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第百八十七話 福岡ダンジョンに戻るまでのあれこれ

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 探索者省の安達さんが応接室を出て行くのを見ていた。哀愁漂う背中を見ていると、探索者省に帰ってからの苦労を思いご愁傷様と思ってしまう。無事に住之江ダンジョンを攻略するクランが見つかることを祈っておくよ。

「夕風、初音、分かっているだろうが、ここでの話は決して余所で話さないようにしてくれ。いずれ折を見て私から話すことになるだろうが、タイミングを誤っては混乱を招くからな」

 私にあっさり伝えたということは、おそらく近日中には大手のクランに知らされる情報なのだろうが、Aランクダンジョンの攻略階層が進んでいないクランにとって、この情報は重荷になるだろうな。何はともあれ《東京騎士団》には早く情報を伝えておいた方が良いと思う。忘れず夕食後に連絡を入れておこう。

 その後は夕風と明日以降のクランの活動について打ち合わせをして、初音には夕風のアシストを頼んだ。これで夕風の負担が少しでも軽減されればいいのだが。

「美紅、お疲れさん。ちょっと聞きたいことがあるんやけどええか?」
「ああ、夕方からはまた忙しくなりそうだが、今は大丈夫だぞ」
 
 一旦部屋で休みを入れようと戻って来ると、智美が声をかけてきた。少しお疲れのようである。

「どうした、疲れているようだな」
「薄情な上司のせいで、朝から大変やったわ。皆が喜んでくれて、アタイも嬉しいんやけど、本当のことが話せんしな。美紅と世那のお陰言うことで全部通したから、なんか聞かれたらよろしゅうな。それより明日からの福岡ダンジョン行きや。なんか特別に用意するものはあるんか?」
「いや、ほとんどのものは《花鳥風月》さんが用意してくれているから、長期間の探索と日常生活で必要なものがあれば大丈夫だが………そうか、もしも智美の滞在が許可されれば………智美、家具屋に行くぞ」

 危なかった。テーブル、椅子、ベッド、寝具は必要だな。食器類も一応用意しておいた方が良いだろうか?

「美紅、福岡ではホテルに泊まっとるんちゃうんか?家具がいるんやったら、ダンジョン物件の家か?」
「いや、龍泉さんの許可が出たら教えるよ。取りあえず用意しないとどうにもならないからな」

 お値段以上で全てを揃えて、私のアイテムボックスへと収納しておく。

「智美どうした?足取りが重いぞ。これで明日龍泉さんに許可をもらえば、智美も福岡ダンジョンで探索ができるんだ、もっと楽しそうにすれば良いんだぞ。足取りも軽くなるだろう」
「足取りより、財布がメッチャ軽くなったわ。もしも許可されへんかったらどうしてくれるんや。アタイの部屋のベッドと寝具で良かったんちゃうんか」
「なるほど、でも今更だな。まあ必要経費だと思って諦めてくれ」

 その後もブツブツ文句を言ってくるが、私もゆっくりとはしていられない。用事が終わるとすぐにクランハウスビルへと帰ってきた。

「では智美、しっかり明日の用意をしておくんだぞ。私はこれからすぐに夕食をとるから、智美は三十分後以降に食べるようにしてくれ」
「なんでやねん!」

 智美よ、そんなことは言わないでも分かるだろう。

 食後に《東京騎士団》の榊さんに電話をかける。加納さんにかけないのは察してほしい。

「美紅さん、何かありましたか?」

 今日の探索者省との話し合いの内容を詳しく話す。

「あのSランクダンジョンの本に書いてあったんですか?尚更読んでみたくなりましたね。四年後の年末までに五つのAランクダンジョンを全て完全攻略ですか?美紅さんは出来ると思いますか?」
「出来るかどうかよりも、やらなくてはならないんだろう。《東京騎士団》が二つ、うちと《花鳥風月》が合同で二つ、最後にうちが単独で住之江ダンジョンというところですかね」
「龍泉君に期待しているんですか?彼はもうそんなに力をつけているんですか?」
「《花鳥風月》には龍泉さん以外に、もう一人有望な人がいるんだ。その二人を中心に鍛えていけば、なんとか間に合うと思っている。まあこれから半年以上はBランクダンジョンで経験を積んでからだろうが、二人以外も面白い素材が揃ったパーティではあるんだ。それより、榊さん達はAランクダンジョンを完全攻略出来そうですか?」
「うーん、出来そうではあるんですけど、ここまで階層が深くなると慎重になりますね」
「無理をして失敗したら終わりだから、慎重になるのは理解できるな。うちも《花鳥風月》の成長に合わせて、京都のAランクダンジョンの攻略を始める予定なんだ。お互いに頑張りましょう。あっ、最後に伝えておく事がありました。私の順位が九位から八位になりました。次は榊さんを超えさせてもらいます」

 榊さんとの電話を終えた後は、昨日の会議に参加したメンバーに、順位の分かる機械の使用時間について伝えた。これで福岡に行っても大丈夫だろう、明日に備えて眠りについた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆

 次の日の朝早く新幹線で新大阪駅から博多駅に、そしてタクシーを使い福岡ダンジョンに戻ってきた。探索者センターで入場手続きをしてダンジョンの中へと転移する。

 五階層のボス部屋の攻略もあるので、智美とはパーティ登録をした。智美は久しぶりに右腕に大盾を装備しての探索だ、自然に笑みがこぼれている。急がず、智美が魔物を受け止めるのを待ってから止めを刺し、確実に進んで行った。ボス部屋も難無くクリアして六階層に到達した。

「久しぶりの感触はどうだった」
「感動や!ほんま《花鳥風月》のクランマスターには感謝やで」

 私も智美の盾捌きを見て感動している。一年以上のブランクは隠しきれないが、頼もしいタンクが帰ってきた。あの七十五階層のボス部屋で止まっていた時間が動き出すのを感じた。

 携帯ハウスはいつもの場所にあった。智美には待っているように言って、中に入る。

「美紅さん、お帰りなさい」
「ただいま。麟瞳さんはいるだろうか?」

 私の問いに、美姫が紙を渡して来る。

〈我がライバルと死闘を演じてきます。お昼までには帰りますので、心配はしないようにしてください。 龍泉麟瞳〉

 思わず苦笑してしまった。

「智美、麟瞳さんは出かけているようだ。もう少し待っていよう」

 外へ出て智美に声をかけると、すぐに麟瞳さんが現れた。

「美紅さん、お帰りなさい」

 さて、どう話をすれば良いだろうか。








 



 
 
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