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第6話 モンスターを追い払う為に遺書を書く 後編

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野宿の準備をしていた俺達の前に、無数のオオカミの群れが出現した。

「本当に危なくなったら、馬車に乗り込むのよ……」
「じゃあ馬車に乗ればいいんじゃ……」
「見て分かる様に、荷台には多くの商品が積んでいて2人も入る余裕がないのよ」
「そうか、じゃあ戦うしかないのか」

ミラの言葉に注意していると右から突然、青い獣が俺に襲い掛かって来た。
思わずよろめくと、ミラが持っていた剣で獣を斬った。

「大丈夫!?シノビオオカミね……厄介だわ!」
「ありがと……大丈夫、今度こそ!」

なんとか立ち上がると、暗闇から7匹ぐらいの青い毛のオオカミが俺達を取り囲む。

「シノビオオカミは本当に足音鳴く、唸り声も無く、無音で近づいてくるの、気をつけて」
「うう……」

思わずオオカミの威嚇に圧され、弱腰になりかけた。

「しっかりして!ここでなんとかしないと死ぬわよ!」

それでも怯える俺に大きくため息をつき、ミラはにやけた顔で言う。

「……弁償額、半分減らしてあげようかしら?」
「え!?」

予想外の展開にミラの方を振り向く俺を見て、彼女は続ける。

「とりあえずあのシノビオオカミ全部追い払ってくれたら、考えてあげるわ!」
「……よし!それ本当だな!?」
「追い払ってくれたらね?」

―――言葉とは不思議だ。たった一言でこんなにも勇気が出てやる気が満ち溢れてくる。

「いっくぞォォォ―――!!オオカミ!!」

まるで強敵に挑むRPGの主人公の様に、かっこつけてオオカミの群れに突撃した。

しかし―――――

「痛いいたた!痛いって!!!」
アニメの世界とは違い、現実らしく俺は無様にオオカミ達に返り討ちされている。

「剣―――!!貸してあげた剣使いなさいよ!!」

ミラの叫び声が聞こえる。いや……無理。素人がいきなりこんな重たい剣振えるわけないじゃん……。
俺の虚しい心の声も、オオカミ達の容赦ない攻撃でかき消される。
そして、剣のような金属が地面に落下した音が聞こえた。

「う、うう……」

ミラを見ると右腕を抑えて苦しそうに座り込む。
まずい、あのままだとミラはオオカミに襲われる――――!!
それでいいのか?これでいいのかよ?
せっかく異世界に転生したのに、こんな無様な展開になって、女の子一人も守れないなんて……

「違う、こんなの主人公らしくない!俺は――――!」

オオカミ達を振り払い、全身の激痛を感じながらもミラの元に走った。

「やめろォ!!」

そうだ、こういう危機的瞬間に驚異的な能力が覚醒するんだ。
それに賭けた俺だったが―――――。
ミラを襲おうとするオオカミ達に向けて、手の平を向けても何も出て来ない。
ミラもオオカミ達も俺も全員静まり返った。

「……あれ?いやいや、今魔法とか出るべき瞬間でしょ!?」

しかし、なんど手のひら向けても、某少年漫画の必殺技の構えをしても何も出て来ない。

「……――――んだよこれ!!全然魔法とかでないじゃないかーーー!!」

俺はブチ切れで、叫ぶ。
そして、今の余計なのが無かった様に、ミラを再び襲おうとするオオカミ達。

「いやあああ―――!!」

死を覚悟したミラが悲鳴を上げる。
その瞬間――――――――――

夜空だったはずの空が突如、黄金色に光りはじめオオカミ達は気絶する様に続々と、地面に横たわった。

「……え?ええ?なにこれ?ミラは!?」

ミラを見るとオオカミ達同様、気絶していた。

「ふぉっふぉっふぉ。危ない所じゃったの」
「あ―――貴方は!?」

聞き覚えのある声に振り向くと、あの白い服を着た老人が立っていた。

次回に続く
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