上 下
22 / 60
第四章 戦争争議

22:

しおりを挟む
テーブルゲームの合間に交わされる雑談から推測すると、俺の前前世はミデオ国にいた可能性が高い。

自分の話ばかりするゴード曰く、ミデオ国は内部の争いが多い国だそうだ。

ミデオ国を仕切るリドリー家は国内に秘密の金山を抱えており、資金も潤沢。
ゴードは、いかにその金をうまく利用し資産を増やしたかをつまびらかに語るのだ。

リドリー家は国内に武器を多くさばいていた。
いわゆる武器商人と言ったところか。

地域ごとの小競り合いが多く、消耗品の武器は飛ぶように売れたそうだ。
おそらくその小競り合いも、起こるべくして起こる土壌をリドリー家は作っているのだろう。
治める国もそれ相応の武力を持たなくてはいけない。国庫に占める軍事費は増えるばかり。
また個人も自衛のために武器を保有するようになり、なにかと物騒な事件が耐えず、結果として孤児のような身寄りのないものが増えたようだ。

前前世の生活状況を思うと気分の良い話ではない。
前世の人生を知ってしまえば、あれは人間が暮す最低限も満たしていない状況だ。
こんな支配者の元で、劣悪な環境で暮らさなくてはいけなくなったのかと思うと、腸が煮えくり返る。





不当な扱いに怒りを覚えているのは俺だけではない。
レイフも一緒だった。

砦には食堂があり、料理人もいる。
侍女もいれば、侍従もいる。

当初は、他の家々の者たちと食堂で食べていたが、いつの頃からか、俺たちは二人で自室で食べるようになった。
馬が合わない者たちとの食事は栄養にならないだろ。

我慢に我慢を重ねているレイフは、食事の時にだけ不満をぶちまける。

「今度は誘拐だって。子供まで巻き込むのか」
「先ほど、廊下の立ち話を盗み聞きしました。その子は殺されて発見されましたね」
「殺されて発見されるなんて、聞いていないぞ。有力者の子どもだぞ」
「それを理由にまた……」

皆まで言わず理解するレイフが舌打ちする。

「先日の要人暗殺もそうだ。その人物は、リドリー家の手足として働いていたものじゃないか。そんな人物をも、用済みとなればすぐに消してしまうのか」
「勝手に武器の流通を差配したことが気にくわなかったのでしょう」
「三年。三年もこんな状況が続くのか。こんな状況下では、食べる物を確保することだって難しくなる。働き手がどんどん削がれていくからな。耕せない畑地も増えれば、国庫も細る」
「彼らにとっては、卓上のゲームで、資産が増えていくことが面白いのでしょうね」
「なにが、面白いだ。俺はなにも面白くない」
「数字が増えていくことが面白いのでしょう」

その昔、前世で貯金通帳の数字が増えていくのを楽しみにしていた時期があった俺は、その時の心情を少し肥大して想像する。
膨大な数字が増えていく様は、なにかの感覚を麻痺させる。
増えていくことによろこびを感じ、ただ増やすことだけに面白味を感じていた。
働き始めた直後あたりだ。
すぐに結婚して、子どもができたので、貯蓄の楽しみは消えてしまったが……。

俺の言葉にも、反発したそうにぶつぶつと文句を呟くレイフに俺は告げた。

「三年、いえ、一年過ぎましたので、あと二年。
その時は、俺が必ず、魔導士同士の戦いで勝ちます。
だから、もうしばらく、辛抱しましょう」

二人きりであることを良いことに、俺とレイフは彼らに勝った後こそどうすべきか話しあった。

百年を超える人生を生きてきた俺にとっては、三年は短い。
まだ二十年強しか生きていないレイフには長く感じられるだろう。
耐え忍ぶには、希望が必要だ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。

もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです! そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、 精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です! 更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります! 主人公の種族が変わったもしります。 他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。 面白さや文章の良さに等について気になる方は 第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...