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第58話
しおりを挟む「・・・・・なんで、ヘンリーを連れてったのかって言っていただろ?あの日、何があったか知りたいだろうと思って。」
「え?あ、あぁ~・・・。」
八つ当たりで言った言葉をアランは真剣に受け止めていた。
今更、ヘンリーの思惑だと全部わかっていましたなんて言えない。
だって、めちゃくちゃアランのせい!みたいに攻めに攻めたんだもの。ごめん。
「あの日、黒髪の女性が気になって、もう一度あの食堂に行ったんだ。」
「うん。」
「裕美だってことはわからなかったけど、裕美の笑顔見た時みたいに胸が熱くなってさ、なんでかわかんねぇけどすごく気になって・・・。俺には裕美が居るのに・・・って結構、罪悪感覚えたんだぞ?結局、あれも裕美だったから、それ知れて、いくらかホッとしたわ。」
ハハハと笑いながらアランは話を続ける。
「で、あの日、食堂に行っても黒髪の女性はいなくて、案内してくれたヘンリーに聞いたんだよ。話しかけても、俺はヘンリーとは気が付かなかったけど、あっちが俺だって先に気が付いて話しかけてきたんだ。そしたら、『裕美なら、もうここへは来ませんよ。』ってうさん臭い笑み張り付けて言うもんだから、そこで、俺熱くなっちまって・・・。ヘンリーの顔ぶん殴ってお店に迷惑かけちまった・・・店には、本当に申し訳ないことした。」
あ、そこはお店だけなのね。殴ったヘンリーには相当むかついたんだろうなぁ。
「あぁ~・・・おばあさんが言ってたね。・・・大丈夫。酔っ払い同士のケンカなんか、良くあることだから!気にすることないよ。私が行ったときにはほとんど元通りになってたし。迷惑料と割れたものや壊れたものの弁償にいくつか宝石置いてきたし(勝手に)」
「本当は俺がしなきゃいけねぇのに・・・ごめん。」
「いいよ、大丈夫だって。」
「それで、おばあさんに怒られて外で話すことにしたんだ。」
「うん。」
「誘拐かどうか、なんで家出を止めなかったのか。いま、裕美はどこにいるのか。そしたら、『私を連れて行けば、お嬢様は家に戻るでしょう』って言われて。嘘かとも思ったが、裕美が自分の執事を置いてどこかに行くわけないと思ったし、それにあいつのあの自信に満ちた顔を見たら・・・」
なにか、耐える様にアランは拳を握り締めている。
絶対なにか煽ったな、ヘンリー・・・。
「ゴホン。で、あとはお前も知ってる通りだ。」
「そ、そうだったんだ。ごめんね?あの時は連れて行きやがって!って、攻めたりして。」
「いや、連れて行ったのは本当だし。でも、これだけは訂正させてくれ。・・・俺は、確かにリリアーナを好きだったけど、その気持ちは裕美に向ける気持ちとは、似も似つかないから。」
「え?」
「こうやって、隣を歩くだけで嬉しくなるし、苦しくもなる。普通に話しているだけで胸が高鳴って苦しくなる。・・・会えないって思うだけで死ぬほど悲しくなって自分が自分じゃなくなる。そんな事、リリアーナに対して思った事なかった。見た目とか、そんな事じゃない。リリアーナの笑顔じゃない。お前の・・・裕美の笑顔が見たくて傍に居たいって思うんだ。フィンセントから奪いたいなんて思った事なかったのに・・・。裕美の事は誰にもとられたくないっておもっちまう。もちろん、ヘンリーにも。」
真剣なワインレッドの瞳から目が離せない。
顔が熱くなるが分かる。
「・・・、」
「そんなに構えるな。なにもしねぇよ。・・・ただ、本当に裕美自身を好きなんだってちゃんと伝えたくてさ。だから、伝わる様に何度だって言うよ。だから・・・今の自分を否定することはしないでくれ。姿が変わっても、今のままでも、裕美は綺麗だし大好きだから。」
ポンポンと優しく頭を撫でられた。
今にも泣きそうな笑みが胸を締め付ける。
「・・・・あ、りがとう。この前は、本当にごめん。」
「謝るなって。わかってるから。ただ、」
グイッと腕を引っ張られて、きつく抱きしめられた。
「・・・・・・生きててよかった。」
「っ、」
肩に首に耳に熱い息がかかる。
ポツリと言われたその言葉は、本当に本心で。すごく心配かけていたんだと今更ながらに強く思う。
「心配、かけて・・・ごめんなさい。」
「ほんとだよ、ばーか。」
そう言って離れて行った体温が、とても暖かったから離れた時、すごく寒く感じた。
「あぁ、あれだ。どっちにしても、フィンセントと婚約破棄してからじゃないと俺は何もできないし。だから、とりあえず休戦だ。これまで通り、普通に過ごそう。」
「っ、でも、それだと私の都合がよすぎて・・・」
「まぁ、あのド変態野郎が嫌になったらいつでも俺んとこ来いよ。」
なーんてなって笑いながら先を歩きだしたアランが優しすぎて辛い。
「・・・・・・・・変な女の子とか、詐欺にあわないでね、アラン。」
「は!?何の話だよ。」
優しすぎるから、心配。何て言ったら呆れられてしまうかな。
ううん。アランはバーカって笑ってくれるんだろうな。
・
・
・
「あれ、裕美、何かいいことありましたか?」
「ん?あ~、そうね。アランと和解した、かな。」
「・・・。」
「なんで嫌そうな顔になるのよ。」
「嫌ですもん。俺以外に笑いかけられるのも、話されるのも、ましてや・・・触られるのも。」
ギュッと抱きしめてきたヘンリーは、また“見て”いたらしい。
知っているなら聞かなきゃいいのに。まぁ、いいけど。
「はいはいはいはい。一応、今は恋人ではなく、主従関係なのでいちゃつくのはやめてくださ~い。」
そう言って、ユーリが部屋着を持ってきて、私からヘンリーを引き剥がして、着替えるからと部屋から追い出した。
「本当にいいんですか?あの人、めちゃくちゃ執着強めの変態男ですよ?」
ひどい言いように思わず笑ってしまう。
「いいって言うか、ヘンリーが好きなんだよね。」
「はぁ~~。お嬢様にはもっと、紳士で清廉潔白の美男子が良いと思ってたのになぁ~。」
「ははは。でも、ヘンリーほど真っ直ぐ好きでいてくれる人、いないよ。」
「・・・もう、のろけちゃって。いいです。お嬢様が幸せならそれでいいですよ~。」
あ~あ、私も恋人欲しい~とブツブツ言いながらテキパキと服を着せてくれる。
他愛もない話をしてると、あっという間に着替え終わって当たり前のようにヘンリーがまた私の後ろにピタッとくっついてきた。
「明日、殿下も学校来るんですよね?多分、会う事になりますが、大丈夫ですか?」
「う~ん。多分ね。まぁ、何かあったら助けてくれるでしょ?ヘンリー!」
「もちろんです。」
チュッと音がするように頭にキスされて、ほっこりすると、ユーリがまた咳払いした。
あれ、こんなにべたネタするのが普通になってるって、やばいかな?
*****
次の日
「“例の件”で王太子殿下から、お話があるそうです。放課後、生徒会室まで来るようにと言伝を預かっています。」
フィンセント直属の護衛の人が、朝一番の学校の玄関で伝えてきた。
一応、アーノルドと二人で登校していたのでアーノルドときょとんと顔を合わせた。
「・・・承知した。放課後、リリアーナと二人で行くと伝えてくれ。」
アーノルドが私の代わりに返事をすると、護衛の人は一度ジッと私を見てコクっと頷き、消えた。
うん、消えた。多分、忍者かなんかなのかもしれない。
「消えましたね・・・。」
「ん?あぁ。あいつ、足早いからな。」
え、そんな感じ?そんな感想なの??
よく会う人は慣れてしまってこの異常性がマヒしているのかな??
「え、はし・・・?あたし、一瞬でシュって消えたと思いましたけど??」
「そんなことはない。階段、かけて行っただろ?」
「・・・見えませんでした。」
目が良いのか?眼鏡してるのに?あれ?動体視力的な問題かな?
「まぁ、そんな事よりも。本当にいいんだな?」
「え?なにがですか?」
「殿下との婚約を白紙にして。」
「はい、いいです。よろしくお願いします。」
アーノルドに深々と頭を下げると、一度ため息を付かれた後、顔を上げるように言われた。
「お前が一番幸せになるなら、婚約破棄くらい何度でもしてやる。だから、二度と家出なんかするな。わかったか?」
「・・・はい。ありがとうございます、お兄様。」
フッと笑って、一度頭を撫でた後、二人で教室に向かって歩き出した。
・
・
・
「じゃあ、また、放課後な。迎えに来るから、先に行ったりするなよ。」
アーノルドが教室まで送ってくれて、注意された。
確かに。生徒会室の横は殿下御用達のヤリ部屋だからね。アーノルドもそれを警戒しているのだろう。
「わかりました、お手数おかけします。」
「そんな他人行儀になるな。ほら、もうすぐ鐘がなる。席ついて授業の復習でもしてなさい。」
なんか、授業参観に来たお母さんみたいなことを言われつつ、アーノルドの妹思いが伝わって嬉しくなった。
「はーい。また後でね、お兄ちゃん!」
「おにっ!ゴホン、あとでな。」
そう言って、アーノルドと別れて教室の中に入ると・・・・
ザワザワとクラスメイトみんなが私を見て驚いている。
そりゃ、勝手に3か月以上も休んでいきなり復学したら驚くに決まっている。
みんなの心理はわかるし、仕方ないと思う。でも・・・・・めちゃくちゃ居心地悪い。
「ご、ごきげんよう。」
精一杯の笑みで愛想を振りまいて、自分の席に着こうとして・・・止められた。
「ひ・・リリアーナ、席替えしてそこの席はもう違うんだ。お前の席はこっち。」
アランが座る前に腕を掴んで私の席に誘導してくれた。
「あ、ありがとう、アラン。」
「ん。ココ、な。」
そう言って、指さされた席に座って、授業の準備をする。
アランが私の後ろという事は前から変わらないみたいだった。
「は~い、授業を始めます。」
先生がガラッと教室に入ってきて、授業が始まった。
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