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第3章 いらない道具
4話 手紙と思いやり
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「おい、アキラ、リコ。ラグニから手紙が来たぞ!」
「えっ、ホントですか!」
レイラさんが笛を買ってから二日後。朝、店に入るとチャンプスがご機嫌に尻尾を振っていた。手紙を持って立ち上がってる姿は、ホントに人形みたい。
笛をレイラさんに譲ることにした後、ジュラーネさんに頼んで、ラグニさん宛てに手紙を送ってもらった。「きっと同じくらい動物好きな人を見つけて、その人に笛を買ってもらったから安心してほしい」って内容。まさか、こんなに早く返事が来るなんて。
「アッキ、開けて開けて!」
「はいはい、待ってろ待ってろ」
急かされながら慌てて封を開けたアッキが、二つ折りになった白い紙を取り出す。
「あれ、何も書いてないじゃない?」
私がそう口にしたのとほぼ同時に、紙がくるくると丸まり、音符の形になる。そして静かなピアノの音がBGMで流れる中、ラグニさんの声が聞こえた。
「ジュラーネさん、手紙ありがとうございました。チャンプスも元気かな?」
すごい、魔法の手紙だ! 音楽付きなんてすごい!
「笛を持つのにふさわしいと思う人をわざわざ探してくれたんだね、本当にありがとう。動物好きでこれから練習したいってことなら、きっと笛を大切に使ってくれると思う。面白半分で買われたらちょっとイヤだなって思ってたから、安心したよ。リコちゃん、アキラくん、あなたたちみたいな思いやりのある子に笛を任せることができて、すごく良かった! 感謝してる! ありがとう!」
お礼が終わると、ピアノの音がだんだん小さくなって、やがて止む。さっきまで丸まっていた紙は元通り、ぐしゃぐしゃだったシワなんて一つも付いていない、二つ折りの白い紙に戻って、そのまま蝶みたいに羽ばたきながら封に戻った。
「こんな風に感謝されるなんて、嬉しいやねえ?」
ジュラーネさんに聞かれ、「もちろんです!」と返すと、彼女はキシシッと笑った。
「思いやりってのは想像力だからね。相手がどう思ってるか、それを想像できれば、あとはどうすればいいかは分かるはずだよ。もちろん、普段の生活でもね」
そのままカウンターの奥へ引っ込んでいく。チャンプスは「ジュラーネ、何の話だ?」と不思議そうに追いかけて行った。
その日の夜。ジュラーネさんの家で歯みがきをしながら、私は頭の中でジュラーネさんの言葉を思い返してた。
「相手が、どう思ってるか……」
自分が何をすればいいのか。スッキリした頭で考えると、答えが出てくる。実行するなら、寝るまでにした方がいいな。
うがいをして、寝室に向かう廊下を歩く。そこで、リビングから出てきたアッキとばったり会った。
(言うなら今! 言っちゃえ、私!)
右手をぎゅっと握り、自分を励まして、大きく息を吸ってから口を開く。
「あの、アッキ、ごめんね!」
「リンコ、ごめんな!」
二人の挨拶は、ほぼ同時だった。
「あ……」
「え……?」
少しの間だけ、気まずい沈黙が流れる。でも、なんだかおかしくなってきて、私は遂にプッと吹き出した。
「あは、あははは! ちょっとアッキ、ここでタイミングかぶるなんてある?」
「なっ、すごい偶然だよ! さすが幼馴染って感じ!」
アッキはひとしきり笑った後、「ふう」と一息ついて真顔になった。
「リンコ、ごめんな。なんか、慣れない場所で生活してて、ストレスがたまってたみたいで。リンコもガマンしてることたくさんあったはずなのに、当たっちゃってた。リンコだって毎日大変なはずなんだから、ちゃんと気持ち考えなきゃいけなかった」
「ううん、こっちこそ、ごめん。私も疲れちゃってたのかも。アッキにもつい強く言いすぎちゃった。アッキだって私と同じように疲れてるはずって、すっかり頭から抜けちゃってたよ。料理とか洗濯とか毎日やるのって大変! お父さんとかお母さんってすごいなあ」
お互いに謝って、仲直り。さっきのまま生活を続けることもできたけど、もやもやが残りそうな気がして……謝って良かった。
「思いやりって、大事だね」
「ああ、大事だよな。ラグニさんもレイラさんも喜んでくれたなら、俺たちが手伝えて良かったって思うよ」
「うん、私もそう思う。レイラさんにも、きっと届いてるはずだよ」
そうだといいな。レイラさんの笑顔を思い浮かべると、胸の中が少しだけ温かくなる。
「寝るか」
「そうだね、寝よう!」
私とアッキは、あの笛でどんな動物を呼びたいか話しながら階段を登って、お互いの部屋を開ける。こんな風に穏やかな気持ちで寝るのは、なんだか久しぶりだった。
***
それから数日後、今度はレイラさんから魔法の手紙が届く。音楽や声の代わりに、白い紙に映像が映る魔法。そこには、頑張って三匹の犬と会話しているレイラさんの姿が映っていた。
「君はこの辺りに棲んでるの? あれ、私の言ってること分かる? 分からないかなあ?」
胸元には、あの金色の笛。時折、大事そうに手に握っている。
「この笛、すっごくいいです! 手入れもしっかりされてるし、本当に大事に使われてたんだって分かります。前の持ち主の方にお礼を伝えてください!」
映像の最後で、レイラさんが手を振りながら挨拶する。
思いやりが届いた。それは、私たちだけのものじゃない。ラグニさんの想いも、きっと。
「ジュラーネさん、お願いがあるんですけど!」
「リコ、当ててあげようか? これをラグニに届けたいんだろう? アタシもそう思ってたところだよ」
目の前の大魔女の思いやりに、私は元気に「お願いします!」とうなずいた。
〈第3章 終わり〉
「えっ、ホントですか!」
レイラさんが笛を買ってから二日後。朝、店に入るとチャンプスがご機嫌に尻尾を振っていた。手紙を持って立ち上がってる姿は、ホントに人形みたい。
笛をレイラさんに譲ることにした後、ジュラーネさんに頼んで、ラグニさん宛てに手紙を送ってもらった。「きっと同じくらい動物好きな人を見つけて、その人に笛を買ってもらったから安心してほしい」って内容。まさか、こんなに早く返事が来るなんて。
「アッキ、開けて開けて!」
「はいはい、待ってろ待ってろ」
急かされながら慌てて封を開けたアッキが、二つ折りになった白い紙を取り出す。
「あれ、何も書いてないじゃない?」
私がそう口にしたのとほぼ同時に、紙がくるくると丸まり、音符の形になる。そして静かなピアノの音がBGMで流れる中、ラグニさんの声が聞こえた。
「ジュラーネさん、手紙ありがとうございました。チャンプスも元気かな?」
すごい、魔法の手紙だ! 音楽付きなんてすごい!
「笛を持つのにふさわしいと思う人をわざわざ探してくれたんだね、本当にありがとう。動物好きでこれから練習したいってことなら、きっと笛を大切に使ってくれると思う。面白半分で買われたらちょっとイヤだなって思ってたから、安心したよ。リコちゃん、アキラくん、あなたたちみたいな思いやりのある子に笛を任せることができて、すごく良かった! 感謝してる! ありがとう!」
お礼が終わると、ピアノの音がだんだん小さくなって、やがて止む。さっきまで丸まっていた紙は元通り、ぐしゃぐしゃだったシワなんて一つも付いていない、二つ折りの白い紙に戻って、そのまま蝶みたいに羽ばたきながら封に戻った。
「こんな風に感謝されるなんて、嬉しいやねえ?」
ジュラーネさんに聞かれ、「もちろんです!」と返すと、彼女はキシシッと笑った。
「思いやりってのは想像力だからね。相手がどう思ってるか、それを想像できれば、あとはどうすればいいかは分かるはずだよ。もちろん、普段の生活でもね」
そのままカウンターの奥へ引っ込んでいく。チャンプスは「ジュラーネ、何の話だ?」と不思議そうに追いかけて行った。
その日の夜。ジュラーネさんの家で歯みがきをしながら、私は頭の中でジュラーネさんの言葉を思い返してた。
「相手が、どう思ってるか……」
自分が何をすればいいのか。スッキリした頭で考えると、答えが出てくる。実行するなら、寝るまでにした方がいいな。
うがいをして、寝室に向かう廊下を歩く。そこで、リビングから出てきたアッキとばったり会った。
(言うなら今! 言っちゃえ、私!)
右手をぎゅっと握り、自分を励まして、大きく息を吸ってから口を開く。
「あの、アッキ、ごめんね!」
「リンコ、ごめんな!」
二人の挨拶は、ほぼ同時だった。
「あ……」
「え……?」
少しの間だけ、気まずい沈黙が流れる。でも、なんだかおかしくなってきて、私は遂にプッと吹き出した。
「あは、あははは! ちょっとアッキ、ここでタイミングかぶるなんてある?」
「なっ、すごい偶然だよ! さすが幼馴染って感じ!」
アッキはひとしきり笑った後、「ふう」と一息ついて真顔になった。
「リンコ、ごめんな。なんか、慣れない場所で生活してて、ストレスがたまってたみたいで。リンコもガマンしてることたくさんあったはずなのに、当たっちゃってた。リンコだって毎日大変なはずなんだから、ちゃんと気持ち考えなきゃいけなかった」
「ううん、こっちこそ、ごめん。私も疲れちゃってたのかも。アッキにもつい強く言いすぎちゃった。アッキだって私と同じように疲れてるはずって、すっかり頭から抜けちゃってたよ。料理とか洗濯とか毎日やるのって大変! お父さんとかお母さんってすごいなあ」
お互いに謝って、仲直り。さっきのまま生活を続けることもできたけど、もやもやが残りそうな気がして……謝って良かった。
「思いやりって、大事だね」
「ああ、大事だよな。ラグニさんもレイラさんも喜んでくれたなら、俺たちが手伝えて良かったって思うよ」
「うん、私もそう思う。レイラさんにも、きっと届いてるはずだよ」
そうだといいな。レイラさんの笑顔を思い浮かべると、胸の中が少しだけ温かくなる。
「寝るか」
「そうだね、寝よう!」
私とアッキは、あの笛でどんな動物を呼びたいか話しながら階段を登って、お互いの部屋を開ける。こんな風に穏やかな気持ちで寝るのは、なんだか久しぶりだった。
***
それから数日後、今度はレイラさんから魔法の手紙が届く。音楽や声の代わりに、白い紙に映像が映る魔法。そこには、頑張って三匹の犬と会話しているレイラさんの姿が映っていた。
「君はこの辺りに棲んでるの? あれ、私の言ってること分かる? 分からないかなあ?」
胸元には、あの金色の笛。時折、大事そうに手に握っている。
「この笛、すっごくいいです! 手入れもしっかりされてるし、本当に大事に使われてたんだって分かります。前の持ち主の方にお礼を伝えてください!」
映像の最後で、レイラさんが手を振りながら挨拶する。
思いやりが届いた。それは、私たちだけのものじゃない。ラグニさんの想いも、きっと。
「ジュラーネさん、お願いがあるんですけど!」
「リコ、当ててあげようか? これをラグニに届けたいんだろう? アタシもそう思ってたところだよ」
目の前の大魔女の思いやりに、私は元気に「お願いします!」とうなずいた。
〈第3章 終わり〉
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