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第41話【フィンセント目線】

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【フィンセント目線】

「フィンセント様、今日はお招きいただいてありがとうございます。お兄様の学友の方たちにも会えましたし、何よりお兄様が楽しそうに学園生活を送れていると知れてとても嬉しかったです。」

舞台を見に、講堂へ来て座るとミリィが耳打ちするようにお礼を言ってきた。

「楽しんでくれてよかったよ。ミリィも来年、こっちに留学する予定なんだろう?寮の事とか、学園の事をよく見ておくといいよ。」

「来年入学する時にはお兄様もフィンセント様もいるので心強いですわ。今から楽しみで仕方ないです。」


来年には、ミリィも婚約者が決まっているはずだし、今回のようにはならないはずだ。
さっきも、ウィルソンがちゃんと叱ってくれたのを見たしな。
少々わがままなところがあるが、それは末っ子長女だから仕方ないとも思う。
みんなミリィを蝶よ花よで育ててあまり怒られたり断られたりしたことがないんだろう。

「殿下、そろそろスピーチの時間です。」

アーノルドに促されて、スピーチの準備のために席を立った。
舞台袖に来ると、アーノルドが言いにくそうに口を開いた。

「殿下、その・・・ミリア王女とはどのようなご関係なんでしょうか?失礼ながら昨日、今日のミリア王女の振る舞いを見ていると・・・・その、」

「俺の事を好きで婚約者の座を狙っていそうか?」

「・・・・・はい。この二日で、妙な噂が立っています。もしもその噂がリリアーナの耳に入って、今の二人を見たりしましたら・・・。」

「前のリリアーナになりそうで怖いか?」

「いえ、そうではなく、可哀そう・・・・です。もしもリリアーナを蔑ろにするようなことがあれば、俺はどんな手を使ってもこの婚約を破棄させていただきます。妹が不幸になる所は兄として見たくありませんから。」

「・・・・わかったよ。肝に銘じておく。」

いつも、俺のする事にあまり反対しないアーノルドが珍しく怒っている。

(・・・そんなに曖昧な態度だったか?外交の事を考えて万が一にでも粗相がないようにはしていただけだったんだが・・・。少々、腑に落ちないが・・・。しかし、周りから見てそうだったのなら、裕美には申し訳ない事をしたな。それに、俺だって裕美と学園祭を回りたかったが・・・。はぁ。)

モヤモヤと嫌な胸騒ぎがしつつ俺はスピーチするために舞台に立った。





「どういう事だ!?そんなの聞いてないぞ!!」

生徒会室に俺の怒声が響く。
怒りのあまり机を思いっきり叩くと、机の端にあった書類たちがバサバサと落ちて行ったが気にしている時ではない。

「すまない、リリアーナ嬢と約束していることはわかってはいる。だが・・・ミリィがどうしてもと言って聞かないんだ。」

ウィルソンが申し訳なさそうに言うが、到底納得なんかできない。

「そんなの知るか。俺には婚約者がいるんだぞ?何故、ミリィのエスコートをしなきゃいけないんだ。ウィルソンがすればいいだろう!?」

「そうしたいのはやまやまなんだが・・・。いつの間にか俺には相手が居ることになってしまってな、断れそうにないんだ。」

「は!?何故!!??」

「・・・親父の命令なんだ。アシュリー嬢は俺の婚約者候補の一人で、一度は会ってみろと言われて・・・のらりくらりと交わしていたが・・・・ミリィの奴がここに連れて来やがった。」

苦虫を噛んだようにウィルソンは嫌そうに言う。

・・・・まぁ、こっちで奔放にやっていたらしいから、アッポリス国王がなにか口だしてきたい気持ちもわかるが・・・。何故今日なんだ!?

「っ!!!じゃ、じゃあ!!アーノルドでもいいだろう!?」

「駄目よ。アーノルド様はリリアーナ様をもう迎えに行ったわ。」

俺の問いに答えたのは、黒猫姿のミリィだった。

「・・・は?何故、「フィンセント様、私はね?あなたに会うために一週間もかけてこの学園に来たのよ?なのにずーーーっとリリアーナ様の話ばっかり。私、すっごく傷ついたんだから。」

俺の言葉を遮ってミリィが話す。

「後夜祭のパーティくらいエスコートしてもらってもばちは当たらないでしょう?してくれないなら、私このまま国へ帰ってお父様に“フィンセント様に弄ばれた”って言っちゃうんだから。」

「は・・・?弄んだつもりは一切ないが?」

「えぇ?無自覚なんですの!?ひどい!」

「は?」

なんだこの女は・・・・いったい何を言っている?

「フィンセント様は気が付いてましたよね?私の好意に。それなのに・・・前は婚約破棄するって言ってたくせに次に会った時にはどう?リリアーナリリアーナって二言目にはリリアーナって。これのどこが弄んでないんですか?あたし、この一年、ずっとフィンセント様の事待ってたのに・・・。」

すごく辛そうに顔を背けるもんだから本当に俺が悪い気がしてくる。

「まぁ、恋心は仕方ないですよね。この二日の貴方を見て、諦めもつきました。だから、最後に楽しい思い出で終わりたいの。もう、二度とこんなこと頼んだりしませんわ。だからお願い、私のエスコート、引き受けてくださらない?」

手を取られ、切実にお願いをされる。
本当は、裕美の仮装姿を一番で見たいし、絶対可愛いだろうからずっと近くで他の男の目から守りたい。
だけど・・・アッポリス王国とは友好国でいないといけないのも事実で。

「・・・・・はぁ~。わかった。今回だけだからな。もう、二度としないからな。」

「やった!ありがとうございます、フィンセント様!」

「愚妹が本当に申し訳ない。恩に着るよ。」

ウィルソンとミリアにお礼を言われて急いで着替えをして会場へ向かった。





会場入りすると、一番に天井の星空やオーロラが目に入る。

(あの始めてキスした夏の夜の事を思って頑張って手配した会場だ。・・・・裕美と来たかった。)

「フィンセント様?とってもきれいですね!」

ミリアが無邪気に言う。

「そうだろう?リリアーナとの思い出の日をテーマにしたんだ。」

「・・・・へぇ。そうなんですねぇ。」

明らかにテンションが下がったのが分かったが、俺はわざと無視をした。

「殿下。」

「・・・アーノルド、リリアーナは?」

アーノルドに話しかけられて、リリアーナが居ない事にすぐに気が付く。

「リリアーナは奥の壁際にいるそうです。」

「・・・そうか。リリアーナには申し訳ない事をした。」

「いいんです。今回は仕方なかったことは私はわかっています。しかし・・・ちゃんと、リリアーナと話し合って、謝ってください。」

「わかった、そうする。ありがとう、アーノルド。」

「いいえ。」

リリアーナの方へ向かおうとすると、ミリアが手を離さない。

「・・・私のエスコートでしょう?勝手に一人でどこ行くんですか?」

「・・・・。」

「あ、あちらに先生方が居ますわ。まずは挨拶しないと。ふふ。ね?フィンセント様?」

「あぁ、わかった。」





やっとの思いで裕美の所まで来たが、アランが相当怒っている。
まぁ、当然だ。朝に忠告したばかりなのにもうこれではな。

仮装の衣装をほめても、裕美も怒っているのか感情のない笑みが返ってくるだけだった。

エスコートの手を放したいのに、ミリィは華奢な体の細腕のどこにそんな力があるのか全然離れない。

(はぁ。いますぐ弁明して裕美を抱きしめたい・・・。)

裕美が酔ったといって出て行ってしまったのを追い掛けたかったが、やはりミリィは離してくれなかった。
裕美が居なくなって5分ほどしてミリィがお手洗いに行くと言い出した。

「リリアーナ様の様子も見てきますね。ふふ。」

「あ、あぁ。頼む。」

ミリィに頼むのは不安しかなかったが、女子トイレに男の俺が入ることはできない。仕方なく了承する。

「おい、どーいうことだよ。朝言ったよな?リリアーナを蔑ろにするなって。」

ミリアが見えなくなってすぐにアランが詰め寄って来た。

「俺だってリリアーナの所にずっと居たかったさ。それに、エスコートだって・・・。あんな可愛い姿のリリアーナを他の奴が見ただけでも嫌なのに・・・。」

「・・・じゃあ、どういうことだよ?」

アランに、ミリィに言われた事や今回だけだと泣きつかれた事などさっきあった出来事すべてを話した。

「マジか・・・。って、つーかそんなやべぇ奴にリリアーナを任せらんねぇだろ!行くぞ!」

「そ、そうだな・・・!」

アランと一緒に急いでミリィを追う。
会場を出た時、物陰から話し声が聞こえた。

「・・・で、うまくいったの?」

ミリィの声だ。いつもよりも数段低い声は、一瞬誰だか分らなかった。

「はい、薬を飲ます所までは・・・しかし、リリアーナ様を見失ってしまいまして・・・。」

は?薬?リリアーナ?
いったい何の話をしているんだ?こいつらは・・・。

「はぁ!?なにやってんの!?せっかく飲ます事までできたのに、最後まで見届けないと意味がないでしょう!?今すぐ探して!」

最後?見届ける?どういうことだ!?

「は、はい!ただいま・・・っ!」

ミリアの従者が踵を返そうとした処で、声をかけた。

「どこへ行くつもりだ。」

「フィンセント様!?」

「ふぃ、フィンセント殿下・・・!?」


「ミリア、俺の婚約者に何かしたのか?」

怒りで手が震える。こんなに怒るのはいつぶりだろうか。
もし・・・万が一裕美に何かあったらと思うと目の前が真っ赤になりそうだ。

「・・・。」

ミリアは俺の質問を聞いても顔色一つ変えずに黙り込む。
従者はまさか俺に聞かれるとは思わなかったのか、恐怖で尻餅ついた。

「おい、答えろ!!!!薬ってなんだ!?見届けるって、なんだよ!!??」

アランはミリアじゃ話にならないと思ったのか、従者の胸倉を掴んで問いただした。

「み、ミリア王女様・・・・」

助けを求めて従者がミリアを見るが、ミリアは今まで見たことがないくらい冷たい笑みを見せて口を開いた。



「言っちゃだめよ?言ったら、死刑にしちゃうんだから。」



「ひ、ひぃーーー。」

ミリアの狂気のような笑みにその場にいる全員が固まる。

「み、ミリア・・・?」

こいつは本当に俺の知っているミリアなのか?
わがままなところがあるのは知っていた。でも、ここまで狂っている奴ではなかったように思う。

「・・・フィンセントが悪いのよ。心変わりなんかするから。邪魔なんだから、あの女を消しちゃうのは仕方ないでしょう?あたしのフィンセントをたぶらかすのが悪いのよ。」

俺の知る、ミリアの口調で淡々と話し出す。

「消す・・・!?」

物騒な言葉を聞いて、気が遠くなりそうになるのを必死で踏ん張る。

「うん、そう。ふふ。あと少しで薬も効いてくるはずだわ。そうしたら・・・・キャハハ。」

「お。おい・・!いま、リリアーナはどこに・・・!?」

アランが従者を掴み倒しながらミリアに聞く。
ミリアは、アランを感情のない顔で見て、声だけは無邪気に話し出す。

「えぇ~?知らなぁい。あなたたちもさっき聞いたでしょ?見失っちゃったんだって。この能無しのせいで!」

ミリアは従者の手を思いっきりヒールで踏んづけた。

「ぎゃあああぁ、お、お許しください、ミリア様・・・!」

従者の手を楽しそうに笑いながらぐりぐりと踏んづけ続ける。

「ミリア!何してる!!やめろ!!!」

「あれ?お兄様。アシュリーは?」

ミリアはいつも通り可愛らしく、コテンと小首をかしげてウィルソンを見た。

「・・・おいてきた。」

「使えない女ね、あいつも。」

ウィルソンの言葉を聞いて、また冷たい表情で会場を睨むとふぅ・・・という様にため息を付いた。

「殿下!!」

騒ぎを見ていた給仕がウィルソンだけではなくアーノルドも連れてきてくれた。
事情を手短に二人に話すと、二人の顔色がどんどんなくなっていく。

「まさか、おまえ、あの薬を・・・?」

ウィルソンはなにか心当たりがあるのか、どんどんと顔色が悪くなっていく。

「あれ?お兄様、気付いちゃった?えぇ~早すぎるよぉ。ふふ。だって、楽しいでしょ?男好きの泥棒猫にはお似合いでしょう?いま、いったいどんな風になっちゃってるのかなぁ~?キャハハ。」

辺りには、心底楽しそうにミリアが笑い声が廊下に響いた。




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