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第2話 移動中に ロズリーヌ視点(2)

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「タチアナさんに薬を盛られた方、ワフェルズ様と仰っていましたよね? その方の容態は、いかがなのでしょうか?」

『え!? ロズリーヌ様は薬学の勉強もされているのですか!?』
『そうなんです。尊敬する父が「処方と調合も自分で出来たらスムーズに対処できる」という理由で薬剤師の資格も取得していて、並行して勉強中なんです』

『父は相当苦労したと思いますが、わたしは父から知識を教わることができます。おかげで大分楽に学べているんですよ』

 といったやり取りをしていて、あのお話を思い出しました。
 国が違えばアプローチの仕方も違ってきます。もし優れないようならお手伝いできることがあるかもしれないのですが、どうなのでしょうか……?

「意識は回復しましたが、芳しくはないようですね。眩暈による歩行障害と味覚障害に苦しんでいるそうです」
「眩暈と味覚……。もしかして使用されたのは、レノロール草の粉末ですか?」
「は、はい。それだけで特定できてしまえるなんて。さすがですね」
「レノロール草は使い方次第で毒にも薬にもなるので、勉強中のわたしでもよく知っているんですよ。だとすると、わたし如きでは力になることはできませんが――。祖国のふたつ西側の隣国『サレアテル』の北部『ロークランド』にいらっしゃる、ロックス・カージェルという薬師を頼ってみるといいかもしれません」

 その方はお父様の古いお知り合いで、普段は山にこもり、自生している天然の材料だけを使った薬の研究と開発をされています。そのためレノロール草にも非常に詳しく、詳しいのなら何かしらの解決方法をご存じかもしれません。

「ロックス・カージェル様……」
「ご自身のお考えもあって表舞台に出ることはなく知名度もありませんが、父が実力は確かだと言っていました。この件が落ち着いたら父に連絡を取ってもらいますね」

 医学に携わる者としては、放っておけない問題ですからね。出来る限りのお手伝いをさせててもらいます。

「本来は即座に動き出すべきなのですが、こちらにはタイムリミットがあります。ワフェルズ様、申し訳ありません。優先させていただきます」
「………………。貴方様は……」
「? どうかされましたか?」
「い、いえ、なんでもありません。……俺としても、どうにかしたい問題でした。ご助力感謝いたします」
「少しでも恩返しができて、嬉しいです」

 ゼスルッズ様はずっと、関係者の不祥事に責任を感じていていらっしゃったそう。恩人様のお役に立てて、幸せです。

「恩だなんて。貴方様は被害者なのですからね、今後もお気になさらないでください」
「承知いたしました」

 本心で仰ってくださっていて、遠慮するのは失礼に当たります。ですのでそうさせていただくようにして、その後もお喋りをさせていただいて――

 おかげさまで、ずっと心穏やかな時間を過ごせました。

 ヴァレール様からいただいた何かを国境で見せて上手く抜け、祖国に入って更に進む。全2日間の移動中に一度も不安になることはなく、わたしはやがて平常心を保ったままで、生家であるお屋敷の門前に辿り着いたのでした。

「ロズリーヌ様」
「はいっ」

 ですので、わたし達は――



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