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第1章 魔女の世界へようこそ

3話 預かり銀行と、魔女の薬①

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「それで、この店って何屋なんですか? 魔法道具のお店?」
「はあ? リコ、全然違うぞ。ここは魔女が客として来る、魔法道具の預かり銀行だ」

 全然ピンと来なくて、首を傾げてしまう。預かり銀行って何だろう。普通の銀行と違うのかな?

「お前らの世界でも『質屋しちや』って名前で同じような店があるんだけど、子どもじゃ知らねーか。 いいだろう、チャンプス様が教えてやるぜ」

 チャンプスはぴょんとジュラーネの肩から飛び降りると、さっきまで彰が見ていた棚の方まで駆けていき、逆さに立てかけてある箒の柄の部分をポンポンと触った。

「簡単に言うと、魔法道具を預けてもらう代わりにお金を貸すって店だ。お前らの世界みたいなちゃんとした銀行なんてものはねーからな。例えばアキラが自分の持ち物の中で値打ちがあるものをここに持ってくるとするだろ? それをジュラーネが鑑定するわけだ。お前らの国のお金の単位は? ふうん、円か、じゃあ千円だったとしよう。そしたら俺たちは九百円までお金を貸すわけだ」
「お金を借りるってことは、利子をつけてちょっと多めに返すってこと?」

 私の質問に、チャンプスは「そうだ、リンコは賢いな」と尻尾を振ってみせる。口は悪いけど、動きも可愛くてなんか憎めないなあ。

「その利子がオレたちの儲けになる。金を返してもらったら、こっちも預かってたものを返すってわけだ」
「万が一お金を返してもらえなかったら、預かってた品物をもらえるの?」

「おう、アキラも勘がいいな。その通りだ、だから鑑定したよりも安い金しか貸さねーんだ。踏み倒されてもこっちは損しない。こうやって中古品として売るんだよ」

 なるほど、ここに並んでるのは魔女がお金を返さずに手離してしまった魔法道具ってわけね。

「あの、ジュラーネさん、訊いてもいいですか?」
「なんだい、お嬢ちゃん」

 まっすぐに見つめられ、小さく深呼吸してから口を開く。

「なんでこの店をやってるんですか? 魔女ってみんなお金に困ってるんですか?」

 説明を聞いて、気になった。だって、自分の大事な魔法道具を預けてまで、お金を借りたいってことでしょ?
 私の質問に、ジュラーネは「ふう」と溜息をついた。

「この世界もだいぶ時代が変わったからねえ。例えば、昔は遠くに荷物を運ぼうとしたら、魔女に頼んで箒で飛んで届けてもらうのが一番早かったのさ。でも今は電車もできて、船もできた。あんた達の世界みたいに家族ごとに車を持ってるわけじゃないけど、それでも別に魔女に頼まなくてもよくなった。そうやって仕事が無くなったり、体も魔力も弱ってきたりしている魔女を助けるための店なんだよ、ここは。幸いアタシは優秀だったから、食うに困らないくらいは蓄えられたからね」

 またキシシッと笑う。自慢げに語ってるけど、それは一種の照れ隠しだと思う。きっと彼女は優しいから、他の魔女を助けるためにこのお店を始めたんだろうな。

「さて、今日も何人かお客が来そうだね」

 ジュラーネが空を指差すと、チャンプスも相槌を打った。

「あれはリズルのところの鳥だな」

 あの鳥は美味そうだからつい食べたくなっちまう、と言うチャンプスが短い腕で示した先から、一羽の真っ赤な鳥が飛んできた。目だけが白く、あとは水彩画で塗ったような派手な色のその鳥は、自分たちの世界では見たことがない。店の中まで飛んできてカウンターに降りると、深紅のくちばしを開く。そこから金色の砂を吐いたかと思うと、その砂同士が丸く集まっていき、やがてシュッと煙があがってコインになった。

「すごい、本物の魔法だ! リンコ、見た?」
「見た! うわー、すごい! すごいなあ!」

 体を大きく揺らして飛び跳ねる。何度も観た、魔女の出てくる海外のアニメ映画。そこに出てきた魔法みたいなことが、目の前で起こっている。これはCGじゃない、現実だ!

「十グルか……今月の利子分ぴったりだね」
「でもリズル、今回もちょっと支払い遅れてんな」

 詳しく知りたいな、と思ってコインを覗き込んでいた私とアッキの気持ちを察したのか、チャンプスがそのコインを肉球の上に乗せて見せてくれた。

「西の方に住んでる魔女でさ。借りた金を全額返す余裕はないらしくて、毎回利子だけ払ってんだよ。利子もらってるうちはオレ達も道具は預かったままにしておくからな。でもそれも最近は厳しいらしい」
「何を預かってるんですか? ここにあるもの?」

 並んでる箒や杖を指差すと、チャンプスは「ちげーよ」と尻尾をピンと立てた。

「ここに置いといたら売れちまうだろ? 預かってるもんは店の奥にしまってんだ」
「ほら、これだよ」

 ジュラーネが手をサッと払うように動かすと、奥まった場所から何かがフワフワと飛んできた。大した魔法ではないのかもしれないけど、いちいち感動しちゃうなあ。

 カウンターの上にゴトンと着地したのは、中央にくぼみのある舟のような形の器具と、握り手のついた車輪を組み合わせた道具だった。

薬研やげんっていってね。薬の材料になるものをこれでゴリゴリひいて粉末にしたり汁を出したりするのさ。リズルは魔法を使って薬を作るのが得意だったから、これを手放すってのはちょっと心配さね……アンタ達、早速だけど、ちょっと様子見てきてくれないか」
「んじゃあ、オレが案内してやる。アキラ、リコ、行くぞ!」

 突然の仕事の手伝い。それでも、魔女に会えるのが楽しみで、私は「はい!」と大きな声で返事した。



「見て見て、アッキ! 飛んでる! 私たち飛んでるよ!」
「おう、ホントにな……」

「いやっほおおおおおお! 久々に乗ったけど、やっぱりジュラーネの箒は速いぜ!」
「速くて怖い……」

 テンションが上がりっぱなしの私とチャンプスの後ろで、アッキはなるべく下を見ないように気を付けながら返事する。

 ジュラーネが用意した、行き先指定済みの箒。乗るだけで、落ちることなく目的地まで運んでくれる。ほんの少し前まで、アッキも同じように思いっきりはしゃいでいたのに、たまたま下を思いっきり見ちゃったらしい。他の魔女とぶつからないようにかなり高いところを飛んでたせいで、落ちないと分かっていても怖くなったみたい。こんなに楽しいのに、もったいない!


「よし、到着! リズルの家は確かあそこだ」
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