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第38話

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「―――な?――アーナ!リリアーナって!」

「え?あ、ごめん、考え事してた。」

アランに揺すられて、ようやく意識を浮上させた。

(駄目だ、全然内容が頭に入ってこなかった・・・。)

「大丈夫か?疲れた?」

「あ~・・うん、ちょっと疲れちゃったのかもしれない。」

「これから、フィンセントのスピーチだけど、どうする?聞いたら帰るか?」

「うん、そうだね。」

「無理そうなら、今出ても大丈夫だぞ?」

「うん・・・じゃあ、ユーリにも少し早く帰って来てって言われてるし・・・帰ろうかな。」

「そうか?なら、送ってく。」

「え?ううん!大丈夫だよ!一人で平気。ほら、また何言われるかわからないしさ!・・・じゃあ、また、後夜祭でね。」

「あ、おい!」

私はアランの話も聞かずに足早に講堂を出た。





「わわわわわわわっ!!!!お嬢さま、す、素敵すぎますぅぅぅ!!!」

「あはは、ありがとう、ユーリ。」

私は、仮装用の衣装を着て、鏡の前に立つ。
後ろからジッとヘンリーに見つめられながら居心地の悪いようないいような時間を過ごした。

「・・・・ねぇ、もし、私が、今日はやめ・・・「え・・・?」

「う、嘘よ!やめるわけないじゃない?こんなかわいいの作ってもらっといて・・・。ハハハ」

ユーリの残念そうな顔を見て行きたくないとは言えなくなってしまった。

(ノリノリで衣装作るんじゃなかった・・・。)

フッと、鏡越しにヘンリーと目が合う。
私は、昨夜のキスの相手がヘンリーな気がして気まずくって目を逸らしてしまった。

「・・・おじょ「お嬢様!お迎えが参りましたよ!」

「うん、わかったわ!今行くっ!」

私は一度大きく深呼吸をして、寮の玄関へ向かった。

「あ、れ?お兄様?」

玄関には、フィンセトではなく、アーノルドが吸血鬼のような格好をして立っていた。

「あぁ、りり・・・リリアーナ!?なんだその格好は!?」

アーノルドは、私が来た事を確認するや否やすごい剣幕で捲し立てる。

「え?仮装パーティのドレスですけど・・・?似合いませんか?あ・・・もしかして、非常識でしたか?」

ユーリは可愛い可愛いといってくれたし、ドレスについて露出しすぎとかこれは駄目とかは言われてないから安心していたけれど・・・もしかしたらダメなところがあったのかもしれないと不安になってきた。

「っ、に、・・・・・似合ってる。それに、めちゃくちゃ可愛い。う、ウサギか?この耳は・・・。」

「良かった、ありがとうございます!!そうです!うさちゃんにしたんです!バニーガールですよ!可愛くないですか!?」

そう、私が作った衣装はチューブトップに、前が短くって後ろが長いふんわりスカートのショートドレスのような感じバニーちゃんだ。
蝶ネクタイのようなチョーカーを付けたり、ショート丈の手袋もしている。靴は、ニーハイソックスにヒールの高いパンプスで大人っぽくしている。もちろん、スカートの後ろには小さくてまあるい白の尻尾も着いている。
エロ過ぎず、可愛すぎず、甘すぎず、辛すぎずちょうどいい感じに出来上がったと自分では思っている。

(なんにしても、リリアーナは何を着ても似合うんだ。胸も大きいしくびれもすんばらしいし。)

こんな機会はそうそうないだろうと思ってユーリとすごく色々と考えて作った力作だ。

「・・・・・・ほら、行くぞ。」

「え?でも、フィンセント様は・・・?」

エスコートは基本的に婚約者がするものだと、ヘンリーが言っていた。だから、てっきりフィンセントが来ると思っていたが・・・。

「あぁ・・・・いや、その、」

アーノルドが口籠った事によって、"声"を聞かずとも察した。

(あぁ、ミリア王女をエスコートするのね。)

また少し、心が冷たくなっていくのがわかった。

「お兄様、私は大丈夫ですわ。行きましょう。」

にっこりと笑って、アーノルドの腕に手をかけて歩き出した。
アーノルドは何か言いたげだったが、私は何も聞かない様に他愛もない話をしていたら、察してくれたアーノルドは何も言わないでくれた。





「わぁ・・・」

パーティ会場に入ると、とてもきらびやかで素敵な空間だった。
高い天井には室内なのにいくつもの星やオーロラがあって、程よく暗くて幻想的だ。

「すごくきれい・・・。」

「そうだろう?手配がんばったんだから楽しんでくれよ?」

「ふふ。本当にすごいです、素敵です。お兄様、連れてきてくれてありがとうございますっ!」

行きたくないって、行かないって言わなくって良かった。
本当にそう思えるくらい素敵な会場だった。

ワァ・・・

解除の入り口で、何やら騒いでいる。

「あぁ、王族たちが到着したようだな。」

少しだけアーノルドは眉間に皺を寄せてシャンパンを給仕の人から受け取りながら言った。

「あぁ・・・。あれ、お兄様は側近として近くに行かなくって良いんですか?」

アーノルドからシャンパングラスを手渡されて2人で軽く乾杯をして少しだけ口に含む。

「あ~・・いや、いまはいい。」

「私なら、1人で大丈夫ですから、お兄様はちゃんとお仕事してきてください!足を引っ張るのなんて嫌ですからね?あたし。」

ニッコリ笑って、アーノルドに言うと、少しだけ気不味そうにしながら困ったように笑った。

「わかった。じゃあ、少しだけ離れるな。本当に1人で大丈夫か?それか、一緒に来るか?」

「いまは・・・あまり殿下と会いたくないので・・・。私は壁の花にでもなっています。」

「そうか。わかった。挨拶だけ行ってくる。ちょっと待っててくれ。」

「ふふ。ゆっくり、楽しんで来てください。」

心配性なアーノルドに思わず笑みが溢れた。





「リリアーナ嬢、今日はおひとりですか?よろしければ、あちらでゆっくりお話でも・・・」

「お兄様を待っていますので。またの機会に誘ってください。」

「では、アーノルド様がいらっしゃるまででも・・・「リリアーナ、待ったか?」

しつこい男の人に話しかけられていたら、アランが助けてくれた。

「アラン。ううん、暇はしてなかったわ。」

アランが現れると、そそくさと男が退散していった。

(聞かなくっても魂胆丸見えすぎて萎えた・・・。)

「・・・で、リリアーナ、その格好は?」

「ん?バニーちゃん!可愛いでしょ?尻尾もあるんだよ。ふふ。」

私はクルッと回って後ろの尻尾をアランに見せてポーズをとって見せた。
アランはみるみる耳が真っ赤になっていく。

「・・・・可愛い。」

「アランは、狼男?耳可愛い~!アランは?尻尾は着いてる?」

アランの後ろに回って、白のふさふさの尻尾を触っていると、大きなため息が聞こえてきた。

「アラン?」

「リリアーナ、どれだけ飲んだ?」

少し真剣な声で聞いてきた。

「・・・・シャンパン、2杯。」

「と?」

あら、アランにはバレてるか。ちぇ。

「・・・・・・・・・ワイン3杯。」

「おまっ!自分が酒弱いの分かってるだろ?なんでそんなに飲んだ?」

いつもよりもハイペースで飲んでいることはわかっている。
でも、仕方ないじゃない。飲むくらいしかやることがないんだもん。
でも、そんな子供みたいな恥ずかしい事は言えるわけもないから、

「・・・・別に。」

もっと子供っぽい言葉が出てしまった。

「リリアーナ?」

「・・・・アランには関係ない。放っておいて。」

私は、こんなかっこ悪いところ見られたくなくてアランから離れようと歩き出した。

「おっと。」

ヨロけて、アランが支えてくれた。

「ちょっと酔ってるだけだもん。」

「ハイハイ。わかったよ、リリアーナ。今日くらいは何も言わない。だからついて行ってもいいか?」

アランに手を差し出されて、その手を取った。

「うん。・・・・ごめん、大人げなかった。」

「いいんだよ。あんなの見せられたら飲みたくなる気持ちもわかるからな。」

「え?」

アランを見ると、今まで見たことがないくらい怖い顔をしていた。
視線を辿ってみると、視線の先には仲良さそうに飲みながら話しているフィンセントとミリア王女がいた。

楽しそうに笑ってる二人は、とてもお似合いに見えた。

黒猫姿のミリア王女はとっても可愛かったし、吸血鬼の衣装のフィンセントもとても似合っている。

「・・・リリアーナ?大丈夫か?」

「え?・・・あぁ~、うん、大丈夫。だって、隣国のお姫様だよ?蔑ろにはできないでしょ。っていうかさ~エスコート来れないならこれないで言っとけって話じゃない?玄関行ったらお兄様が居てびっくりしたよ。それにさ、こっち、見もしないでやんの。」

すっごい虚しい。
フィンセントが今まで嘘ついてたとかは思ってない。嘘つけるわけないしね。
でも、それでも、一瞬でこんな蚊帳の外に置かれちゃう私が虚しい。
やっぱり、この世界は私の世界じゃないって思い知らされる。
私は、普通の会社員で、ただの平民で、ゲーム好きのただの喪女。

こんなキラキラした場所でスカート閃かせながら踊ったり、バニーちゃんの姿がとっても映える女の子じゃない。

この世界に、私って必要なくない?

妖精さんはリリアーナはこの世界で幸せになれないって言ってた。・・・私は?

貴族のままで、こんな思いしてココにいる意味あるのかな・・・。


「アラン、リリアーナ。ここにいたのか。」


私が考え込んでいると、いつの間にかフィンセントとミリア王女が来た。

「ごきげんよう、フィンセント様。ミリア様。」

「ごきげんよう。リリアーナ様。ごめんなさいね?お兄様にエスコートをお願いしてたんだけど、お兄様に、他に相手が居るって言われて仕方なくフィンセント様にお願いしたの。」

絶対申し訳ないと思ってもないのが伝わってくる。

「いえ、兄が来てくれましたので。」

「そう?リリアーナ様の仮装はウサギにしたの?可愛いわね。とっても似合ってますわ。」

「ありがとうございます。ミリア様も、黒猫姿とても素敵です。」

「本当に、リリアーナ、可愛い。綺麗だ。」

「・・・・ありがとうございます。」

多分、フィンセントは本音で褒めてくれているってわかった。
でも。その手はミリア王女と繋がったままだ。
早くこの場から離れたい、そう思った時・・・・・・・


パッと会場全体が暗くなった。幻想的なオーロラがとてもよく見えて綺麗だ。


そして、一斉に給仕の人たちがみんなに新しいシャンパンを手渡していく。


(このタイミングであのイベントかぁ~。まぁ、これが終わったらすぐ帰ろう。)


「さ~では、皆様一斉にシャンパンを飲んでください!!今日は無礼講です!残りのパーティを楽しみましょう!かんぱーーーい!」

司会の人の掛け声で一斉にシャンパンを飲む。
私も、やけくそとばかりに一気飲みした。

「・・・リリアーナ、大丈夫か?」

「平気平気。心配性すぎだよ~。」

心配してくれるアランにへにゃッと笑って、アランにも飲むように促した。
フィンセントとミリア王女のグラスの中も、もう空っぽだった。

しばらくすると、数人の男女が会場から居なくなっていく。

(よかった。私のは平気だったみたい。)

自分のグラスの中には媚薬なんて入っていない事を確認して、人知れず安堵する。

「私、少し酔ってしまったようなので失礼しますね。」

「大丈夫か?外なら、俺も・・・」

「いや、俺が行こう。」

アランもフィンセントも名乗り上げてくれたけれど、一人になりたかった私はそれを断って席を離れた。

その時、不敵に笑むミリア王女に私は気が付かなかった。


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