上 下
20 / 42

第8話 借金の理由~過程~ 俯瞰視点

しおりを挟む
「っっ、あのクソじじいめ……っ! つくづく邪魔な奴だ……っっ!」

 あの日――父ロバンが祖父キリルのもとから帰ってきた、その直後のこと。良い返事をもらえなかったと知ったケヴィンは、目の前にある――父の執務室にあるデスクに、右の拳を叩きつけていました。

「わざわざエマに手紙を書いて、反省している姿を見せてきたっていうのに……っ。頑固なじじいだ……!」
「まったくだ……っ。些細なミス・・・・・をいつまでも責める、人の成長を妨げる厄介な男だよ……!」

 ケヴィンもロバンも、愚かな人間。非常識人にとって、常識人の正しい意見は非常識な発言。
 2人は自らの行動を棚に上げ、口汚く何度も罵りました。

「くそ……っ。これじゃあ、いつまで経ってもリナスが欲しがっていたアレを買ってやれない……っ。…………奥の手を、使うか……」
「おくの、て……? お前は、何を考えているんだ……?」
「ああいった資産運用に頼っていたら、現金化に時間がかかりすぎる。だから、株に手を出すことにする」

 このやり方なら、早く勝負をつけられる――短期間で、利益を上げることができます。そのためケヴィンは以前から目をつけており、今日実行を決意しました。

「ま、待て待てっ。お前はもう数万しか手持ちがないのだろう? 家からの資金援助はできないのに、どうやって株を売買するつもりなんだ?」
「……軍資金は、借金で調達する。3千万ルピスを借りるつもりだ」

 現在家の名前は使うことができず、同時に、家の名に傷をつけかねない行動も取れません。そこで個人的に、貴族仲間ではなく、高利貸しと取引。とある条件と引き換えに、特別に年利5パーセントで高額の融資を受けられることになっていたのです。

「ケヴィンよ……。本当に、大丈夫なのか……? 上手くいくのか……?」
「父さん、俺は何千万もの利益を生み出してきた男だ。成功は間違いないさ」

 そうして勝利を確信し、自信満々で動き出したケヴィン、でしたが――。


「ちっ、57万ルピスの損失か……。まあ、勉強代としておこう」

「くっ……っ。146万の損……。また負けか……」

「ぐ……。合わせて、245万が消えた……。こ、今度こそ取り戻す……!」


 連戦連敗。慣れない畑で大きな敗北を繰り返し、僅か3か月後で軍資金は0に。
 ケヴィンは、リナスが知らない間に――確実に稼いでいると確信し、お茶会を愉しんでいる間に、取り返しのつかない状況を作ってしまっていたのです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

利用されるだけの人生に、さよならを。

ふまさ
恋愛
 公爵令嬢のアラーナは、婚約者である第一王子のエイベルと、実妹のアヴリルの不貞行為を目撃してしまう。けれど二人は悪びれるどころか、平然としている。どころか二人の仲は、アラーナの両親も承知していた。  アラーナの努力は、全てアヴリルのためだった。それを理解してしまったアラーナは、糸が切れたように、頑張れなくなってしまう。でも、頑張れないアラーナに、居場所はない。  アラーナは自害を決意し、実行する。だが、それを知った家族の反応は、残酷なものだった。  ──しかし。  運命の歯車は確実に、ゆっくりと、狂っていく。

【連載版】「すまない」で済まされた令嬢の数奇な運命

玉響なつめ
恋愛
アナ・ベイア子爵令嬢はごくごく普通の貴族令嬢だ。 彼女は短期間で二度の婚約解消を経験した結果、世間から「傷物令嬢」と呼ばれる悲劇の女性であった。 「すまない」 そう言って彼らはアナを前に悲痛な顔をして別れを切り出す。 アナの方が辛いのに。 婚約解消を告げられて自己肯定感が落ちていた令嬢が、周りから大事にされて気がついたら愛されていたよくあるお話。 ※こちらは2024/01/21に出した短編を長編化したものです ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています

【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」  申し訳なさそうに眉を下げながら。  でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、 「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」  別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。  獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。 『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』 『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』  ――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。  だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。  夫であるジョイを愛しているから。  必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。  アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。  顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。  夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。 

処理中です...