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第九章 決起

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植物がそこここに飾られている部屋には、清涼な緑の香りが充満していた。

大小さまざまな鉢の植物はどれも整えられている。
葉はすべて緑であり、枯れた部分は一つもない。日々、手で枯れかけた花や葉を取り除き、美しく手入れされていた。

俺も畑仕事と格闘し、土と植物にまみれて生きていた。植物を好むさがには親近感を感じる。

飾り棚には美術品が並び、壁には絵が飾られている。
天蓋付きのベッドは鮮やかで意匠がこらした装飾が施されていた。
厚く重厚なカーテンに、美しく磨かれた床。
ほこり一つ、傷ひとつない。

十分に贅沢な品々に囲まれた贅を凝らした部屋だろう。
殿下はこれだけの品々に囲まれていながら、満足できなかったのか。
それほどまでに、欲望が膨れ上がっていたというのか。

俺はベッドで寝ている男に近づく。
今日は一人で眠る日だ。そんな日を選んで侵入していた。

まじまじと寝顔を見れば、やはり俺と面立ちが似ている。

近くにある椅子を引き寄せ、ベッド脇に置く。
座ってから、大きく息を吸った。

「ルーガロ殿下。殿下、ルーガロ殿下」

名を呼べば、寝返りを打つ。

遠目から見たことはあったが、しっかりと殿下の顔を見るのは初めてであった。ゾーラが驚くほどには、ぱっと見た印象が似かよっている気がした。

数度名を呼ぶと殿下は目覚める。
不審者である俺を見て、飛び起きた。

人を呼ぼうと声を張り上げようとしたところで、俺の顔を見て、さらに驚く。
俺の容貌が自分と似ていることに気づいたのだろう。

「おはようございます、殿下」
「お前は誰だ」
「国家魔導士のオーウェンです。以前、お目にかかった時は面をつけていました。素顔をさらすのは初めてですが、覚えておいでですか」

殿下ははっと気づく。

「オーウェン。お前は蟄居していると聞いている。もう表に出ることはないと……」
「俺が出てこないと安心していたか」
「レイフもそう言ったというのに……」

唖然とする殿下が、レイフの名を口にした途端、俺の腹はさめざめと冷えた。

「俺がいないから、報復を恐れずレイフを暗殺できたと言うのか」

これほどまで低い声が俺に出すことができたのかと驚くほど、どすのきいた声だった。
途端に殿下は大きく頭を横に振った。

蒼白になり、両手を前につき、懇願するような顔になる。

「違う、違うんだ。私はなにも知らなかった。知らなかったんだ。私は悪くない、悪くないんだ」
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