上 下
9 / 39

9*湯冷めには気をつけましょう

しおりを挟む


「悠二、ちょっと大変なこと気づいてしまったんだけど‥‥」

唐突に声をかけられ悠二が振り向くと髪がまだ少し濡れていて湯上りだからか頬が少し赤く色ついて伏し目がちにこっちを伺っている雛がいた

ゴクリと唾を飲み込む

(無防備すぎだろ‥‥)

「おい、聞いてんのか?」

雛が悠二の方へ視線をやって不思議そうに見てくる

「え?聞いてます聞いてます!大変なこと‥‥ってなんですか?」

「この世界にいるってことは、二度とお爺ちゃんに会えないってことなんじゃないのか?」

「まぁ、この世界にいるうちは会えませんね。でも、帰り方を探してくれるって言ってたんんですよね?」

「そうだよなぁ。それを信じるしかないよね。でもさ、自分たちでも何かできないかな?」

「というか、ですよ?この世界の人は俺たちを元の場所に戻したくないんですよね?鼻から探す気があるかどうかもわかりませんよね。」

「ん~でも、あの王子様は嘘は言わない気がするなぁ」

「なぜ言い切れるんですか?」

「だって、本当に戻したくなくて帰路を断ちたいなら最初から『帰る方法はない』って言えばよかったわけじゃん?それを、馬鹿正直に『探すけど、帰って欲しくはない』って言い方にするのは、本当に私達の判断で留まってほしいってことなんだと思うんだよね。なにか理由があるのかもしれないけどさ。」

「‥‥確かに。」

「まぁ、暫くはどっちにしてもここでやっていかないとなんだしなるべく大人しく!変に絡むのは辞めろよ!」

「‥‥お嬢、あの王子が気に入ったんですか?」

「え?」

「それとも、騎士ですか?確かに強そうですしいい体してそうですけど‥‥」

「ちょ、ちょっと待て。なんでそうなる。」

「だって。お嬢、ここに居るの楽しそうじゃないですか。」

「ぐっ‥‥」

「ほら、やっぱり目当ての男が居たんですね。誰ですか?そいつ締めて来ます」

「初対面でそーゆー事思うわけないだろ!!私はただっ‥‥!!」

「ただ、なんです?」

「なんでもない!」

「そこまで言って言わないのは狡いですよ~」

ねぇ、ねぇ、ねぇ、と周りをうろちょろされて流石にめんどくさい。

「だから!私は、悠二と一緒だからっ!だからそこまで深刻になってないの!!それに‥‥それに、この世界なら悠二も堅気になれんじゃないかって思ったら少し‥‥良いかもって思えて‥‥」

「‥‥‥‥え?」

思っても見なかった答えに悠二は固まる

「危ないことも、命狙われる事もなくなるんじゃないかって思って‥‥そしたら嬉しくって…。でも、お爺ちゃんに会えなくなるのは嫌だし、でも嬉しく思う事もあってなんだかよく分からないの!!!悪いか!?っぐえ!?」

「お嬢、有難うございます。」

思いっきり抱きしめられて悠二が少し苦しそうに笑う

「‥‥おぅ。」

「でも、親父は絶対心配してますから。帰れるんならちゃんと帰りましょう。」

「そうだな。」

「だけどもし‥‥もし、絶対に帰れないってなったら‥‥」

「ん?悠二?」

「いえ、何でもありません。ほら、お嬢。湯冷めしちゃいますよ。もう寝ましょう?来た時の話は明日でも遅くはありませんから。」



ぎゅうっと抱きしめられてたのが解けて少し寂しく感じる。

悠二がどうしてか苦しそうにするからこれ以上聞いてはいけない気がして言われた通り寝る支度をすることにした

「そうだな…。」

「では、おやすみなさい」

「お、おやすみ」





(帰れなかったら‥‥なんて言うつもりだったんだろう?)


上掛けを頭までかぶって聞けなかった言葉を探してしまう






*****


パタン


ズルズル…

自室に入って力が抜ける

「帰れなかったら俺は、、、はぁ。」


暗い部屋の中で一人蹲っていた







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

処理中です...