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子供たち
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敬子とユウさんの二人の娘、メイとアオイは健康状態も良好で、順調に育っていった。アオイは左側の乳だけしか吸わないので、右側の乳だけを吸うメイとおっぱいの取り合いになることも無かった。乳飲み子二人で忙しくなったのは確かだけど、昭和の頃を考えれば雲泥の差。専業主婦に戻ったからそれほど時間を気にする必要もない。歯が生え始めたメイの離乳食も手作りしなくても、いくらでも既製品が売られている。
昭和で男女の双子を出産した時、泰代は3歳まで夫の実家に預けられていたから、敬子に女の子の赤ん坊を育てた経験は無い。その点は心配だったけど、男の子よりはるかに楽だった。それ以外の理由の方が大きいと思うけど。
電子レンジなんて便利なものもある。昭和50年当時もあったことはあったが、高価でどこの家にでもあるものではなく、慶子の家にも無かった。何より、昭和の家では契約電力が20A。普通に使っていても頻繁にブレーカーが飛んでいたくらいだから、契約を見直しでもしない限り使えなかっただろう。
自動車を運転できるのはやはり大きい。昭和にいた時も無理してでも取っておけばよかったと思ったが、当時オートマ専用免許なんてものは無かったことに気付き、子育ての合間を縫って教習所に通うのはやはり難しいだろうと思いなおす。
ユウさんはさすがに考えを変えたらしい。これ以上子供ができたら経済的にまずいと思うようになったのだろう。その後はコンドームを使ってくれるようになった。
病院の仕事はいつでも迎えてくれると言ってくれている。看護師を使うより補助作業だけなら敬子を使ったほうが安くつくからだと分かっているが、今のところは子育てに専念するつもり。
メイ、アオイ共に保みたいに体の弱い子でなかったのは幸いだった。もう40近いのに、毎晩寝ずの看病など厳しい。もっと大変な子育てをしている母親もたくさんいるのは承知しているけど。
テレビや新聞では、やたら「世紀末」という言葉を聞くようになった。勘違いしていたが、21世紀というのは2001年かららしい。2000年までは20世紀ということか。何となく1999年までだと思い込んでいた。
タイムトラベルせずに昭和に居続けていたら21世紀を迎える歳は60歳になる。まさか40前で迎えることになるとは思ってもみなかったこと。
「きんは百歳、ぎんも百歳」なんてコマーシャルもやっている。テレビ番組にも頻繁に出演している。
母方の祖母のことを思い出した。正確な年齢は憶えていないが、あの姉妹よりもっと年上のはずで19世紀生まれだろう。さすがにもう生きているとは思えないけど。
昭和で子育てをしていた時、慶子は常にイライラしていた。今思い起こせば、独裁的で性格の合わない夫が原因だったのだろう。子供にも些細なことで当たり散らしていたのを思い出す。そのせいか、上の子二人は明らかに暗い性格で、友人も少なく、お世辞にも社交的とは言えない性格だ。保はまだ小さいからどうなるか分からないが。
こちらでは優しいユウさんと大切にしてくれる舅、姑に囲まれてイライラすることも無い。どうしても出かけなければならないときは、前年から持ち始めた携帯電話を掛けてお願いすれば、喜んで来てくれる。子供たちもまだまともに話はできないけど、いつもニコニコして明るい性格のよう。
親によってここまで性格が変わるものなのか。昭和50年に残してきた子供たちに対して少なからず罪悪感をおぼえる。自分の好きな相手と結婚できなかったことは、子供たちには関係が無い。
1999年と言えば、「ノストラダムスの大予言」を思い出す。昭和にいた時には「1999年に人類が滅びる」なんて言われていたけど、結局何事も起きなかった。「間もなく資源を使い尽くす」なんて言われていたことも忘れ去られている様子。
こちらに居続ければ、間違いなく幸せな暮らしを送ることができる。でも、それは昭和50年に残してきた3人の子を捨てることと同じ。そんなことが許されるのだろうか。
いずれにしても、アオイに授乳している間は昭和50年に戻ることはできない。乳首にしゃぶりつくアオイの存在は、敬子がこちらで生活を続ける「言い訳」になってくれているような気がした。
そして、2000年12月31日、大晦日の夜。20世紀最後の日を迎える。スーパーで購入したおせち料理が冷蔵庫に入れてある。昭和にいた時には自分で作っていて普段より忙しくて休む間もなかったことを思い出す。メイは2歳、アオイは1歳になっていた。すでに眠っている二人を見ながら、敬子は思う。
「私はいったい何歳なんだろう?」
ユウさんはソファーに掛けて紅白を見ている。歌っている「モーニング娘。」というアイドルグループの少女たちの一部は10代前半らしい。慶子が歩や泰代が生んだ時、母は48歳だったことを思い出した。つまり10代前半の子なら、60歳になったはずの「慶子」の孫であってもおかしくない年齢。同級生のうち、早く結婚した人ならあれくらいの歳の孫がいる人もいることだろう。
今は大人になっている歩、泰代、保はもう結婚しているのだろうか。しているとすれば子供がいるかもしれない。自分から見れば孫ということになる。調べるつもりは無いけど。
ユウさんは、敬子が今そんなことを考えているとは夢にも思っていないに違いない。
昭和で男女の双子を出産した時、泰代は3歳まで夫の実家に預けられていたから、敬子に女の子の赤ん坊を育てた経験は無い。その点は心配だったけど、男の子よりはるかに楽だった。それ以外の理由の方が大きいと思うけど。
電子レンジなんて便利なものもある。昭和50年当時もあったことはあったが、高価でどこの家にでもあるものではなく、慶子の家にも無かった。何より、昭和の家では契約電力が20A。普通に使っていても頻繁にブレーカーが飛んでいたくらいだから、契約を見直しでもしない限り使えなかっただろう。
自動車を運転できるのはやはり大きい。昭和にいた時も無理してでも取っておけばよかったと思ったが、当時オートマ専用免許なんてものは無かったことに気付き、子育ての合間を縫って教習所に通うのはやはり難しいだろうと思いなおす。
ユウさんはさすがに考えを変えたらしい。これ以上子供ができたら経済的にまずいと思うようになったのだろう。その後はコンドームを使ってくれるようになった。
病院の仕事はいつでも迎えてくれると言ってくれている。看護師を使うより補助作業だけなら敬子を使ったほうが安くつくからだと分かっているが、今のところは子育てに専念するつもり。
メイ、アオイ共に保みたいに体の弱い子でなかったのは幸いだった。もう40近いのに、毎晩寝ずの看病など厳しい。もっと大変な子育てをしている母親もたくさんいるのは承知しているけど。
テレビや新聞では、やたら「世紀末」という言葉を聞くようになった。勘違いしていたが、21世紀というのは2001年かららしい。2000年までは20世紀ということか。何となく1999年までだと思い込んでいた。
タイムトラベルせずに昭和に居続けていたら21世紀を迎える歳は60歳になる。まさか40前で迎えることになるとは思ってもみなかったこと。
「きんは百歳、ぎんも百歳」なんてコマーシャルもやっている。テレビ番組にも頻繁に出演している。
母方の祖母のことを思い出した。正確な年齢は憶えていないが、あの姉妹よりもっと年上のはずで19世紀生まれだろう。さすがにもう生きているとは思えないけど。
昭和で子育てをしていた時、慶子は常にイライラしていた。今思い起こせば、独裁的で性格の合わない夫が原因だったのだろう。子供にも些細なことで当たり散らしていたのを思い出す。そのせいか、上の子二人は明らかに暗い性格で、友人も少なく、お世辞にも社交的とは言えない性格だ。保はまだ小さいからどうなるか分からないが。
こちらでは優しいユウさんと大切にしてくれる舅、姑に囲まれてイライラすることも無い。どうしても出かけなければならないときは、前年から持ち始めた携帯電話を掛けてお願いすれば、喜んで来てくれる。子供たちもまだまともに話はできないけど、いつもニコニコして明るい性格のよう。
親によってここまで性格が変わるものなのか。昭和50年に残してきた子供たちに対して少なからず罪悪感をおぼえる。自分の好きな相手と結婚できなかったことは、子供たちには関係が無い。
1999年と言えば、「ノストラダムスの大予言」を思い出す。昭和にいた時には「1999年に人類が滅びる」なんて言われていたけど、結局何事も起きなかった。「間もなく資源を使い尽くす」なんて言われていたことも忘れ去られている様子。
こちらに居続ければ、間違いなく幸せな暮らしを送ることができる。でも、それは昭和50年に残してきた3人の子を捨てることと同じ。そんなことが許されるのだろうか。
いずれにしても、アオイに授乳している間は昭和50年に戻ることはできない。乳首にしゃぶりつくアオイの存在は、敬子がこちらで生活を続ける「言い訳」になってくれているような気がした。
そして、2000年12月31日、大晦日の夜。20世紀最後の日を迎える。スーパーで購入したおせち料理が冷蔵庫に入れてある。昭和にいた時には自分で作っていて普段より忙しくて休む間もなかったことを思い出す。メイは2歳、アオイは1歳になっていた。すでに眠っている二人を見ながら、敬子は思う。
「私はいったい何歳なんだろう?」
ユウさんはソファーに掛けて紅白を見ている。歌っている「モーニング娘。」というアイドルグループの少女たちの一部は10代前半らしい。慶子が歩や泰代が生んだ時、母は48歳だったことを思い出した。つまり10代前半の子なら、60歳になったはずの「慶子」の孫であってもおかしくない年齢。同級生のうち、早く結婚した人ならあれくらいの歳の孫がいる人もいることだろう。
今は大人になっている歩、泰代、保はもう結婚しているのだろうか。しているとすれば子供がいるかもしれない。自分から見れば孫ということになる。調べるつもりは無いけど。
ユウさんは、敬子が今そんなことを考えているとは夢にも思っていないに違いない。
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