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第53話

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「あ、見えてきたわよ!王都!」

ユーニャさんが楽しそうに外を指さして、可愛い声を上げた。

「あ、本当だ~・・・。やっとだぁ~~~・・・。」

私は・・・・連日の、ユーニャさんとエリオットさんの営みを毎夜聞かされて、寝不足になっていた。

「どうしたの?昨夜も寝むれなかったの??大丈夫???」

悪意のない純粋な眼差しでユーニャさんが私を心配してくれる。
いや、あなた達のせいなんですけどね!?いやむしろ、あなた達の方がいつ寝ているんですか!?なんでそんなに元気なんですか!?
口をパクパクさせて、ぶちまけてしまいたい衝動を寸でのところで留まる。

「ぐっ、だ・・・・・大丈夫です、ありがとうございます。」

ユーニャさんにニコリと笑いかけると、数倍のキラキラさで笑い返された。眩しっ!

「・・・ほら、着いたぞ。」

くだらないやり取りをしていたら、いつの間にか侯爵家の裏の路地に着いたらしい。
荷馬車を下りて、二人にお礼を告げた。

「本当に、連れてきてくださってありがとうございました。あ、これ、気持ちでしかないのですが、受け取ってください。本当に、ありがとうございました。」

私は、価値はわからないが宝石がいくつか入った袋をユーニャさんに手渡し、頭を下げてお礼を言った。

「困ったらまたなんでも頼ってね!って!!!こんなもらえないわよ!!!」

「え、でも・・・、」

ユーニャさんが全部袋返してくるものだから、困ってエリオットさんを見ると、やれやれと言う様に頭をガシガシ掻いて、私たちから袋を取り上げた後、何か書いた紙と一緒に袋の中の一つだけの宝石を受け取ってそれ以外は袋ごと返された。

「気持ちは、これだけあれば足りる。むしろ、ユーニャと仲良くなってくれてありがとうな。この紙に、王都での俺たちの寝床が書いてある。何かあれば、来るといい。」

「本当、今回の旅は特に楽しかったわ。二人きりなのもいいけど・・・ふふ。やっぱり、友達ができるのは嬉しいわね。また、絶対会いましょうね。」

ユーニャさんに手を差し出されて、私はその手を取る。

「はい!また是非、ご一緒させてください!あ、おばあさんたちにも、よろしくお伝えください。今度、また一緒に飲みましょうね!その時は、ヘンリーも一緒に!ふふ。」

そして、ユーニャさんと別れた後、私は暫くぶりの侯爵家へ帰ってきた。


*****


「ただいまーーーっ!!!」

バンっと力いっぱい玄関の扉を開けて、叫ぶ。

「お嬢様!?」

執事や、庭師、侍女などが奥からぞろぞろと出てきた。
執事長が、よくぞご無事でとか、安心しましたとかなんとか言っているけど、そんなの聞き流して執事長の目の前に立った。

「・・・。ヘンリーはどこ?」

感情のない表情で、執事長に聞く。

「あ・・・。へ、ヘンリーは、今は、王城に・・・と、囚われて・・・・あれ、でも・・・ヘンリーはお嬢様を・・・、っ!」

ぴくッと眉が動いてしまった。
わかっていたが、やはりあらぬ疑いで囚われているようだ。

「なんで?私は、“旅行”に行っていただけなんだけど。」

「・・・・・え?」

「え?聞いてない?私、一人旅に出るって置き手紙して行ったの。なのにヘンリーが、一人きりはどうしても危ないから護衛として連れてけって言って、どうしても聞かないもんだから、嫌々無理に着いて来られただけなのに・・・。はぁ。私の誘拐で囚われるなんて、ありえなくない?侯爵家も、ヘンリーに感謝こそするけど捕まえるなんて、あり得なくない?あーもー!本当、手の焼けるやつなんだから。ん?・・・なにしてるの?今すぐ、私の護衛兼執事を間違えて捕らえた事を抗議してきて?今すぐに!今している仕事なんかどうでもいいわ。ヘンリーを今すぐ私の所に連れて来て!」

「か、畏まりました!」

バタバタと、執事長たちが動いたのを見届けてから、私は自分の部屋に向かおうとして、足を止めてた。

「・・・いま、ユーリはどこに?」

後ろで私の荷物を持っていた侍女に聞く。

「あ・・・、ゆ、ユーリは部屋に籠っていまして・・・。」

「部屋に?そう・・・。じゃあ、ユーリの部屋へ案内してくれる?」

その侍女にそう聞くと、侍女はカタカタと怯えながらも頷いてくれた。

(私の悪評ってまだまだ拭てないんだ。あーぁ。顔色伺うの疲れる。はやくヘンリーに会いたい。)

侍女たちの様子を見て小さく息を吐く。その様子が、また不機嫌に思われたのか侍女が急いで私を誘導した。

「こ、こちらです・・・。」

「ありがとう。もう、下がっていいわ。私の荷物は手を付けずに部屋のテーブルの上に置いておいて。後でユーリにやらせるから。」

「え、あ・・あり?」

(そうだ、お礼何て言わないんだった・・・!)

「何してるの?聞こえなかった?私は下がれと言ったのよ。」

「ひゃっ!も、申し訳ありません!し、失礼いたします!」

すたこらサッサという様に、侍女が駆け足で去っていた。
そして、周りに誰もいないのを確認してから、私はユーリの部屋のドアを叩く。

コンコン・・・

「・・・ユーリ、私よ。心配かけて、ごめんね。ちゃんと説明したいの。ここ、開けてくれる?」

バタン、ドタドタ、ドシン

ガチャガチャ・・・

余程急いだのか、部屋の中でものすごく慌てているような絶対転んだだろうと言うような音がする。

キィー・・・

「お、お嬢様?」

扉が開き、部屋着のユーリが恐る恐る声をかけてくれた。

「ごめんね、勝手に居なくなったりして・・・」

「お嬢様!」

私だとちゃんとわかると、ユーリは部屋から飛び出して来てギュウっときつく抱きしめてくれた。

「わ、私・・・、すみませ、ズビ・・・お嬢様、の悩み・・・わかってあげれてなくて・・・、本当、すみませ・・・」

グズグズと泣いて、言葉に詰まりながら謝るユーリを見て、胸が詰まる。謝るのは私の方なのに・・・私が、現実を受け入れられ無くて逃げただけなのに・・・。この2ヶ月でどれだけユーリが悩んだんだろう、そう思うと申し訳なくて自分勝手すぎた事を申し訳なく思う。

「ユーリ、謝るのは私の方。自分勝手に家出して・・・心配かけてごめんなさい。でも・・・でもね、この2ヶ月で整理出来たことも、これからどうして行きたいかもわかった気がするの。無駄な時間じゃなかった。だから、話聞いてくれる?」

泣いてるユーリの涙を拭いながら、謝る。
そんな私の言葉に、ユーリは少し驚いたように目を丸くしたかと思ったらゆっくりと頷いてくれた。

「あ・・・ちょっと、汚いんですが、どうぞ・・・。」

「転んだでしょ?ふふ。すごい音が聞こえてたわよ。」

「はは。聞こえてましたか・・・。お恥ずかしい。あ、そこに座ってください。お茶を用意しますね。」

「ありがとう。あ、ゆっくりは出来ないからお茶はいいわ。とりあえず、ザッとこの後・・・今後のことを伝えたいの。座って聞いてくれる?」

「あ、はい!」


*****


「ということで、私と、ヘンリーは・・・えっと、その~・・・」

「お互いに思い合う関係になっていって、愛を確かめたんですね!?!?そして、今はヘンリーが囚われているので、急いで帰ってきたって事ですね!?」

前のめりにユーリが私の言いたいことを全部言ってしまった。

「・・・・そうです。で、旅しながら必死に考えた言い訳が、」

「“旅行”だったと。」

顎に手を当てて、ユーリがふむふむと納得しだした。

「いいと思います。お嬢様・・・前の、リリアーナお嬢様は良く、おひとりで勝手に出かけたりしていましたし、もっともっともーーーっとわがままでしたので・・・。多分、周りからはしばらく大人しかったお嬢様のわがままが爆発して戻ってきた・・・そんな風に、みんな納得すると思います。」

「本当!?よかった・・・」

「あぁ~・・・でも、この家の人や、裕美お嬢様を知らない人は、ですけど・・・。多分、王太子様や、アラン様は・・・騙されてくれるかどうか・・・。」

「そうね、でも、一か八かになるけれど、一つだけ・・・心当たりがあるというか。」

「心当たり?」

「うん、まぁ、それは任せて!ってか、そんなに寝込むほど私が居なくなったのショックだった?ごめんね?でも、ちゃんと落ち着いたら連絡するって書いたでしょ?」

「え?あ、あぁ~・・・今日は・・・・その、ただお休みの日で・・・ただ単に出かけてなかっただけというか・・・なんというか・・・。」

なんだ、てっきり、私が家出したのがショックで寝込んだとかそんな感じかと・・・。
自意識過剰で少し恥ずかしい。

「え!あ、そうなんだ。あ、じゃあ、私邪魔よね!?ごめんね!?急に押しかけて!」

「いいえ!帰ってきてすぐに来てくれたんですよね?とっても嬉しいです!あ、お嬢様が返っていらしたので、今日からお仕えしてもいいですか?今すぐに準備します!」

「え、いいよ!そのまま休んで!?」

「裕美お嬢様に会えたのが嬉しいんです。それに・・・他の侍女にお嬢様のお世話は任せられません!ふふ。」

「・・・ありがと、じゃあ、部屋で待ってるね。」

ユーリの暖かい心使いにほっこりして、これから私がすることに説明はするけど少しだけ罪悪感を覚えた。

(でも、私、頭悪から・・・これしか思いつかないんだもん。・・・これにかけるしかない。)

ユーリの部屋を出て、深呼吸をしてから自室を目指して私は歩き出した。






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