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第2話 真の姿 エマ&リナス視点
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『当主殿、この度は迷惑をかけてしまいましたな。こちらは感謝の気持ちとなります故、どうぞお受け取りくだされ』
『いやぁ、エマ君が話の分かる人間でよかった! 誰にだって、間違いはあるからな。スムーズに進んで一安心だ』
ランドル家邸内でロバンおじ様から謝罪ではなく感謝という名目でお詫びの金を渡され、まるで他人事のように満面の笑みを向けられる。そして帰路で、とある方から丁寧な謝罪を受けたあとのこと。自室に戻って紅茶を飲んでいた私は、ある日の出来事を思い出していた。
「……私とケヴィンが、婚約の報告を行った時……。ほんの一瞬だけ、リナス・ファスルの目の色が変わった」
お淑やかで、気弱。清廉潔白な印象を放つ、掛け値なしの美少女。そのおっとりとしたタレ目に、まるでタチの悪いハイエナのような――。狡猾で攻撃的な色が宿った。
「おじ様もケヴィンも、誰かが少しでもリナスの悪口を言うと怒り出す。だから言えなかったのだけれど」
彼女は、清廉潔白なんかじゃない。
あれは皮を被っているだけで、その本性は恐らく――
〇〇
「ふふっ、ふふふふふっ。上手くいったわ」
ケヴィンお兄様が帰ったあとのこと。自室で紅茶を飲んでいたわたしは、彼の言葉とその時の表情を思い出して含み笑っていた。
『無事、エマとの婚約を解消できることになった! 君と婚約、結婚をできるようになったんだよっ!』
幼い頃からじわじわと関係を深めていって、でも――。『妹』から『異性』へと認識を変えさせようとしていると、余計な女に目が眩んでしまったケヴィン。
少しだけ焦ったものの、軌道の修正は無事に成功。予定通りわたしの婚約者となり、結婚が確定的となった。
「これでわたしは、次期侯爵夫人。数ランクアップした毎日を過ごせるようになったわ」
はっきり言ってわたしは、あの人にはまったく興味がない。興味があるのは、あの人の地位と財のみ。
侯爵夫人になればお茶会でもペコペコせずに済むし、今と違って好きなものを自由に変える。あの男は、そのための道具にすぎないのよね。
「あ~あ、早く式の日が来ないかな。一日も早く、侯爵家の一員になりた――」
「リナス……。もうやめてくれ……」「もう、やめて頂戴……」
早くなりたいと考えていたら、部屋の扉が開いてパパとママがやって来た。
「侯爵家の人間を利用しようとしている、それが露見してしまえば……。我々ファスル家は大変な目に遭ってしまう……」
「お願いよ、リナス……。そういうことは、やめて……」
「嫌よ。わたしはもっと上質な人生を送りたいの。……パパもママも、しつこいわよ。これ以上繰り返すなら、あの件を暴露するからね」
そう言うと2人は顔を真っ青にして、即座にその場から消えた。
2人は汚職をしていて、わたしはその証拠を握っている。実際に暴露したら、子どもであるわたしも困るけど――パパとママは、も~っと困ってしまう。だからこれがある限り、2人は逆らえない。ずっと、わたしの手足となるのよね。
「せっかく、蒔いた種が実をつけたんだもの。止めるはずないでしょ」
パパとママが居た場所に呆れの息を吐き、窓の外を眺める。そしてその方向に投げキッスをして、わたしはニヤリと口元を緩めるのだった。
「3か月後から始まる新婚生活が、楽しみだわ。これからたっぷりと甘い汁を吸わせてもらうわよ、ケヴィンお兄様」
『いやぁ、エマ君が話の分かる人間でよかった! 誰にだって、間違いはあるからな。スムーズに進んで一安心だ』
ランドル家邸内でロバンおじ様から謝罪ではなく感謝という名目でお詫びの金を渡され、まるで他人事のように満面の笑みを向けられる。そして帰路で、とある方から丁寧な謝罪を受けたあとのこと。自室に戻って紅茶を飲んでいた私は、ある日の出来事を思い出していた。
「……私とケヴィンが、婚約の報告を行った時……。ほんの一瞬だけ、リナス・ファスルの目の色が変わった」
お淑やかで、気弱。清廉潔白な印象を放つ、掛け値なしの美少女。そのおっとりとしたタレ目に、まるでタチの悪いハイエナのような――。狡猾で攻撃的な色が宿った。
「おじ様もケヴィンも、誰かが少しでもリナスの悪口を言うと怒り出す。だから言えなかったのだけれど」
彼女は、清廉潔白なんかじゃない。
あれは皮を被っているだけで、その本性は恐らく――
〇〇
「ふふっ、ふふふふふっ。上手くいったわ」
ケヴィンお兄様が帰ったあとのこと。自室で紅茶を飲んでいたわたしは、彼の言葉とその時の表情を思い出して含み笑っていた。
『無事、エマとの婚約を解消できることになった! 君と婚約、結婚をできるようになったんだよっ!』
幼い頃からじわじわと関係を深めていって、でも――。『妹』から『異性』へと認識を変えさせようとしていると、余計な女に目が眩んでしまったケヴィン。
少しだけ焦ったものの、軌道の修正は無事に成功。予定通りわたしの婚約者となり、結婚が確定的となった。
「これでわたしは、次期侯爵夫人。数ランクアップした毎日を過ごせるようになったわ」
はっきり言ってわたしは、あの人にはまったく興味がない。興味があるのは、あの人の地位と財のみ。
侯爵夫人になればお茶会でもペコペコせずに済むし、今と違って好きなものを自由に変える。あの男は、そのための道具にすぎないのよね。
「あ~あ、早く式の日が来ないかな。一日も早く、侯爵家の一員になりた――」
「リナス……。もうやめてくれ……」「もう、やめて頂戴……」
早くなりたいと考えていたら、部屋の扉が開いてパパとママがやって来た。
「侯爵家の人間を利用しようとしている、それが露見してしまえば……。我々ファスル家は大変な目に遭ってしまう……」
「お願いよ、リナス……。そういうことは、やめて……」
「嫌よ。わたしはもっと上質な人生を送りたいの。……パパもママも、しつこいわよ。これ以上繰り返すなら、あの件を暴露するからね」
そう言うと2人は顔を真っ青にして、即座にその場から消えた。
2人は汚職をしていて、わたしはその証拠を握っている。実際に暴露したら、子どもであるわたしも困るけど――パパとママは、も~っと困ってしまう。だからこれがある限り、2人は逆らえない。ずっと、わたしの手足となるのよね。
「せっかく、蒔いた種が実をつけたんだもの。止めるはずないでしょ」
パパとママが居た場所に呆れの息を吐き、窓の外を眺める。そしてその方向に投げキッスをして、わたしはニヤリと口元を緩めるのだった。
「3か月後から始まる新婚生活が、楽しみだわ。これからたっぷりと甘い汁を吸わせてもらうわよ、ケヴィンお兄様」
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