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第6話 包囲網 ロズリーヌ視点(2)

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「昨日から『ラックローズ』という宿に居る。という連絡が、たった今入ったのだよ!」

 2日目の聞き込みに出る支度をオディロン様と共にしていたら、お父様が声を上擦らせながらいらっしゃりました。
 この情報をくださったのは、アンナさんのご友人。なんとご子息がそちらのスタッフさんのひとりで、早朝のお散歩のついでに会いに行ったら『知っている!』とのお返事があったそうです。

「場所が特定できれば、あとは捕らえるだけ。よかったな、ロズリーヌ!」

 喜ぶのはまだ尚早だが――。お父様はそんな前置きをして、わたしの両肩に力強く手を置きました。

「よい報告があると、信じておりました。皆様のおかげです」
「ではぬか喜びとならぬよう、動き出しましょう。捕獲に関しては、こちらにお任せください」

 オディロン様のゼスルッズ家は、侯爵家。立場上その手のこと・・・・・・に対応する機会は多く、セオリーなどを熟知されているそうです。

「まずは街の出入り口に味方を配置して出入口を塞ぎ、その上で宿屋周辺に包囲網を張ります。あとは然るべきタイミングで突入すれば、タチアナは抵抗する間もなく身柄を拘束されます」

 オディロン様は指揮の経験があり、援軍として来てくださった方々も実行経験がおあり。なんと、これまで失敗したことはないそうです。

「唯一の懸念が、自棄による自害。片方が死んだ場合は、どうなってしまうのか分かりませんからね。動く隙を与えません」
「……わたしは生きていて、タチアナさんは死んでいる。それにより元に戻ればいいのですが、そうでなかったら大変なことになりますもんね……」

 入れ替わりが元に戻ったらタチアナさんを牢屋に連れ戻すだけで解決しますが、そうできないなら議論の余地を生まないといけません。あちらが死んでいたら喋ることができなくて、そうなると余地は生まれなくなるでしょう。

「そんなことになったら、わたしだけではなく、オディロン様とヴァレール様にも大変なことが起きてしまいます。よろしく、お願いいたします」
「任せておいてください。……そちらに関してなのですが。ロズリーヌ様はこちらで待機していただきたいと思っております」
「しょ、承知いたしました。ちなみに、どういった理由がおありなのでしょうか……?」

 もちろんこれは、不満があってのものではありません。予想がつかず、質問させていただきました。

「到着直前の、タチアナの逃走。タイミングを考えると、タチアナの方はロズリーヌ様の接近を――自分の肉体の接近を察知できる可能性があります。また同じような流れになったら面倒ですからね、不穏な芽を摘んでおきたいのですよ」
「そういえば、その可能性がありました。さすがでございます」

 すっかり頭から抜け落ちていました。仰る通りです。

「では、行ってまいります。この場に戻ってくる時は、一緒に吉報を持ってまいります。どうぞお楽しみに」
「「「よろしくお願い致します」」」

 お父様、お母様、わたし。3人で深々と背を折り、オディロン様をお見送りしたのでした。

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