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第19話
しおりを挟む「‥‥え、と。何が、知りたいんですか‥‥?」
私の言葉に、目に見えてフィンセントが破顔した。
「そうだな、まずはやっぱり君の名前を知りたい。」
「‥‥裕美です。」
この身なりで、THE日本人な名前をいうのはちょっと‥‥いや、かなり恥ずかしい。
「ヒロミ‥‥か。じゃあ、ヒロミって呼んでも良いだろうか?」
「でも、この身なりじゃ似合わないですし‥‥。」
素直に、思った事をいうと、フィンセントはフム‥‥と顎に手を当てて考え込む。
「そうか?良い名前だと思うが。じゃあ、二人きりの時だけならどうだ?」
思ってもなかった事を言われて、恥ずかしくてフィンセントを、直視できない。
「ま、まぁ、それなら良いですけど。」
「じゃあ、俺の事はフィンと呼んでくれ。」
また、とんでもない事を言い出した。
一瞬、言われた意味がわからなくて、パチクリと目を大きくさせた。
「え、なんで愛称を?」
「だって、ヒロミって愛称みたいなもんだろ?そうしたらフェアじゃないじゃないか。」
(フェアとか‥‥関係あるか?って言うか、愛称なんて主人公も最後のHの時に呼んでたくらいだった様な‥‥?)
主人公とのハピエンの絡みを思い出して、ちょっと、恥ずかしくなった。
「‥‥私は、間違えそうで怖いんでフィンセント様で良いですよ‥‥。」
「別に、間違えれば良い。俺は、人前でもフィンと呼ばれたいぞ?」
きらきら王子スマイルで、さらりと言われて思わずフィンセントを凝視してしまう。
「‥‥なんか、キャラ変してません?」
「キャラ変?なんだ?それは?」
「いや、こっちの話です。」
なんだか、酔っ払っている?フィンセントは素直に可愛くなるのかなって思った。
(ずっとこうだったらいいのに。)
「じゃあ、ヒロミ、君はどこからーー・・・」
楽しそうに話しかけてくるフィンセントを横目に、私はコメ酒をグビッと飲んだ。
・
・
・
思っていたよりも、話しすぎてしまった。
お酒を飲みながらだから、酔ってきたのもあるし、意外と、本当に、意外と楽しく会話できてしまった‥‥。
ドS腹黒王子は今日は不在の様で、フィンセントは終始楽しそうに、表情をコロコロと変えて普通の友人と話す様に気兼ねなく話せてしまった。
「ってことは、裕美の体には、リリアーナが入っているって事なのか?」
「‥‥だと思いますよ?妖精さんがそんなこと言ってたんで。」
「ふーん。妖精が、ねぇ。…本当の裕美にも、会ってみたかったな。」
「‥‥もしも、会っていたとしても、絶対見向きもしなかったと思いますよ。いまと見た目、全然違いますし。結構年上ですし…それに…」
「いや、多分、普通に惚れてたと思うぞ?」
サラリと、なんてことない様に言ってのけるフィンセントに私は目を丸くした。…本当に、さっきからドキドキさせられっぱなしだ。
「っ!!本当、酔ってますよね?いつもなら、絶対に言わない事ばっかり言って‥‥。」
「んー‥‥そうか?まぁ、いつもよりは飲んだって自覚があるくらいかな。‥‥でも、」
「でも?」
不意に言葉を切られて、聞き返した。
すると、スルリと頬に耳にフィンセントの手が伸びてきた。
最初、頬を触ってると思ったら、耳の方へ手が伸びて、耳たぶや、軟骨、耳の穴を優しく擽るようにイタズラに手が動く。
私は、フィンセントの手の動きに合わせて、腰の辺りが擽ったくて声が出そうになってしまう。
「さっきから俺の言葉に、顔を赤くしたり青くしたりして、コロコロ表情が変わる裕美が可愛くてつい、な。」
「ん……ゃ…、ん‥‥!い、意地悪‥‥。」
くすぐったいのに手が気持ち良くて、声が出てしまった。ごまかし程度に精一杯、悪態をついてみたが、絶対に怖くないだろう。それは分かっているが、真っ赤になった顔を隠したくて、居た堪れなくてプイッとフィンセントのいない方を向いた。その際、フィンセントが撫でていた手が離れてしまったが・・・
「ーー・・・そっちだろ。」
「‥‥え?」
フィンセントがなにか言ったが、私には聞き取れなくて聞き返したが、それには答えはなく、私がフィンセントの方へ振り向くといつの間にかすぐ近くに、フィンセントの顔があった。
ふに‥‥
なにか、唇に柔らい感触がした気がする。
直ぐ目の前のフィンセントは目を閉じていて、とても長い睫毛が震えてるのが見えた。
少しして、ゆっくりとフィンセントも目を開けたと思ったら・・・
「‥‥キスの時くらい目ぇ閉じろよ。」
吐息が当たる距離で、頬を撫でられながら文句を言われた。
「っ!!な、・・んぐっ」
急にキスするなんてって私も文句を言いたかったのに、すぐにまたフィンセントの唇に口を塞がれてしまう。
チュ…チュ、チュパ‥‥
クチュッチュ‥‥チュル……
次のキスは、ヌルリとした感触がしたかと思ったら唇を啄まれたり、また深く食まれる。
「や……、ふぃ………んん…」
何度も、角度を変えて唇を当ててくる。
止めたいのに、フィンセントの熱い舌が上あごを擽り、私の口の中を隅々まで舐めとるかの様に動いて、逃げてしまう私の舌を捕えて離さない。逃げたいのに、顔を挟むように耳を塞がれるように手を置かれているから頭も離れなくて、絡みついた卑猥な音が頭に響いて聞こえて、犯されているみたいだ。
私達は何分そうしていたのか‥‥
私はもう頭が溶けてしまったのか、何も考えれない。
最後に、名残惜しいと言う様にフィンセントにチュ‥‥と唇を吸われて、やっと顔が離れた。
「はぁ‥‥。顔、蕩けすぎ。」
フィンセントは、意地悪な笑いをしながら、親指で私の唇とフィンセントの唇を繋いでいた銀の糸を拭ってくれた。
「ハァ‥‥ハァ‥‥ぇ‥‥?」
どうやって息をすればいいのかも分からなかったから、私は酸欠状態だし、キャパオーバーだ。
肩で息をして、頭がぼーっとして、フィンセントの言った意味がわからなくてぽやーっとフィンセントを見つめる。
「‥‥‥‥やべぇ。」
何故か急に、きつく抱きつかれた。
「‥‥ぇ?」
「裕美が可愛すぎて、帰りたくない。」
「‥‥っ!!??なっ、え!?ど!?」
やっと追いついてきた思考回路で、なんで!?どうして!?と言いたかったが、言葉にならなかった。
「はは。嘘だよ、ちゃんと帰るよ。‥‥でも。」
「っ!」
チュ‥‥
「この顔は、俺以外には見せないで。」
「~~~~っ!!!」
一度軽いキスをしたかと思ったら、フィンセントは困った様に笑って、頭をポンポンと撫でて席を立った。
「見送りは此処でいい。今日はとても楽しかったよ。じゃあ、学校でな。」
優しく笑って、颯爽と帰って行くフィンセントの背中を、私はただ、呆然と見送るしかできなかった。
・
・
・
フィンセントの姿がなくなって、少しすると、ユーリが近くに寄ってくる。
「‥‥お嬢様?大丈夫ですか?」
私の安否を心配してくれているユーリの顔も赤い。‥‥見えていたんだろう。
「ユーリ、」
「は、はい。」
「この世界では、これが普通なの?」
貴族ってさ、所謂、処女じゃないととか、厳しいもんじゃないの?こんな…急にエッチなことしてもいいの?いろんな疑問が頭に浮かんでは言葉にならない。
「‥‥まぁ、婚姻前にこう言った戯れであったり、スキンシップとしての性交渉はありますね。相性はとても大切ですから。」
サラリとユーリは言う。
(‥‥まぁ、日本でも結婚前に普通にえっちはするけどさ。いきなり、こんな‥‥なんでっ!!??本当に、どーしてこうなったの!?どこにそんな伏線があったわけ!?意味わかんない!スイッチが全然わからない!!)
とにかく、頭が追いつかない。
「と、とりあえず、お嬢様も部屋へ戻りましょう?」
「う、うん‥‥。」
ユーリにそう言われて、椅子から立ち上がろうとして‥‥辞めた。
「お嬢様?」
「・・・腰抜けたみたい。ハハハ」
「‥‥ヘンリーを呼んできます。」
ユーリは、困った様に笑って、別の仕事をさせられていたヘンリーを、呼びに行ってくれた。
ヘンリーは、珍しく慌てた様子で駆けつけてくれて、私をアーノルドと同じ様にお姫様抱っこして自室へ連れてってくれた。
「‥‥ヘンリー、ごめんね。お兄様だけじゃなく私もこんなになって‥‥」
「お嬢様は羽根の様に軽いので、お気になさらず。‥‥それよりも。」
「な、なに?」
「王太子殿下に何か‥‥?」
明らかに、いつもより声が低くてドス黒いオーラがヘンリーの周りをうようよしている。
しかし、それよりも先ほどのキスの事を言い当てられたかの様で、一気に思い出してしまってどんどん顔が、頭が熱くなって行くのを感じた。
「っ!!~~っ。えと、何かっていうか‥‥えっと・・。」
私の様子から、何かを察したのかヘンリーはすごく悔しそうに歯切りしたと思ったら、力ない声で謝ってきた。
「‥‥私がついていなかったばかりに‥‥申し訳ございません。」
「いや、謝ることなんて‥‥。」
「‥‥。」
「へ、ヘンリーのせいなわけないし、私は気にしてないから‥‥っ!だから、ヘンリーも気にしないで?ね?」
「‥‥はい。」
私が、半ば強引にこの話を終えると、それ以降はヘンリーも私も、後ろからついてくるユーリも一言も話さなかった。
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