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第6話 目覚めて エリーズ視点(1)

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「…………あ、れ……? けしき、が、みえる……。ここは、あの場所でな――っ!? 申し訳ございません!!」

 意識が覚醒したわたしは、状況を理解するや大声で謝りながら急いで離れました。
 なぜならばいつの間にか、アンリ様に膝枕をされていたからです。

「最初は僕の肩にもたれかかっていたのですが、段々とずり落ちていったのですよ。起こそうとか思いましたがあまりに気持ちよさそうに眠られてましたから、膝を使っていただくことにしました」
「わたしったらなんてことを……。申し訳ございません……!」
「お気になさらないでください。この状況下で眠ってもらえて、とても嬉しかったですから」

 特に貴族は、異性に対して様々な注意を払っています。そんな中で通常は信じられない行動を、わたしが取った。
 それをアンリ様は、心から喜ばれていました。

「記憶は戻らなくても、本能で徐々に理解してもらえているのかな? そう思って、僕自身も幸せを感じていましたよ」
「そう仰っていただけると、助かります……。長々と失礼致しました」

 お父様から借りている懐中時計を確認してみたら、1時間近く経過していました。そんなにも長い間ひとりにしてしまったことに含め改めて謝罪を行い、ひとつ、確認をしてみることにしました。

「? エリーズ様? 僕の顔に何かついていますか?」
「い、いえ、そうではないのです。わたしについて、なのですが……」
「エリーズ様に、ついて? どうかされましたか?」
「……わたしはリリアン、なのですよね?」

 眠っている間に、不思議な体験をしたこと――。
 ほぼ間違いなくロジェさんとリリアンの結婚式を追憶? した件。その時に感じた喜びなどによって、わたし=リリアンだと感じるようになった件。その直後に『リリアンなんかじゃない』という無機質な声が響き渡った件。
 それらをお伝えしました。

「あのような出来事は、わたしがリリアンでなければ起こり得ないものだと思います。ですが、あの言葉が気になるのです。……アンリ様の勘違い、ではないのですよね?」
「ええ、勘違いはあり得ないと断言できます」

 言下。一切の迷いなく、即答されました。

「エリーズ様とサンフォエル様の姿を見ていたらロジェの声が響いてきて、そのあとリリアンさんとエリーズ様の姿が重なりました。もし勘違いだとするのなら、エリーズ様とサンフォエル様の行動に前世の記憶が反応しないと思います」
「……そう、ですよね」
「そして、もうひとつ。エリーズ様がリリアンさんでないのなら、一週間前にあのような変化は見られないはずですよ」
「そう、ですよね」

 ロジェ様の部分が、他人に反応するとは思えません。
 ということは、やっぱり……。わたしはリリアン、なのですよね。
 だとしたら――


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