられなくなっていて、でもここで倒れたら余計に気を遣わせてしまう。ですのでわたしはすぐさま踵を返し、
「ありがとうございます……! ありがとうございます……!! このご恩は一生忘れません……!! どうかお元気で……!!」
大きな涙声を背中で聞きながら馬車に戻り、ホッとした瞬間意識を失ってしまったのでした――。
それがあの日生まれた、短くも大きな思い出。
その日出会った男の子、お兄さんの存在は、ずっとわたしの心の中にあり続けていて――
一度目の解呪を終えて、ニッコリ笑っている時でした。突然身体の中心に激痛が走り、わたしは大量の血を吐き出してしまったのでした。
「聖女様っ!?」
「「「「リリアーヌ様っ!?」」」」」
「………………大丈、夫……。大丈夫です……。原因は、分かっています……。呪いを消す力を使った……負担がかかった、だけです……。命に別状はありませんので、安心、してください……」
わたしの力は、この国とこの国の民を護る力。そのため異国の民には対応しておらず、無理やり『異国用』に変換したことにより激しい負荷がかかっていたのです。
「はぁ、はぁ、はぁ……。………………血が出てしまいましたが、見た目ほど危険な状態では、ないんです……。ですから……できます。次は、お兄さんの番です」
聖女の力によってこの肉体は、物理的な攻撃や魔法魔術的な攻撃だけではなく、病気でさえも無効化できてしまえるほどに強くなっています。ですので常人なら即死してしまうこのダメージも、わたしの場合は寿命が1か月程度縮まる程度で済みます。
合計2か月で2人の命を救えるなら、安いもの。わたしは口元の血液を拭い、お兄さんに近づいていって――
「いえ、僕は遠慮しておきます。聖女様にこれ以上ご無理はさせられません」
――お兄さんは、大きく首を振ったのでした。
笑顔で。
「どんなお医者様を頼っても、妹と僕の異変の原因が分からなかったんです。……全員がもう諦めていて、ここに来たのは最後の希望だったんです。聖女様のお姿を直接見たら聖女の力で治るんじゃないかなって、一か八かで列に並んでいたんですよ」
「……………………」
「奇跡が起これば治るかもしれない。その奇跡が本当に起きてくれたんです。大事な妹が助かったんです。……もう充分すぎるものをもらっていて、これ以上望んだら罰が当たっちゃいますよ」
だから、自分は治してもらわなくていい。
解呪しないと死んでしまうのに……。妹さんほどでないとはいえ、今も相当辛いはずなのに……。
変わらず笑顔で。本心で。
その時お兄さんは、そう言ったんです。
「ありがとうございます。大切な家族が助かって、僕は本当に幸せです。このご恩は一生忘れません」
そしてそう続けて、去る準備を始めたんです。
だから――。
わたしは、迷わずこうしました。
「ちょうど周りに他の人がいなくて、よかったです」
「な!? 聖女様っ!?」
解呪、発動。
再び聖女の力を使い、お兄さんの身体から呪いを消し去ったのでした。
「ぐ………………かはっ!! はぁ、はぁ、はぁ……。はぁ……」
「そんな……! どうして……」
「…………勝手なことをして、ごめんなさい。……お兄さんはすごく優しい人だから、どうしても死んで欲しくなかったんです」
呪いを解かないと自分が死んでしまう状況なのに、わたしの身体を案じてくれた。こんなことを本心、本音で出来てしまえる人に出会ったのは、初めてでした。
そんな珍しい、とってもとっても温かな人。
お兄さんにはずっと元気でいて欲しいので、自分勝手なことをさせてもらいました。
「……わたしのせいで嫌な思いをさせて、ごめんなさい。妹さんと一緒に、お幸せに。時間が来たので、もう失礼しますね。お元気で」
連続の使用により立っていられなくなっていて、でもここで倒れたら余計に気を遣わせてしまう。ですのでわたしはすぐさま踵を返し、
「ありがとうございます……! ありがとうございます……!! このご恩は一生忘れません……!! どうかお元気で……!!」
大きな涙声を背中で聞きながら馬車に戻り、ホッとした瞬間意識を失ってしまったのでした――。
それがあの日生まれた、短くも大きな思い出。
その日出会った男の子、お兄さんの存在は、ずっとわたしの心の中にあり続けていて――
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