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第二章 仮面の魔導士

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マクガ伯爵曰く。

オーウェンの主であるレイフが負けの責任を追う。
これは古くからの不文律であるという。

負けの責任とはなにか。
多くは体の一部を差し出すこと。
耳、鼻、目、髪、指。悪ければ、腕や足を捧げることになる。

魔導士である俺は、初めからレイフの所有物なのだ。

所有物と主を兄弟のように育てる。
意味がないように見えて理にかなっている。

俺はレイフが傷つくと知ると嫌な気持ちがわき上がった。レイフが傷つく姿を俺は見たくない。

「俺とレイフ様の信頼関係を築くことが目的だったのですね」
「そうだ」
「それは俺が逃げ出さないため、戦うことを放棄することを防ぐためですか」
「それもある」
「それだけではないと」
「物を大事にしない者は滅び、物も大事にされなければ主を裏切る」

マクガ伯爵は俺を見据える。仮面をつけている以上、俺の目しか見えないはずだ。
息子より、冷静に受け止めていることに気づいたのかもしれない。

なにせ、俺は二度の人生を生きてきた。生きた年数だけを数えれば百年を超える。

少々のことで動じることはない。

「我々は『秘密結社 導きの北極星』。国の裏側で結束し、世界の動向を決める二十四の家の一つだ」

 レイフは明らかに動揺を隠せない様子だ。
 俺はというと、表に出ない歴史の存在を知り、少々興奮した。
 この『秘密結社 導きの北極星』の選択こそが、国々の戦争の行く末を左右していたとしたら。
 戦争ばかりしていた愚かな時代、という俺の認識は間違っていたことになる。

「百年に一度、『秘密結社 導きの北極星』は各家で育てた魔導士を競わせる。その勝利者となった魔導士を抱える家が、その後の未来を決定付ける。
今回は国の統一を天秤にかける。
それぞれの国同士をどのように争わせるのか、円卓で話し合うのだ。
まず、我々はスピア国内の代表者を決める戦いの勝利者とならねばならない。
オーウェン。お前はレイフの剣だ。この戦いによって、どの勢力が優位に立つかが決まる、それによって、これから始まる戦乱の行く末が決まるのだ」

隣国間の小競り合いが発展して戦争が起こっていたわけではない。

魔導士オーウェンがいなかった歴史がどうなるのか、もし、俺がいない方がマシな歴史になるとしたら、レイフを助けてから、逃亡することを考えればいいだろう。
ともかく、歴史の裏側を覗き見て、都度判断をするしかない。

「承知いたしました。マクガ伯爵」

俺は胸に手を置き、宣誓する。

「今まで息子のように育てていただいたご恩を胸に、このオーウェンはレイフ様の剣となり立てとなり、お守りします。そして、この伯爵家に誇りある勝利をもたらすことを約束しましょう」

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