断罪寸前の悪役令嬢になってしまいました

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
27 / 33

第13話 タチアナのその後 俯瞰視点

しおりを挟む
「……時間だ。出ろ」

 ロズリーヌの身体が元に戻った日から、およそ二週間後の火曜日。牢屋にいるタチアナのもとに、執行関係者の男が現れました。

 ――囚人と化した婚約者をギロチンの前まで連れて行くことによって、関係性を完全に絶つ。この国にはそういった貴族向けの『新たな婚約を結びやすくする』ための儀式が存在していて、その目的でこの方は目の前にいらっしゃるそうです。――。

 ここローランズにはそういった決まりがありましたが、これまでの行動によってオディロンに関する縁が絶たれているのは明白。彼自身も二度と関わりたくないと考えており、別人が担当することとなりました。

「い、いや……。出たくない……。死にたく、ない……。死ぬのは、いや……!」
「僻んでいた人間を殺そうとした。その件に関与した者の口封じを命じた。他者はよくて自分は駄目とはな。どこまでも無様を重ねる生き物だ」
「ね、ねえ! 大金を欲しくない!? 貴重な物を欲しくない!? わたくしを逃がしてくれたらっ、欲しい物を何でもあげるわ!! お願い! ここから逃がして!!」
「なんでもあげる? 笑止。貴様には――貴様の家族にも、そのような力はとおになくなっている」

 長女の他貴族への殺人未遂と殺人と、当主主導による他国の人間への醜悪な行い。特に後者は国家間の問題に発展するため大騒動となっており、『ルレーラ侯爵家』の消滅が決まっていました。
 タチアナは知らなかっただけで、すでに彼女があると思っているものはなくなっていたのです。

「そ、んな……。うそ、よ……」
「嘘だと言いたいのは、ルレーラ家の領民達や陛下達だ。貴様は――貴様らは、とんでもないことをしてくれた」

 吐き捨てるように言の葉を紡ぎ、このやり取りをしているうちに移動を始める時間となりました。そのため男はタチアナの髪の毛を掴んで無理やり立ち上がらせ、そのまま牢屋から引きずり出しました。

「やめてぇええええ!! いきたくないい!! やめてえええええええ!!」
「貴様は自ら、こうされる状況を作ってしまった。自業自得だ」

「違うぅぅぅぅ!! ゼナイドだって悪いぃぃぃぃぃ!! ゼナイドが苛立たさせなかったらなにもしていないぃぃぃぃぃ!! こっちだって被害者なのぉぉおおお!!」

 そんな言い分が通じるはずがありません。タチアナを引きずる男の動きが止まることはなく、抵抗を続けるも執行場へと到着してしまいました。

「はっ、反省してます!! ゼナイド様っ、ごめんなさい!! 殺してしまった人達っ、ごめんなさい!! ロズリーヌ様っ、ごめんなさい!! 反省しているからっ、許してええええええ!!」
「……見苦しい」

 この状況下での謝罪は、本心でないと明白。いわずもがな急遽温情が与えられるはずはなく、タチアナの身体はギロチンの下で固定されてしまいました。
 そして――

「いやあああああああああああ!! いやあああああああああああああ!! だれかぁああああああ!! たすけてえええええええええええええええええええええ!!」
「貴様には、この世界の空気を消費する資格すらない。人生の終焉だ」
「いやだぁあああああああああああああ!! たすけええええええええええ!! しにたくなぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 建物の外まで響くほどの大絶叫が轟き、以降――


 タチアナの声が聞こえてくることは、二度となかったのでした。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして

犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。 王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。 失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり… この薔薇を育てた人は!?

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

公爵さま、私が本物です!

水川サキ
恋愛
将来結婚しよう、と約束したナスカ伯爵家の令嬢フローラとアストリウス公爵家の若き当主セオドア。 しかし、父である伯爵は後妻の娘であるマギーを公爵家に嫁がせたいあまり、フローラと入れ替えさせる。 フローラはマギーとなり、呪術師によって自分の本当の名を口にできなくなる。 マギーとなったフローラは使用人の姿で屋根裏部屋に閉じ込められ、フローラになったマギーは美しいドレス姿で公爵家に嫁ぐ。 フローラは胸中で必死に訴える。 「お願い、気づいて! 公爵さま、私が本物のフローラです!」 ※設定ゆるゆるご都合主義

お粗末な断罪シナリオ!これって誰が考えたの?!

haru.
恋愛
双子の兄弟王子として育ってきた。 それぞれ婚約者もいてどちらも王位にはさほど興味はなく兄弟仲も悪くなかった。 それなのに弟は何故か、ありもしない断罪を兄にした挙げ句国外追放を宣言した。 兄の婚約者を抱き締めながら... お粗末に思えた断罪のシナリオだったけどその裏にあった思惑とは一体...

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処理中です...