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第1話 タチアナ? ロズリーヌ視点(1)

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「なにをやっている? 立ち止まるな。早く歩け」
「…………あ、あの――なっ!? この声は――身体も!? どうなっているのですのか……!?」

 現状をまったく理解できず、そちらを把握しようと声を出しました。そうしたら別人の声が出てきて唖然となり、喉を抑えようとしていると身体も服装も別人になっていることに気付いたのです。

「? なんだ……? なにを言って……?」
「わ、わたしはタチアナではなく、ロズリーヌ――ロズリーヌ・サンドローブと申します。気が付くとここにいて、別人になっていたのです……」
「……そうか、そうやって死刑を回避するつもりか。どこかでも見苦しい……!」
「違います! 本当なのです! わたしはタチアナではなくてっ、ロズリーヌなのです!」

 歳は20。サンドローブ子爵家の次男の娘。駆け出しの医者。
 朝6時に起きて朝食を食べて、午前10時まで勉強をして訪問診療に出て、午後4時にお屋敷に戻って来て、湯浴みをして食堂で母親とお喋りをしていたら突然意識がなくなって、意識が回復したらこうなっていた。
 直近の出来事、紛れもない事実を説明しました。

「反省せずに、設定作りに励んでいただなんて……。どこまでも救えない」
「設定ではありませんっ! そ、その証拠をお出しますっ!!」

 わたしは国に認められている医者で、医学の知識があります。11年間蓄えてきたものの一部を、早口で伝えました。

「他にも答えられることは沢山ございます!! なんでも質問をしてください!!」
「………………タチアナは、医学の知識なんてなかった……。いや、収監をされてから今日まで2か月あった……。書物を渡せる内通者がいて……その間に死に物狂いになって覚えれば、スラスラ語ることも可能、ではあるが……。よくよく考えてみたら……。最初の反応は、演技とは思えない……」
「あ、あの……?」

 小声になってしまい、聞き取ることができません。
 信じていただけている……? それとも、信じていただけていない……?

「……まさか、本当に……? バカな、有り得ない……。しかし……。これは……」
「え、えっと……?」
「……もし事実なら、無視はできない……。なにか、別の方法で……。把握できる方法があれば――……。そういえば、そうだったな……」
「あ、あの……?」
「………………。猫のニムール」

 …………。え……?

「? ねこの、ニムール? それはいったい、どういう……?」
「………………鳥肌は、立っていない。加えて、その反応……。信じられない、が……。お前は――いえ、貴方様は……。本当に、タチアナではないのですね」
「っ!? はっ、はい! タチアナという方ではありません!! わたしはロズリーヌっ、ロズリーヌ・サンドローブですっ!」

 美男さんの目から『侮蔑』の色が消え、その代わりに驚愕一色になりました。
 よかった……! よく分かりませんが、別人だと信じていただけたみたいです……!


 
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