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第七章 駆落ち
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テントが赤々と燃え、黒い煙が立ち上る。
指揮系統まで炎は及ぶ。
後方に落ちた火球の数は少なかった。
動ける人間が消火活動を行っている。
前線付近も慌ただしくなる。
奇襲をかけられたと混乱する豆粒サイズの人々が動いている。
そこにスピア国から兵がなだれ込む。
指揮系統も失い、戦力を削がれたミデオ国は、そのまま一気に、首都が陥落する。
歴史通りの流れだ。
俺の役目は終わった。
問題は、今、俺の腕に抱かれている者だ。
仮面越しにちらりと女を見る。
俺に抱きかかえられている女は見開いた両目で俺を凝視する。
さて、助けてしまったこの女を俺はどうするか。
女は口を動かすが、声さえ出ない。
さもありなん。
「いくぞ」
どうするか聞いたところで、ろくに行く当てなどないだろう。
拾ってしまった手前、俺は仕方なく、砦まで連れて行くことにした。
空を飛ぶことに慣れていない女は、両目を瞑り俺にしがみつき風圧に耐える。
仕方なく、俺は速度を落とした。
砦に着いた俺をレイフが迎える。
地面に降ろされた女はへなへなと地面に座り込む。未だ、何が起こったか分からず、声も出ない様子だ。
女を連れてきたことに、レイフもまた驚いた顔をする。
「どうしたんだ。この子は」
「戦場にいたんです。目が合ってしまい、寝覚めが悪くなりそうで、連れてきてしまいました」
「連れてきたって……」
「元は娼婦です。下働きでも働けと言えば、働くのではないでしょうか」
両手を地面につけた女は、いまだに一声も出せずに、震えている。
見てきた光景の恐ろしさのあまり、自我が崩壊したのだろうか。
優しいレイフがしゃがむ。
女の顔を覗き込んだ。
「君は働けるか」
女はうんうんと頷く。
声を出せないほど、驚いているものの、言われる内容は理解できているようだ。
「名前は?」
「……ジェ……、ジェナ」
「ジェナね」
立ち上がったレイフが俺を見る。
「下働きとして、一人ぐらいなら面倒見ることはできるだろう。しかし、オーウェン、これ以上は無理だぞ」
「分かっています。もう、俺が出る幕もないでしょうから。これが最後です」
「オーウェンはどこか達観して、若いくせに老成しているからな。女の子一人さらってくるぐらい普通でいてくれて、俺も安心したよ」
茶化すレイフが俺の胸を小突いた。
俺は女を砦の使用人のまとめ役をしている家令に預けた。
娼婦の衣装を脱ぎ捨て、働きやすい地味な恰好になった女は、洗濯や水くみでよく働いていた。
拾って来た手前、俺も気になる。
悪いことを考えるような娘であっては、レイフに申し訳ない。
見ている限り、ジェナはただひたすら、真面目に働いているだけだった。
指揮系統まで炎は及ぶ。
後方に落ちた火球の数は少なかった。
動ける人間が消火活動を行っている。
前線付近も慌ただしくなる。
奇襲をかけられたと混乱する豆粒サイズの人々が動いている。
そこにスピア国から兵がなだれ込む。
指揮系統も失い、戦力を削がれたミデオ国は、そのまま一気に、首都が陥落する。
歴史通りの流れだ。
俺の役目は終わった。
問題は、今、俺の腕に抱かれている者だ。
仮面越しにちらりと女を見る。
俺に抱きかかえられている女は見開いた両目で俺を凝視する。
さて、助けてしまったこの女を俺はどうするか。
女は口を動かすが、声さえ出ない。
さもありなん。
「いくぞ」
どうするか聞いたところで、ろくに行く当てなどないだろう。
拾ってしまった手前、俺は仕方なく、砦まで連れて行くことにした。
空を飛ぶことに慣れていない女は、両目を瞑り俺にしがみつき風圧に耐える。
仕方なく、俺は速度を落とした。
砦に着いた俺をレイフが迎える。
地面に降ろされた女はへなへなと地面に座り込む。未だ、何が起こったか分からず、声も出ない様子だ。
女を連れてきたことに、レイフもまた驚いた顔をする。
「どうしたんだ。この子は」
「戦場にいたんです。目が合ってしまい、寝覚めが悪くなりそうで、連れてきてしまいました」
「連れてきたって……」
「元は娼婦です。下働きでも働けと言えば、働くのではないでしょうか」
両手を地面につけた女は、いまだに一声も出せずに、震えている。
見てきた光景の恐ろしさのあまり、自我が崩壊したのだろうか。
優しいレイフがしゃがむ。
女の顔を覗き込んだ。
「君は働けるか」
女はうんうんと頷く。
声を出せないほど、驚いているものの、言われる内容は理解できているようだ。
「名前は?」
「……ジェ……、ジェナ」
「ジェナね」
立ち上がったレイフが俺を見る。
「下働きとして、一人ぐらいなら面倒見ることはできるだろう。しかし、オーウェン、これ以上は無理だぞ」
「分かっています。もう、俺が出る幕もないでしょうから。これが最後です」
「オーウェンはどこか達観して、若いくせに老成しているからな。女の子一人さらってくるぐらい普通でいてくれて、俺も安心したよ」
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見ている限り、ジェナはただひたすら、真面目に働いているだけだった。
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