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第64話
しおりを挟む「・・・ヘンリー、」
「はい・・・。」
「フィンセントに、何か、したの?」
アーノルドが出て行った後、ヘンリーに問う。
だって、あんなにアーノルドが怒った所なんて、見たことがない。それに、ヘンリーの体調不良とも重なったから。やっぱり、何かあるんだと思った。アランが、“危険な魔法”って言っていたのが、ずっと頭の片隅で繰り返される。
「・・・。」
半ば、確信をもって聞いたが、ヘンリーが珍しく私の方を見ない。
・・・やっぱり、何か後ろ暗い事があるのかもしれない。そんな嫌な想像が、頭の中で駆け巡る。
ゲームで、リリアーナと一緒に処刑台に上ったヘンリーが頭に浮かぶ。
ボロボロの服を着させられて、でも、ヘンリーは美しかった。泣きも、喚きもせず、その瞳はずっと、次に処刑されるリリアーナへ熱い視線が注がれていた。最期の言葉も、リリアーナに向けてのみ。そして、最後までリリアーナに向けて笑んだまま・・・・
私は、一度ギュッと目を閉じて頭を振って浮かんだ光景を追い出す。そして、ヘンリーになるべく優しく話しかけた。
「言いたくなくても、私には教えて。・・・そんなことで、ヘンリーを嫌いになったりなんてしないか。」
ヘンリーの手を取って、ギュッと握った。その行為に、ヘンリーがやっと、私の方を見た。
「・・・・・・・・・・・・・ほんとう、ですか?」
弱弱しい声で、問いかけてくる。
この答えで、何かをしたという事は確定だ。
「本当よ。でも、言わないと、あたしは一生、貴方を疑って生きることになる。そうなったら、信頼出来なくなって、私は苦しい思いをするわ。そんなの、嫌なの。だから、私に隠し事はしないで。ちゃんと話して。」
真剣に、寝ているヘンリーの目を見て言う。
「・・・そ、うですよね。」
「うん。」
真っ直ぐ、ヘンリーと見て、ヘンリーの嘘を見抜こうと表情を見る。
でも、変わらず私の事が好きと言っているような優しい顔に、瞳に・・・切なくなってくる。
「フィンセントに、なにか、したの?」
もう一度、そう聞くのがやっとだった。
「・・・・フィンセント殿下の中から、裕美の記憶を抜き取りました。でも、それ以外は本当に、何もしていません。」
「それは、怪我とか痛い事じゃないって事?いま、フィンセントが見つからないのと何も関係ない?」
「はい、神に・・・・いや、裕美に誓って。ケガさせたり、連れ去ったりなんかしていません。」
「・・・・・・・そう。良かった。私は、ヘンリーを、信じるわ。」
ヘンリーにそう言うと、ヘンリーは安心したように嬉しそうに笑って、私を抱きしめてきた。
「っ!」
「裕美に嫌われてしまったら、俺は、生きていけません・・・・。」
「嫌うわけがないでしょ?私は、ヘンリーが・・・ヘンリーだけが大好きだよ。それに、私はヘンリーだけのものよ。だから絶対、嫌わない。ううん。嫌えないよ。」
小さい子を宥める様に、背中をトントンと擦ってヘンリーに言い聞かせた。
「・・・。」
肩に埋めた顔をずらして、キスしてほしそうに見つめられて私は、その視線に抗うことなくキスを受け入れた。
(大丈夫、ヘンリーが不安になる事なんかもう、ないの。私は・・・ヘンリーの。そして、ヘンリーは、私の、なんだから。)
啄むような優しいキスを何度かして、私は一度頬にキスしてやんわりと止める。
「・・・とりあえず、寝なさい。お説教も、話聞くのも、全部体調がよくなってからよ。」
「・・・・わかりました。」
ヘンリーを寝かせて、そういうとヘンリーは大人しくベッドに入る。
いつもよりも幼いヘンリーをみて、無性に可愛く感じるが、まずは体調の回復が最優先だ。
聞きたいことは山ほどあっても、熱が出て、朦朧としていては元もこうもない。
「・・・いまは、ゆっくり休んで。」
「・・・起きても、傍に来てくれますか?」
「うん。傍にいるわ。・・・まぁ、お手洗いとかには?行くかもしれないけどね。ふふ。」
茶化す様にそう言うと、ヘンリーも困ったように眉を下げて笑ってくれた。
「・・・ありがとうございます。」
「ほら。目を瞑って、寝なさい。」
「・・・・はい。」
ヘンリーは、やはり体が辛かったのか、比較的直ぐ、寝息を立てだした。
規則正しく上下している胸の上に頭を預け、心臓の音を聞く。
トクン・・・トクン・・・と、優しい音がする。
私は、ヘンリーの寝顔を見て、いつもよりもいくらか幼い寝顔、皴一つない肌、朝よりかはいくらか血色がよくなった唇、途轍もなく長いまつ毛。
「本当、寝ていても世界一かっこいい。・・・ふふ。おやすみ。ゆっくり休んで。」
私は、ヘンリーの額にキスをした後、ゆっくりと立ち上がり、ヘンリーの部屋を後にした。
*****
「リリアーナ!」
私が、寮を出て馬車に乗り込もうとした時、学校の方から走ってきた人に声を掛けられた。
「・・・アラン。」
乗り込むために段差にかけていた足を尾をしてアランの方へ向く。
「おま、どこ行く気だ!?」
血相を変えて走って来た。
え、はや・・・・・。
「・・・。」
アランの迫力に何て言えばいいのかわからなくて言葉が出ない。すると、
「まさか、また・・・・!?」
また?またとは・・・?
あ、え?もしかして?
「え!?違う!違うよ!フィンセントを、探しに行こうと思っただけだよ!家出じゃないよ!」
やっとアランの言いたい言葉にたどり着いて、全力で否定した。
「なんだ、よかった・・・・。」
私の答えを聞いて、脱力したようにその場にしゃがみこんだ後、ん?っと顔を上げた。
「え?な、何?」
「なんで、裕美がフィンセントを探しに行くんだ?あいつ、ただの休みじゃないのか?」
(やば・・・!表向きはただの休みなんだから探すなんて言ったら面倒な事に・・・・)
「・・・・俺も行く。」
(なりますよねぇ~~~、そうなりますよねぇ~~~。)
「おら、行くぞ。詳しい話は、中で聞くから。急いでんだろ?ほら、行くぞ。」
アランを連れていくことに葛藤していた私をよそに、さっさと私の呼んだ馬車に我が物顔で乗り込んだアランを見て、降りてと言うのは不可能という事は理解した。
・・・まぁ、一人よりも二人の方が良いかもしれない。そう、思い直すことにして、アランに差し出された手を私は掴んで馬車に乗り込んだ。
*****
「で?何があったんだよ?」
「えっと・・・・。」
何て言ったらいいのか分からず、言い淀む。
「昨日、何があったのかから、話せるか?」
私が、まだ混乱していると察してくれたのか、先ほどより詳しく、聞きたい所を聞いてくれた。
「誰にも・・・本当に、この話は私とアランの二人だけで、誰にも・・・本当に、絶対に誰にも言わないでほしいの。この先、何を見て、感じて、いい事も、良くない事も全部・・・何があっても誰にも言わないと・・・約束、してくれる?」
もしも、黒魔法をヘンリーが使ったと知れたら、ヘンリーがどうなるかわからない。
でも、私の記憶がないというフィンセントに、アランが会ってしまったら。アランはヘンリーを疑うだろうことは安易に想像できる。
だったら、全部話して口外しないと約束した方が良い気もした。・・・まぁ、破るかもしれないけれど、それはアランを信じるしかない。
私の言葉に、しばらく沈黙した後、アランが口を開いた。
「わかった。誰にも言わない。裕美が悲しむことは絶対にしないと誓う。だから、俺を信用して話してくれ。」
そう言って、頷いてくれた。
(・・・アランはいつも、私の柔らかい気持ちにしてくれる。)
いつの間にか、アランが隣に座って肩をギュッと抱きしめてくれて、アランの心地良い鼓動を聞いて、私は自分の知っていることを一つずつアランに話していった。
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最初は王子このヤロー❗️💢
…と思ってたらヘンリーだったw
ヘンリーがそこらのヒーローより素早くヒロインのピンチを救うとか本当に最強すぎwwwwwww
お見事👏
退会済ユーザのコメントです
王子が一番無いわー😩
性格悪いし腹黒の癖に軽率にも王女の件でもやらかしてるしな…
そして今回悪役令嬢ならぬ悪役王子に立ち場が逆転してる気が…
ヘンリー!助けに来てー!😣