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 第十一話 まるで八艘飛び! 

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 高速で本隊から右方向に向かって離れていく、俺とお嬢ちゃん。

 「グランドチーム各員、アイアンチーム各員に告ぐ。俺たちが別方向に敵を誘引して時間を稼ぐ! 輜重兵はその隙に補給を!」

 「ストームチーム各員へ。連携して効率的に敵を撃破して。そちらは任せる」

 「了解です隊長。御武運を!」

 「アイアンチーム了解。地上の敵を薙ぎ払います!」

 「上空の敵は、我々ストームチームに任せて!」

 「こちら輜重隊、了解しました!」

 「任せた!」

 「任せる」

 俺の背中に乗るお嬢ちゃんが、早速、ハルノオウギを連射モードとして周囲にエネルギー弾をばら撒いていく。その連撃に反応した一群が、攻撃目標を俺たちに移し進路を変更する。
 俺とお嬢ちゃんの目論見通りだ。
 だが、まだまだ引き付けるべき数が足りない。もっと引き付けなければ!

 「お嬢ちゃん、さらに近付くぞ!」

 「うん、敵を名古屋撃ちにして見せる。任せて」

 「そいつはいいや! 上等じゃねぇか!」

 遥かな昔、昭和の時代のインベーダーゲームの攻略法の如く敵を連続で屠ってみせるというお嬢ちゃん。その僅かな身体の重みを感じながら、俺は敵群へと近付いていく。

 「狙い撃つ」

 「応っ! やってくれ!」 

 その背中のお嬢ちゃんから正確無比な射撃が再開される。今度は牽制ではない。一撃一撃が相手を屠る本気の狙撃だ。その攻撃を受け、次々と墜落していく飛行型の異形獣たち。
 その在り様が一層、敵群からヘイトを集める。

 殺意を高め、広範囲に多数の毒液、巨大な毒針を飛ばしてくる大型スズメバチ型、スリング状の布で投石してくる知恵持つ猩々型。
 攻撃を躱せる移動場所を制限する狩りの手法。数を活かした群体の獲物の仕留め方だった。
 人類側は、攻撃を躱している心算だったが、じつは追い詰められ、異形種共に半包囲される。こうやって俺たちを囲み、嬲り殺しにできるポイントへと誘導するつもりだ。
 戦闘種として生み出された異形の存在だけあって、どうやって立ち回れば優位に立てるか本能で知っているのだろう。
 こうして一糸乱れぬ連携を見せる点は厄介極まりない。

 (だが、やらせるかよ!)

 「お嬢ちゃん、敵の攻撃の範囲を強行突破するぜ」

 「任せる」

 だが、戦闘のプロなのはこちらも一緒。敵の思惑をトレースもできるし、その攻略法も導き出せる。

 攻撃に怖気づいて異形共の思惑通りに動けば、その果てに待っているのは嬲り殺しにされる未来だろう。その現実に直面した俺は、冷静に敵の思惑とは真逆の、アマノジャクな決断をした。

 すなわち、敢えて毒液、巨大毒針、投石の降り注ぐ範囲を通り抜けるルートを選択したのである。

 そうする事で、窮地から抜け出すと共に、異形種共さらに挑発するのだ。

 つまり、敵の攻撃を逆にこちらの挑発の策とするのだ。

 「飛ぶぞ!」

 「やって見せて!」

 「ああ!」

 俺とツーカーの仲となっていたお嬢ちゃんも同意し、ルート変更した俺は脚部のバーニアを吹かし、空中移動で敵弾幕を躱しつつ、曲芸染みた軌道を描く。

 どうだい? 見事な軌道だろう。お前らの攻撃なんぞ、無意味だ。俺たちには何の効果もないぜ!

 ギリギリに飛行異業種たちの攻撃を躱し、見事な軌道を描く俺。ちょっとした芸術飛行だ!

 躱した毒液が大地を濡らし、毒針が地面へと突き刺さり、奇妙なオブジェを形作る。

 その合間にも、お嬢ちゃんは見事にハルノオウギを連射して多数の飛行種、猩々をさんざん血祭りに上げた。鍛え抜いた三半規管と空間認識能力の賜物だ。

 飛行種共の死体が大地の毒沼、毒針の上に落下し、さらに奇妙で悪趣味なオブジェを作り出すのだった。

 どうよ! 二人の合わせ技は見事だろう!

 「あ、いっぱい来たよ」

 「ちぃっ! だな!」

 俺とお嬢ちゃんの会話通り、曲芸染みた方法での挑発は、予想以上に異形共を激怒させたようだった。
 スズメバチ型飛行種の体色が赤色方向の戦闘色へと変化し、飛行猩々共は怒りの奇声を上げて双眸を釣り上げていた。
 そんな様子の異業種共は、怒り心頭。多数の飛行種が一斉に方向転換、俺と嬢ちゃんのいる方向へ押し寄せてくる。

 「よし、食いついてきた。逃げるぞ」

 「ええ」

 俺は、味方側から敵の戦列が横に伸びていくように見える方向へと移動。さらに飛行種共を誘導していく軌道を選択した。
 完全に敵前衛の陣形は乱れ、人類側本体へと群体の横っ腹を晒す状況となった。
 この状態ならば………後は信頼すべき仲間たちが上手くやってくれるはずだ。

 「隊長、お見事です! こちらアイアンチーム! 三連電磁投射砲! マイクロミサイルポッド、フルバースト!」

 「各種砲座、全自動射撃!」

 「ストームシューター、各員フルバースト!」

 「グランドチーム、前衛ドローン隊、上空! 撃ちまくれ! 敵を薙ぎ払うんだ!」

 本体の主力である電磁投射砲をマウントする大型戦車が、主砲の射角を仰角30に上げ発砲。それに呼応し、他の部隊も戦列の伸び切った飛行異形種へと弾幕を集中させる。
 レンタングルウォーカー隊のみ、地上へと攻撃を続行するのだった。

 面白い様に本体からの飛行異形種攻撃は成功し、次々に厄介な空飛ぶ連中が撃墜されていく。空中の敵戦列は崩れ、所々で残る敵前衛を、味方は十字砲火で次々と撃ち落としていく。
 アイアンチーム、グランドチーム、ドローンチームといえば、すでに空中の敵の掃討をストームシューターたちに任せ、地上から迫る敵群へと攻撃の的を変え、そちらの迎撃に当たっていた。
 これだけ砲火を集中すれば、地上の前衛群への迎撃も容易だろう。
 俺の背中のお嬢ちゃんも、冷静に残る飛行種を順当に打ち落としていく。

 これで敵群第一波の進撃は凌いだ。俺たちが上手く勝利したのだ。

 しかし、情報収集用に放ったドローンが正確な情報を取得するには、まだ時間が必要なようだ。

 「こちらグランド01、アイアン02、ドローンの情報取得状況は?」

 「こちらアイアン02、やっと15%といったところです!」

 (うへえっ! それだけかよ! こりゃ、時間が掛かりそうだな)

 「了解した。お嬢ちゃん、次の飛行種の群れに向かうぞ!」

 「ええ!」

 勤めて平静を装う俺がそう提案したのは、お嬢ちゃんが飛行種の最後の一匹を始末するのとほぼ同時だった。これだけ情報収集速度が遅いと、弱音を吐ける訳もない。ここで隊長である俺が弱音を吐けば味方の指揮が下がっちまう。
 味方を安心させ、力を十分に引き出せるように、ある程度は演技せんとな。
 俺は残る地上の異形種の後方に見える、新たな飛行種の群れ目掛けて、ちょっと曲芸染みた方法で大胆に移動を開始した。

 「よっと! はっ! せいっ!」

 俺は、落下した飛行種の死体を足場にして、義経が壇ノ浦の戦いで見せた(と伝えられる)八艘飛びの如くに飛び跳ねていく。
 お嬢ちゃんは、俺の行動の意味が理解できているらしく、文句は言わない。ただ冷静に、俺の背中で早速ハルノオウギを遠距離狙撃モードへと変え、敵飛行種の一団へと発砲する。
 それが上手い具合に余興の華となる。
 奇妙に跳ね飛ぶ男女。そこから放たれる一撃一撃が、着実に飛行種共の命を奪って行くのだから。
 そんなお嬢ちゃんの冷静な対応で、俺は跳ね飛びながらホッとする。
 持つべきものは、優秀な阿吽の呼吸で戦えるパートナーだと。
 これは期待に応えなければと、さらに上手に飛び跳ね、踊って見せる俺だった。

 曲芸染みた方法で移動する俺とお嬢ちゃん。そんな俺たちと、敵の群れとの距離が縮まっていく。しかし、近付く群れは、お嬢ちゃんの正確極まる射撃でどんどん数を減らしていく。

 「隊長、御見事です!」

 「さすが俺たちの隊長!」

 「流石です!ストーム07!」

 「カッコイイ!」

 「おうっ!御捻りは後でな! 支援は頼んだ!」

 「了解、そちらへの援護射撃開始します!」

 仲間たちからの激励の通信と、味方側の発砲音を聞きながら、俺とお嬢ちゃんは次の群れへと跳ね飛びながら向かっていく。
 その攻撃可能距離へと進入していくのだった。

 
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