上 下
6 / 9

第6話 焔の予感

しおりを挟む
 「…」

 「…」

 「…」

 「…」

 この階にいた蛇頭構成員は四名。奇襲してその大量の血液を奪い取り、吸血霧となった私はさらに勢いを増していた。
 これで私が吸血霧の術によって殺害した人物は、計七名になる。
 まだ息がある床に倒れ伏した者たちも、もうしばらく後には正式にその殺害数に含まれることだろう。

 身体機能が低下した彼等にはまだ息があったが、その命が続くのも、もう僅かな時間だけだ。

 (さて………良い感じに奪った鮮血を魔力変換できた。もうそろそろ吸血鬼として実体化しようか………いえ、この上の階にも熱源が五つある。そいつらを捕食してからでも遅くはない、か)

 そう考えた私…今も吸血霧に変化している…は、取り込んだ血液を魔力に変換することを急ぐ。
 混ざり合った血液で真紅となっていた霧は、そうして急速に無色透明へと戻っていく。
 
 私が変化した霧は、本来透過率が高く光を拡散させない。無色透明なのだ。

 光を拡散させて周囲を白く見せる霧や靄とはまったくの別物である。
 白い霧は湿気の多い森林地帯や湿地ならば、天然の霧と混ざり、紛れ込むことも簡単だろう。
 しかし、こうして湿気のない場所で狩りをするためには、白いままの霧は不向きだ。
 無色透明でなければ不自然過ぎる。
 そうでなければ、特定の人物目掛けて迫ってくる霧など、誰からも警戒対象から除外されない。
 まったく奇襲には向かないのである。

 そのため、私は一時その場に留まり、血液が完全に魔力へと変換される時を待った。
 不確定要素を潰し、確実に獲物へと接近できるように。

 (この東棟の連中の始末を終えたなら、次は建物に放火して回らないと。こんな場所、悪戯に残しておけば、また別の悪党のアジトにされかねない)

 などと、僅かな待ち時間を使って考えつつ、どんな順番でこの場を攻略していくか。その計画を見直していた。

 とはいえ、もちろん付け火はそのためだけではない。
 
 人間は本能的に巨大な焔を恐れる。
 火付けで蛇頭連中を混乱させれば、それだけ各個に撃破することが容易になる。
 なぜなら、巨大な炎に対して、個人個人の対応が違うからだ。
 アジトを守ろうとする者は消化しようとするだろうし、組織に対する忠誠心の薄い者は、我先に逃げ出そうとするはずだ。
 そこに付け入るスキができる。
 別々に、バラバラになって動いてくれるなら、それだけ個別に撃破しやすくなるのだ。

 (まあ、それだけじゃないのだけどね)

 それに、占領価値のない敵の拠点など燃やして更地にしてしまうことが一番だ。
 万一、この地が新たなる怪異の出現地点になったらどうなるか。
 私がもっとも心配したのはその点だった。

 (あの肺炎騒ぎ以来、闇の世界も騒がしいと聞いている。各地で怪異が大量発生しているって………そんな怪異が出現しそうな場所は、燃やして消毒しておかないと!)

 そう私が理解していたことも理由だった。

 (さて、魔力変換完了。上層階へと行くとしましょう)

 無色透明の霧…つまり私…の下では、魔力変換が完了するまでの間に、四人の蛇頭の男が、物言わぬ骸と化していた。
 私は、その四つの死体には何の感慨も持たずに、東棟の上層階へと再び昇って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

徹夜でレポート間に合わせて寝落ちしたら……

紫藤百零
大衆娯楽
トイレに間に合いませんでしたorz 徹夜で書き上げたレポートを提出し、そのまま眠りについた澪理。目覚めた時には尿意が限界ギリギリに。少しでも動けば漏らしてしまう大ピンチ! 望む場所はすぐ側なのになかなか辿り着けないジレンマ。 刻一刻と高まる尿意と戦う澪理の結末はいかに。

処理中です...