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第1章 この度、伯爵令嬢になりました。

13*【ディナン目線】その2

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この二日が長かった。凄くチャコに会いたくて仕方なかった。
声を聞いて、隣にいるだけで落ち着くあの子に会いたかった。

「そんなに急がなくても、女の子は来ますよ。落ち着いていた方が男らしくていいと思いますよ?」

アルバートを連れて約束の時間よりだいぶ早く着いてしまった。ソワソワとあたりを歩き回っていると、下の方から元気な声が聞こえた。チャコだ!‥‥でも、もう1つ声がする。今日は誰かと一緒なのか?様子を見るために木の上に隠れた。

「あっるっく~~あぁるぅく~~わたっしは~~げんきぃ~~♪」

聞いたことないが、すぐに覚えそうな歌を元気に歌いながらこの前の石垣へ向かって来る。
・・・んなっ!!!見知らぬ男の子と手を繋いでいるではないか!?仲が良さそうに見える‥‥。なんだ?下町の子供は、そんなに密着するものなのか!?う、う、羨ましい。。うぐぐ・・。

私の衝撃を受けた顔が面白かったのか、アルバートが口元に手を当てて必死に笑いを堪えている。こ、こいつ、この前からキャラ変わってないか?ジトッと睨んだのが分かったのかアルバートの顔が真顔に戻る。

引き続きチャコの様子を見ていると、石垣に座ってからもずっと手を握っている。‥‥二人がとても楽しく話している。何だかモヤモヤして来て、胸がチクチクと痛い。見ていたくない気持ちになる。‥‥今日はもう、帰ってしまおうか‥‥。

「これから来るディナンってね、とっても可愛い子なんだよ。ジョーもね、絶対仲良くなれるよ!会えるの楽しみだねっ!早くこないかなぁ?」

チャコの無邪気な声が聞こえて、ギュウっと先ほどとは違う胸の痛みが増した。なんなんだ、これは‥‥

「ほら、ディナン様。呼んでくれていますよ。帰る時間になったら合図しますから、遊んで来てください。」

コソッと言われて、アルバートに1つ頷いてチャコの元へ行く。


「あ、ディナン。こんにちは」

私の姿に驚いた様子もなく、普通に声をかけて来た。

「‥‥あぁ。今日は‥‥一人ではないのだな。」

‥‥嫌味に聞こえただろうか。言いたくなかったのについ声に出ていた。しかしチャコは、特に気にした様子もなくジョーという少年を紹介して来た。

「ご紹介しますね。こちらはジョー。私の幼馴染なんです。」

「ジョーです。‥‥宜しく。」

紹介されたジョーは、手を差し出して来た割にとても私の事を、ジロジロと見て私の様子を伺っているみたいだ。

「‥‥ディ、ディナンだ。宜しく」

躊躇しつつ差し出された手を握って握手をする。‥‥こいつとは仲良くなれない気がするな。なのに私たちの様子を見てチャコは怖いくらいニヤニヤしている。そんなチャコをジョーはとても愛おしそうに見つめていた。‥‥こいつは、チャコが好きなのか。

チャコが、私たちが仲良くなるために私の事を、すごい!と褒めてくれる。大袈裟なくらい褒めてくれるから、どんどん恥ずかしくなって顔が赤くなって行くのがわかる。でも、本心で言っているのがわかるから嫌な感じではない。


何かしたいかと聞かれても全然浮かばない。‥‥この前のようにチャコの近くにいれたらそれでいい、としか思わなかった。

「そしたら、隠れんぼはどうですか?」

「いいと思うよ。そしたら、私が鬼をしよう。」

多分、私が隠れたらどっちも見つけられなさそうだしな。

「ありがとうございます。じゃあ、30秒数えたら探しに来てくださいね!」

「わかった。」

返事をしたら二人が一斉に走り出した。なるべくゆっくりと数を数えていく。それでも気配でどこに行ったのかわかってしまうから、私には隠れんぼは向かない。

「‥‥28、29、30っと。」

チャコはさっきまで私たちがいた木に登っているようだ。‥‥令嬢が木になんか登るわけないよな。やっぱりチャコは平民の娘なのだろうか‥‥。そうするといくら好きになっても、私たちは一緒にはなれないな‥‥。はぁ。そう自然とため息が出た。なんで結ばれようと考えているのか‥‥チャコは友達なのに。

『初恋』

アルバートに言われた言葉を思い出す。

「これが、恋って事なのか?私は、チャコのことが好き‥‥なのか?」

なにも知らない子なのに?つい、この間会ったばかりなのに?
・・・でも、『好き』と言葉にすると、ストンとこの気持ちが当てはまった気がした。
そうか、私はチャコの事を好きになっていたのか。だから、会いたかったり、声が聞きたかったり、胸が痛かったりしたのか。あぁ、チャコと話したい。近くに行きたい。そんな気持ちが溢れてチャコのいる木へ降り立つ。

「チャコ見つけた。」

声をかけると小さな肩が跳ねた。とても可愛くて、抱きしめたくなってしまう。チャコがビックリして、バランスを崩したのをいい事に、こちらへ引き上げて近くに寄せる

「ビックリしました‥‥ディナンには簡単すぎましたね。へへ」

照れたようにほっぺを赤くして笑っているのが可愛い。それに、やはり私には簡単だったと気付いていたのか。

「そうだな、下から丸見えだった。‥‥でも、まさか上に登っているとは思わなかったぞ。」

「へへ。木登りは得意なんです。」

「そうか。」

自分でも驚くほど柔らかい声が出た。遠目にいるアルバートが驚いたような顔をしている。鬱陶しい。

「あ‥‥、その‥‥だな。」

チャコは頬を染めて視線を逸らしてしまった。残念に思ったがそれよりも言いたいことがあった。でも、これを言うのはおかしくないか?馴れ馴れしすぎて嫌われたりしないだろうか‥‥などと考えていたら口ごもってしまう。

「何ですか?」

また敬語で返され少しムッとしてしまう。

「口調‥‥」

「え?」

大きな金の瞳が、真っ直ぐに私を見つめて次の言葉を聞こうとしてくれている。
意を決してチャコの目を見つめて言う事にした。

「敬語、じゃなくていい。‥‥普通に話してくれ」

最後の方が小声になってしまった。かっこ悪い。

「あぁ。そう‥‥だね。じゃあ、普通に話すね」

いとも簡単に口調が変わってニッコリと笑いかけられる。嬉しくて頬が緩んでしまった。

「あぁ。」

チャコを置いて、次はジョーを見つけるために動き出す。
場所はわかっている。ここからすぐの所だ。
ジョーの隠れているところに着くと、ジョーは遠目にチャコを見ながら私の方を見ずに淡々と聞いて来た。

「ねぇ、ディナンはさ、チャコのことが好きなの?」

「‥‥そうだな、この気持ちが『好き』なら‥‥私は、チャコの事をとても好ましく思っている。」

「‥‥そう。チャコ、可愛いから仕方ないね。でも、あげないよ。チャコは、僕のお嫁さんになってもらうんだから。」

ドクンと心臓が跳ねた。私がしたくても立場上、出来ないかもしれない事をいとも簡単にジョーは言ってのける。羨ましい。

「ジョーは、チャコの婚約者‥‥なのか?」

平民は知らないが、幼いうちからの婚約は貴族ではよくある話だ。婚約はよっぽどのことがない限り覆らない。だから、婚約しているなら諦めるしかないのかもしれない。

「・・・まだ違う。」

その言葉に、心底ホッとしたのがわかった。私がホッとしたのが伝わったのだろう、ジョーは苦い顔をしてこちらを睨みつけて来た。

「でも、近いうちになるつもりだから。邪魔しないでよ」

「それなら、私も頑張ろうかな。そちらも、私の邪魔はしないでくれよ?」

ちゃんとフェアに行こうと手を差し出すと、不機嫌ながらもジョーは握り返して来た。
・・・こいつは結構いい奴かも知れない。そう思ってニッと笑いかけるとジョーは眉にしわを寄せて、フンっとそっぽを向いてチャコのいる方へ歩いて行った。その後ろに私もついていく。するとチャコが歌っているのか、可愛らしい歌声が聞こえて来た。

「ーー♪このみーちーをずぅっとーゆけばーー♪」

チャコは石垣に座って歌っていた。なぜか、遠くを見ている姿がひどく悲しそうで、歌っている歌詞の通り、帰りたいのに帰れないと言うように寂しそうにしていた。とても遠いところへチャコが行ってしまいそうな気がして、早く捕まえないと‥‥と思ってしまう。そんな気持ちがジョーにも伝わったのかジョーは私の腕を掴んで止めて来た。

「‥‥なんだ?」

自分が思っていたよりも、数段低い声が出た。しかし、ジョーは気にならないのか、淡々と言い返してくる。

「チャコが歌ってる。邪魔するな。歌い終わるまでここにいよう。」

そう言われて、チャコにまた視線を写すと、少し感傷に浸ったのかチャコが涙目になっていた。今すぐ抱きしめたくなる。となりのジョーも同じなのか拳をギュッと握ってた。本当にこいつは、チャコが好きなんだな。と思わせられた気がした。

歌い終わりを見計らってチャコに近づくと‥‥

「あぁ、ゆーくんと一緒にライブに行く約束してたのになぁ‥‥」

とても残念そうに、そして凄く愛おしそうに言うチャコに、グッと心臓を掴まれたような気がした。

「‥‥‥‥ユーって誰?」

隣にいたジョーから、温度が感じられない声で声をかけられて、チャコはビックリしたように肩が跳ねた。その後の、しまった!と言うように口元を抑えるからチャコにはもう、想い人がいるんじゃないかと思わせられる。あぁ、好きだと自覚した日に失恋か‥‥と胸がチクチクと痛んで来た。

「‥‥ジョーの知らない人だよ。」

「うん、だから聞いてるの」

ジョーは諦められないのか追求をやめない。すごいな、私はそこまで突っ込んで聞けないぞ。

「‥‥うーん、なんて言えばいいのかな。‥‥夢の中の大切な子‥‥かな。」

思ってもみなかった答えに戸惑う。実在する人ではないってことか?あんなに愛おしそうに名前を呼ぶのに?実在しないのに、そんなにそいつの元へ帰りたいのか?よくわからない疑問がいくつも浮かんで来るけど、口には出さないように口を噤んだ。

「そう。ジョーはなんかそういう事ない?夢、見るでしょ?そこで仲良くなるような子いない?」

嘘をついているように感じない。本当にチャコは不思議な子だ

「ディナンもそーゆー事ない?」

急に話が振られてビクッとしてしまった。

「私も、夢は見ても架空の人物と出会う事はないな。」

私がそう言うと明らかに肩を落としてしまった。‥‥同意するべきだったか?いや、嘘をついたところで‥‥

「そっかぁ~私は何度かあるよ。とても大切な家族。でも、実際は会った事なくて、この世界には絶対にいないの。‥‥まぁ、私は想像力豊かだから。架空のお友達がいっぱいいるんだよ。」

視線を下げるチャコが、すごく寂しそうで抱きしめたくなる。触ろうとするとジョーに睨みつけられるからできなくて、少しムッとしてしまうのは仕方ないと思う。‥‥自分はベタベタ触る癖に。

その後は、遊んでいたらあっという間だった。
なんで楽しい時間はこんなにも早いんだ。うぐぐ

・・・ジョーはいいな、一緒に帰れて。一緒に帰って行く2人を恨めしそうに見送って、私もアルバートと城へ帰る。

「面白い子達でしたね。」

隠れながら見ていたアルバートが声をかけて来た。

「そうだろう?ジョーは初めて会ったがいい奴そうだ。」

「そうそう、ジョーという少年。どこかで見たような気がするんですよねぇ。」

顎に手を当てて考えるアルバートを横目で見ながらまだ片付けていなかった勉強に取り組む。

「まぁ、いつか思い出すでしょう。あ、ディナン様、あのジョーという子から宣戦布告受けていましたね。好きだと自覚してすぐライバル出現ですか~大変ですねぇ~」

ニヤニヤと嫌な笑い方をされて私はジトッとアルバートを睨みつける。それをなんとも思ってないのか笑いを辞めずに「協力しますから頑張りましょう」と頭を撫でられた。

「でも、チャコは貴族じゃないみたいだぞ?結婚なんか無理じゃないか?」

「まぁ、普通は妾‥‥でしょうね。王族との婚姻は伯爵以上が当たり前ですから。でも、やり方は何ようにもありますよ。時期が来たら教えてあげますから。今は自分の勉強に励んでください。」

アルバートは、胡散臭い笑顔でニッコリと笑うとお茶を作りに部屋を出て行ってしまった。

「‥‥妾なんか嫌だぞ。チャコと一緒にいれるなら‥‥正妃がいい。他なんかいらない。」

ボソッと本音を漏らして私はまた机に向かった。











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