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第16話

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「・・・はぁ。」

「お嬢様?なんだか、顔色が優れないようですが‥‥大丈夫ですか?」

ジーッとヘンリーを見つめて、また、ため息が出た。
・・・それでも、今はヘンリーが考えている事は聞こえなくなった。
一時的にだけど‥‥。私は、昨夜の男の子とのやりとりを思い出す。


◆◆◆


〈それはねー‥‥魔力のある異性から、体液を摂取する事だよ!〉

純真無垢そうな男の子が発したとは思えない単語に絶句した。

〈聞いてる?〉

心配そうに、私の手を引いて私の思考が戻ってくるように促す、少年は見た目は本当に天使なのに言ってることが悪魔すぎて頭が混乱してくる。

「え‥‥?たい、えき?唾とか‥‥そういう?」

必死に頭を回転させて、やっと出た言葉だが、唾だなんて‥‥

〈うん。唾でもいいんだけどねぇ‥‥唾だと、たぶん一杯飲んでも丸一日は持つか、持たないかかなぁ。ほら、体液って他にも、オシッコとか、あぁ、一番いいのはやっぱり精液か血かな!〉

「おしっ!!!!????せ!!!??????血!!?む、無理!!!」

〈え?なんで?〉

本気で何でって思ってる顔だ‥‥元々大きい目が、キョトンとしていてより、大きく見える。

「だ、だって、私、す、好きな人いないし!それに、誰が魔力持ってるとか知らないし!!そもそも、みんな私の事嫌いだし!!」

必死に言い訳?を言うものの、そもそも処女の私には無理難題すぎる。

〈好きな人いないの?この世界、裕美は好きだったでしょ?だから呼んだんだよ?大丈夫だよ、裕美の周りには魔力がある人がいっぱい居るじゃない。まぁ、自覚してない人もいるみたいだけど。〉

「き、嫌いでは‥‥ないけど、その‥‥ゲームと実体験とは違うというか、何というか‥‥。それに、それだけの問題じゃないよ!兎に角、むりすぎるよ!ほ、他に方法はないの?」

縋る思いで聞いてみたけれど、男の子は困ったようにゴメンねっと言った。
絶望感に押し潰されそうだ。

「じゃ、じゃあ、魔力を持ってるかどうかってどうやってわかるの?」

〈それは簡単だよ!手を握ってごらん、こう、指を絡ませて!そうすると、自然とわかるよ!〉

こ、恋人つなぎをしろと‥‥?それもまたハードルが高いな‥‥。

「‥‥っ。」

言葉が出なくて視線をさ迷わせてしまう。

〈大丈夫、裕美はリリアーナのようにならないから。だから、怖がらないで。そのままの裕美でいて。〉

「本当に‥‥?自信ないけど。うん。頑張ってみるよ。‥‥ねぇ、」

〈何?〉

「本当に私、元の世界には戻れないの?」

〈うん‥‥たとえまた入れ替わる為に体を抜け出せても、二度と自分の体には戻れないから‥‥それに、次の時は、どの世界に飛ぶのかも分からないよ。〉

「そっか‥‥‥‥。」

妖精の男の子が言うんだからそれが事実なのだろう。
一度、男の子は私のことをギュッと抱きしめてチュッと頬っぺたにキスをして来た。

〈ふふ。これで、しばらくは聞こえないよ。でも、聴きたくなったらその人の事を見つめて。そうすると、その人の”声”だけ聞こえるようになるよ。‥‥頑張ってね、裕美。〉

「っ!あ、ありがとう!!」

〈こちらこそ、来てくれてありがとう。〉

そう言って、だんだんと男の子は消えて行った。
私は、気がついたら自室のベッドの脇に佇んでいた。


◆◆◆

(っていう事は、魔力がある人を探すのはあと少しの猶予ってことか。)

それにしても、なんでこんなところだけ18禁乙女ゲーム感出してくるの!!??
ビッチになれってことなの!?
私をどうしたいの!?本当に!!!

頭を抱えて俯くと、ユーリが背中をさすってくれた。

「お嬢様、なにかお悩みがありましたらおっしゃってくださいな。ユーリは出来る限り、お力になりますよ?」

「ユーリ~~!!!ありがとう~~っ!!!」

ユーリの手を、正面でギュッと掴むと‥‥

ピリッ

掌に静電気が起こったような感覚が来た。

(‥‥もしかして、これが魔力があるかないかわかる時の合図?)

ユーリは、微笑みながら、特に何か気にした様子はない。
私は、ユーリから掌を離して自分の手を見る。

(‥‥ん?ユーリには魔力があるってこと?なら!ユーリに頼んで‥‥って、”異性”って言われたんだっけ‥‥。はぁ。気軽にキスなんか出来ないに決まってるじゃんか‥‥しかも、言い方的に濃厚な方でしょ?前の私でさえしたことないっつーの!)

考えれば考えるだけ沼にはまっていきそうな気がする。

「大丈夫。ありがとう。あ、ねぇ、ユーリ!」

「はい、何でしょう?」

「ユーリの知り合いに、魔力がある人って居る?」

「魔力持ち‥‥ですか?ま、まぁ‥‥いるには、いるんですが‥‥」

少しだけ、困惑気味に口籠もった。

「うそ!紹介してくれない!?」

「はい、父と、祖父で宜しければ‥‥」

(お父さんっ!!!!しかも、お爺ちゃん!!!!‥‥‥‥それは無理だぁ。)

キスなんか出来る気がしない‥‥。
そんな事を考えていると、ヘンリーが徐に手を挙げた。

「ん?どうしたの?ヘンリー。」

「‥‥私も、魔力があると言われています。まぁ、魔法は使えませんが。」

「ヘンリーが!?」

「はい。それで、何故、魔力保持者をお探しなんですか?」

淡々と、でも、少しだけ食い気味にいつもよりも話してくる。

(まさかこんなに近くに!‥‥でもヘンリーとキスするの?ゲームのように、変なドア開いちゃわないか?そうでなくても今でもちょっと変態気味なのに‥‥。いや、今はやめておこう。とりあえず、一週間のうちにいい人がいなかったら‥‥頼むことにしようかな‥‥?)

それでも、女王さまになるのは御免被りたい。
私、ノーマルだから!!あんな変態プレイ、無理だから!!!

「あー‥‥本当に魔法って使えるのかなぁって思ってさ!私のいた世界では科学はあっても魔法はなかったから、見てみたいなぁっていうただの好奇心!」

「そうですか‥‥。お役に立てずに申し訳ございません。あ、ですが‥‥王太子殿下と、アーノルド様は魔力保持者だった気がしますが。」

「っ!!フィンセント様と、お兄様が?」

「はい。」

(ひゃーっ!盲点!確かにね、この世界の重要キャラなんだから、ありえる。ものすごく、濃厚だわ。だとしたら、アランと、もう一人も‥‥?えぇー‥‥でも、攻略対象者にこっちから近くの怖すぎない?ばさっと切られちゃったりしないかな?うーーん。)


私が考え込んでしまうと、それ以上はヘンリーもユーリも邪魔しないように後ろに下がっていてくれた。





午後、念願だった下町へ出て見ることになった。
気分転換にもなるし、この世界を知る事もできるし、何よりも来た市場が大きくて、海外のお祭りのようでワクワクしてしまう。

「おじょ‥‥リリ、そんなに離れては危ないですよ!」

「あ、ごめんなさい!」

ユーリに注意されて、急いでユーリの元へと戻る。それでも、好奇心が隠せなくてあちこち余所見して歩いてしまう。

「リリ、私の手を握っていてください。とても人が多いので。」

すると、自然とヘンリーが手を繋いではぐれないようにしてくれた。
ヘンリーの頭の中が聞こえないからか、いつもよりも落ち着いていて大人に感じてドキッとしてしまった。

「あ、ありがとう‥‥」

男の人に免疫がなさすぎて、絶対赤くなっていると思う。
24歳にして処女の喪女だったのだから仕方ない。

「いいねぇー!そこの若いの!べっぴんさん連れて!ほら、サービスするよ!こっちにも見に来てくれ!」

魚屋のおじさんがお世辞(リリアーナだから事実っちゃ事実だけれど)を言いつつ呼び込みをしている。

「わぁ!カラフルなお魚がいっぱい!あ、でも見たことある奴もいる~あ、これでなめろう作ると美味しいんだよね!」

「なめろう?ですか?」

「そう!細かく切って、味噌とか生姜とかと混ぜて作るヤツ!とってもお酒に合っておいしいんだよー!あぁ、飲みたくなって来たー!日本酒とか、焼酎ってないのかな!?あ、その前にこれ買って帰ろう!私作るよ!ねっ!」

上機嫌でヘンリーを見ると、すごく優しく笑っていた。

「はい、買って帰りましょう。酒屋も、奥にあるので、寄ってみましょう。」

そう言って、ユーリに言ってアジを3匹とイカ、あとはカラフルな魚と、塩焼きで食べれそうな、おじさんのオススメの白身魚を買った。

こっちのお金の通貨はやはり日本と同じようで、呼び名が変わっただけでほとんどそのままだった。

ヘンリーやユーリに下町のことを教えてもらいながら市場の中を歩くと奥に酒屋さんがみえてきた。

「ここの酒屋はこの辺では一番取り揃えが良くていい酒が置いているんですよ。」

そう言ってヘンリーがお店のドアを開けてくれる。

「へぇ~!じゃあ、ヘンリーもよく買いに来るの?」

「っ!そ、そうですね、よく来る方かもしれません。ここは、酒場も併設しているので来やすいんですよ。」

「酒場っ!いいなぁ!私も来てみたい!」

こんな穴場な酒場なんて、とっても良さげだ。
絶対、美味しいものも置いてるに違いない!

「だ、ダメです!侯爵令嬢がこんなところ来たら‥‥「おいおい~こんな所とは、言ってくれるねぇ~~」

急に、ヘンリーの肩にグンっとのしかかって来た強面のおじさんがニシシと笑いながら話しかけて来た。

「ジョン!‥‥ち。今日はここに居たのか‥‥。」

ヘンリーはのしかかって来た相手を確認すると、珍しく表情が崩れて嫌そうにしている。

「なんだよ、その言い方は~~自分の店なのにいちゃ悪いってか?」

「カレンはどうしたんだよ。」

「あぁ、なんかあいつ調子悪いみたいでな。今は奥で横になってるよ。」

「そうか‥‥。」

「って、このお嬢ちゃんがヘンリーの想い人か?ニシシ」

「じょ、ジョン!口を慎め!この方は‥‥っ」

ジョンと呼んだ人をヘンリーは焦ったように言葉を被せて誤魔化そうとしている。
・・・バッチリ聞こえたけど。

「ヘンリー、いいの。気にしないで。」

「っ!で、でも‥‥」

「お嬢ちゃんがいいって言ってんだからいいんだろ!ってか、えらいべっぴんさんだなぁ!こりゃ、ヘンリーが苦労するわ。ははは」

ジョンは私の近くに来て、まじまじと私を上から下まで見ている。
ちょっと、いや、かなり気不味いが、べっぴんさんと言われて嫌な気分になる人はいないだろう。

「ありがとうございます、ジョンさんも男前でかっこいいですよ。」

「がはは!見る目あるな、お嬢ちゃん!気に入った!で、どんな酒を探してるんだ?酒屋に来たってことは酒が目的なんだろう?」

「はい!日本酒‥‥あの、お米のお酒とか!焼酎ってありますか!?」

「お!コメ酒が好きなのか!いいねぇ!珍しいねぇ!一昨日に、ちょうどいいのが入ったんだよ!試飲してみるか!?」

「いいんですか!?したいです!」

「お、お嬢様!だめです!お酒弱いんですから!」

「え、お嬢様が!?でも、前はざらでしたよね?」

「あぁ、しかし、この間の夜会の時は、ワイン4杯でベロンベロンに‥‥って!もう飲んでる!ジョン!本当に弱いから!少しだけにしておけよ!絶対に!じゃないと、この辺で仕事できなくなるぞ!」

珍しく感情的になっているヘンリーが面白くて、ジョンさんのお話も面白くて、その後2時間、裏に上がらせてもらって4人で仲良く飲んで帰りました。

次は、ジョンさんの奥様のカレンさんも一緒に飲めるといいなぁ~~



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