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第一章 三度の転生
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今日も俺は荷物を運び、ゴミを集めながら後方へと戻る。
国と国との話し合いが始まり、戦争が終わる見通しが立っている。
もう戦争は終わった。ただ、撤退を待つだけという空気が充満している。
命知らずの年を重ねた娼婦は一人で歩きまわり、客を探す者もいる。
飲食はそれなりに俺のような奴隷が運ぶが、それでは足りないとばかりに、裏道から入り込んだ行商人が酒やつまみを売り歩いている。
名目上、そういう行為は捕まるはずだが、慣れているのか彼らは袖の下一つですり抜けている。
むこうから相乗りの幌馬車が来る。言うなれば移動娼館、娼婦を売るために毎日走る。これには、軍の許可も下りている。
だいたい、近隣の娼館から落ち目になった者たちが乗ってくる。
高値が見込める娼婦は搾り取るため店で売らせるものだ。
ここに来るのは、消えても痛手のない娼婦ばかり。
幌馬車が止まる。
大きなテントの前である。
そこに先日売った娼婦がいるのだろう。
だいたい移動娼館の娼婦は数人で買う。一人で買うには高いものだ。
テントから出てきたのは、着崩れた衣装に乱れた髪に、かろうじて髪飾りを載せている娼婦だった。彼女は黙って馬車に乗りこむ。おぼつかない足取りであっても、支える者はいない。
幌馬車の御者が、テントから出てきた熊のような大男と交渉を始める。
話しがついたのか、御者が中から女を引っ張り出してくる。
「やめてよ、嫌よ。はなしてよ」
そんな叫び声をあげながら、女が引っ張り出されてくる。
御者も扱いにくそうに、腕を引く。
「言うことを聞け」
「いやだ、いやだ」
そんな押し問答が繰り返されている。
珍しく若い女だ。
栗色の髪に大きな黒い瞳がきらりと光る。
娼婦らしい見た目に整えられているものの、不本意とばかりに頭を大降りすれば、髪飾りが落ちた。
熊のような大男がそれを拾う。
目が楽しそうだ。舌なめずりをしている。
嫌がる若い女を征服することを考えているのだろう。
(あれだな。娼館で客に粗相でもした女を罰として連れてきたんだろう)
俺は厄介事に巻き込まれたくないため、幌馬車を距離をとるため迂回することにした。
焚火を囲う傭兵たちの傍を歩くと絡まれることもあるが、今は女と御者、大男がどう出るか周囲も固唾を飲んで見守っている雰囲気があるので静かに歩き去れるだろう。
その時、空に稲光が走った。
夕立でもくるのかと空をみあげると、真っ青な空が広がる。
(なんなんだ)
片手を額に載せて、空を眺める。
キラキラと陽光眩しい空しかない。
(気のせい……)
突風が吹きすさび、咄嗟に腕で顔をかばった。
「誰だ」
「何者だ」
そんな声がどこそこから響く。
俺のすぐ真横に、白地に空色と金の刺繡を施したローブを纏う者が地に降り立った。
ひらめく白い裾がキラキラと輝いている。
しゃがむ姿勢から、ばっとこちらをむいた。
ばっちり目が合った俺の心臓が跳ねる。
ローブを纏う者は、仮面をつけていた。鮮やかな色合いで人の顔が描かれていながら、神聖さを醸す仮面だ。
地面にローブの裾がつくかという瞬間に、前を向く。
刹那、世界が白く染まった。
おそらく、俺はここで死んだ。
第一の人生の幕がおりたのだ。
国と国との話し合いが始まり、戦争が終わる見通しが立っている。
もう戦争は終わった。ただ、撤退を待つだけという空気が充満している。
命知らずの年を重ねた娼婦は一人で歩きまわり、客を探す者もいる。
飲食はそれなりに俺のような奴隷が運ぶが、それでは足りないとばかりに、裏道から入り込んだ行商人が酒やつまみを売り歩いている。
名目上、そういう行為は捕まるはずだが、慣れているのか彼らは袖の下一つですり抜けている。
むこうから相乗りの幌馬車が来る。言うなれば移動娼館、娼婦を売るために毎日走る。これには、軍の許可も下りている。
だいたい、近隣の娼館から落ち目になった者たちが乗ってくる。
高値が見込める娼婦は搾り取るため店で売らせるものだ。
ここに来るのは、消えても痛手のない娼婦ばかり。
幌馬車が止まる。
大きなテントの前である。
そこに先日売った娼婦がいるのだろう。
だいたい移動娼館の娼婦は数人で買う。一人で買うには高いものだ。
テントから出てきたのは、着崩れた衣装に乱れた髪に、かろうじて髪飾りを載せている娼婦だった。彼女は黙って馬車に乗りこむ。おぼつかない足取りであっても、支える者はいない。
幌馬車の御者が、テントから出てきた熊のような大男と交渉を始める。
話しがついたのか、御者が中から女を引っ張り出してくる。
「やめてよ、嫌よ。はなしてよ」
そんな叫び声をあげながら、女が引っ張り出されてくる。
御者も扱いにくそうに、腕を引く。
「言うことを聞け」
「いやだ、いやだ」
そんな押し問答が繰り返されている。
珍しく若い女だ。
栗色の髪に大きな黒い瞳がきらりと光る。
娼婦らしい見た目に整えられているものの、不本意とばかりに頭を大降りすれば、髪飾りが落ちた。
熊のような大男がそれを拾う。
目が楽しそうだ。舌なめずりをしている。
嫌がる若い女を征服することを考えているのだろう。
(あれだな。娼館で客に粗相でもした女を罰として連れてきたんだろう)
俺は厄介事に巻き込まれたくないため、幌馬車を距離をとるため迂回することにした。
焚火を囲う傭兵たちの傍を歩くと絡まれることもあるが、今は女と御者、大男がどう出るか周囲も固唾を飲んで見守っている雰囲気があるので静かに歩き去れるだろう。
その時、空に稲光が走った。
夕立でもくるのかと空をみあげると、真っ青な空が広がる。
(なんなんだ)
片手を額に載せて、空を眺める。
キラキラと陽光眩しい空しかない。
(気のせい……)
突風が吹きすさび、咄嗟に腕で顔をかばった。
「誰だ」
「何者だ」
そんな声がどこそこから響く。
俺のすぐ真横に、白地に空色と金の刺繡を施したローブを纏う者が地に降り立った。
ひらめく白い裾がキラキラと輝いている。
しゃがむ姿勢から、ばっとこちらをむいた。
ばっちり目が合った俺の心臓が跳ねる。
ローブを纏う者は、仮面をつけていた。鮮やかな色合いで人の顔が描かれていながら、神聖さを醸す仮面だ。
地面にローブの裾がつくかという瞬間に、前を向く。
刹那、世界が白く染まった。
おそらく、俺はここで死んだ。
第一の人生の幕がおりたのだ。
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