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第二章 仮面の魔導士
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首都に着いた俺たちは、マクガ伯爵家の屋敷で暮らし始めた。
領主である伯爵が領地と行ったり来たりしている屋敷には常駐の使用人が何人もいた。
暮らしの不便がないばかりでなく、俺たちが滞在する下準備もすんでいる。さすがマクガ伯爵だ。
慌ただしいことだが、数日後には王主催の夜会が開かれる。
もちろん、その衣装も用意されていた。
大勢の貴族が参加する予定であり、秘密結社に属する六家も参加する。
王家の夜会に紛れて俺たちの顔合わせが行われるのだ。
六家以外の貴族たちの動向を眺めつつ、優越感を感じるために、紛れているのかもしれない。
他に場を設ける手間を省いているのかもしれない。
ただの伝統や不文律なのかもしれない。
王家の夜会に紛れる意味はよく分からないが、王家や他の貴族の様子も知りたかったので、丁度良かった。
伯爵家の豪華な馬車に乗り、夜会会場に入った俺たちは、田舎者に見られないようにと少々緊張気味だった。
所詮前世も平民。このような大仰なパーティーなど知らずに人生を閉じている。
百年以上生きた記憶があっても、まだまだ人生初体験はあるものだ。
この会で俺たちは六家の面々と顔を合わせた。
六家の家名は分かっているおり、それぞれと挨拶したのだ。
連れている魔導士を確認する際は、公の場で魔導士と名乗ることをはばかり、左手を右肩に添える仕草を持って確認するしきたりとなっている。
挨拶するごとに、俺はレイフの横に立ち、左手を右肩に寄せて、立場を示した。
魔導士は高齢な者から壮年の者までおり、六人中四人が男性、女性は二名であった。
俺が一番若いだろうかと思っていたが、驚いたことに、公爵家が連れていた魔導士が一番若かった。
しかも女性である。
最有力の家のまさかの人選に俺とレイフは視線を交わし、互いの驚きを確認し合った。
さらに右肩に左手を添えた女性の名を聞いた俺は仰天する。
「初めまして、オーウェン様。ゾーラ・エネルと申します。以後お見知りおきを」
俺はまじまじと彼女を見てしまった。
整った顔立ち。赤く燃えるような髪がゆるくウェーブをうねらせる。瞳も赤みを帯びた濃い黒色をしている。
髪色に近い深紅のドレスがよく似あう。
歴史上の人物を目の当たりにする驚きとともに、名君の妻に収まる女性にしては、地味な印象を受けた。
むしろ魔導士のゾーラを従える妹の方が曲者に映る。
冷静に状況を分析するような物静かな姉と、勝ち気で我が物顔の自分が中心でなければ気が済まなそうな妹。
ゾーラの妹の名は歴史には残っていない。
ガーラ・エネル。
一応おぼえておこう。
この夜会で、俺はもう一人、気になる人物を眺めることができた。
若かりし頃の、マーギラ・スピア。
今は王太子であり、名をルーガロ・スピアという。
彼は王位につき程なくして、名を変えている。歴史に残っているのは改名後の名前なのだ。
さすがに新参者の伯爵家子息の従者としては挨拶できないとはいえ、どことなく見たことがある面立ちの気がしたのは気のせいか。
王のそばには美妃が侍る。
おそらく、面立ちが整っているから、前世で見たなにがしかの胸像でも重ね見てしまったのだろう。
領主である伯爵が領地と行ったり来たりしている屋敷には常駐の使用人が何人もいた。
暮らしの不便がないばかりでなく、俺たちが滞在する下準備もすんでいる。さすがマクガ伯爵だ。
慌ただしいことだが、数日後には王主催の夜会が開かれる。
もちろん、その衣装も用意されていた。
大勢の貴族が参加する予定であり、秘密結社に属する六家も参加する。
王家の夜会に紛れて俺たちの顔合わせが行われるのだ。
六家以外の貴族たちの動向を眺めつつ、優越感を感じるために、紛れているのかもしれない。
他に場を設ける手間を省いているのかもしれない。
ただの伝統や不文律なのかもしれない。
王家の夜会に紛れる意味はよく分からないが、王家や他の貴族の様子も知りたかったので、丁度良かった。
伯爵家の豪華な馬車に乗り、夜会会場に入った俺たちは、田舎者に見られないようにと少々緊張気味だった。
所詮前世も平民。このような大仰なパーティーなど知らずに人生を閉じている。
百年以上生きた記憶があっても、まだまだ人生初体験はあるものだ。
この会で俺たちは六家の面々と顔を合わせた。
六家の家名は分かっているおり、それぞれと挨拶したのだ。
連れている魔導士を確認する際は、公の場で魔導士と名乗ることをはばかり、左手を右肩に添える仕草を持って確認するしきたりとなっている。
挨拶するごとに、俺はレイフの横に立ち、左手を右肩に寄せて、立場を示した。
魔導士は高齢な者から壮年の者までおり、六人中四人が男性、女性は二名であった。
俺が一番若いだろうかと思っていたが、驚いたことに、公爵家が連れていた魔導士が一番若かった。
しかも女性である。
最有力の家のまさかの人選に俺とレイフは視線を交わし、互いの驚きを確認し合った。
さらに右肩に左手を添えた女性の名を聞いた俺は仰天する。
「初めまして、オーウェン様。ゾーラ・エネルと申します。以後お見知りおきを」
俺はまじまじと彼女を見てしまった。
整った顔立ち。赤く燃えるような髪がゆるくウェーブをうねらせる。瞳も赤みを帯びた濃い黒色をしている。
髪色に近い深紅のドレスがよく似あう。
歴史上の人物を目の当たりにする驚きとともに、名君の妻に収まる女性にしては、地味な印象を受けた。
むしろ魔導士のゾーラを従える妹の方が曲者に映る。
冷静に状況を分析するような物静かな姉と、勝ち気で我が物顔の自分が中心でなければ気が済まなそうな妹。
ゾーラの妹の名は歴史には残っていない。
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彼は王位につき程なくして、名を変えている。歴史に残っているのは改名後の名前なのだ。
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