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9*湯冷めには気をつけましょう
しおりを挟む「悠二、ちょっと大変なこと気づいてしまったんだけど‥‥」
唐突に声をかけられ悠二が振り向くと髪がまだ少し濡れていて湯上りだからか頬が少し赤く色ついて伏し目がちにこっちを伺っている雛がいた
ゴクリと唾を飲み込む
(無防備すぎだろ‥‥)
「おい、聞いてんのか?」
雛が悠二の方へ視線をやって不思議そうに見てくる
「え?聞いてます聞いてます!大変なこと‥‥ってなんですか?」
「この世界にいるってことは、二度とお爺ちゃんに会えないってことなんじゃないのか?」
「まぁ、この世界にいるうちは会えませんね。でも、帰り方を探してくれるって言ってたんんですよね?」
「そうだよなぁ。それを信じるしかないよね。でもさ、自分たちでも何かできないかな?」
「というか、ですよ?この世界の人は俺たちを元の場所に戻したくないんですよね?鼻から探す気があるかどうかもわかりませんよね。」
「ん~でも、あの王子様は嘘は言わない気がするなぁ」
「なぜ言い切れるんですか?」
「だって、本当に戻したくなくて帰路を断ちたいなら最初から『帰る方法はない』って言えばよかったわけじゃん?それを、馬鹿正直に『探すけど、帰って欲しくはない』って言い方にするのは、本当に私達の判断で留まってほしいってことなんだと思うんだよね。なにか理由があるのかもしれないけどさ。」
「‥‥確かに。」
「まぁ、暫くはどっちにしてもここでやっていかないとなんだしなるべく大人しく!変に絡むのは辞めろよ!」
「‥‥お嬢、あの王子が気に入ったんですか?」
「え?」
「それとも、騎士ですか?確かに強そうですしいい体してそうですけど‥‥」
「ちょ、ちょっと待て。なんでそうなる。」
「だって。お嬢、ここに居るの楽しそうじゃないですか。」
「ぐっ‥‥」
「ほら、やっぱり目当ての男が居たんですね。誰ですか?そいつ締めて来ます」
「初対面でそーゆー事思うわけないだろ!!私はただっ‥‥!!」
「ただ、なんです?」
「なんでもない!」
「そこまで言って言わないのは狡いですよ~」
ねぇ、ねぇ、ねぇ、と周りをうろちょろされて流石にめんどくさい。
「だから!私は、悠二と一緒だからっ!だからそこまで深刻になってないの!!それに‥‥それに、この世界なら悠二も堅気になれんじゃないかって思ったら少し‥‥良いかもって思えて‥‥」
「‥‥‥‥え?」
思っても見なかった答えに悠二は固まる
「危ないことも、命狙われる事もなくなるんじゃないかって思って‥‥そしたら嬉しくって…。でも、お爺ちゃんに会えなくなるのは嫌だし、でも嬉しく思う事もあってなんだかよく分からないの!!!悪いか!?っぐえ!?」
「お嬢、有難うございます。」
思いっきり抱きしめられて悠二が少し苦しそうに笑う
「‥‥おぅ。」
「でも、親父は絶対心配してますから。帰れるんならちゃんと帰りましょう。」
「そうだな。」
「だけどもし‥‥もし、絶対に帰れないってなったら‥‥」
「ん?悠二?」
「いえ、何でもありません。ほら、お嬢。湯冷めしちゃいますよ。もう寝ましょう?来た時の話は明日でも遅くはありませんから。」
ぎゅうっと抱きしめられてたのが解けて少し寂しく感じる。
悠二がどうしてか苦しそうにするからこれ以上聞いてはいけない気がして言われた通り寝る支度をすることにした
「そうだな…。」
「では、おやすみなさい」
「お、おやすみ」
(帰れなかったら‥‥なんて言うつもりだったんだろう?)
上掛けを頭までかぶって聞けなかった言葉を探してしまう
*****
パタン
ズルズル…
自室に入って力が抜ける
「帰れなかったら俺は、、、はぁ。」
暗い部屋の中で一人蹲っていた
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