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唇を奪われたセシルが手にしていたグラスが落ちかける。
デュレクは、落ちる間際にそのグラスを掴んだ。背後に腕を伸ばして、サイドテーブルにグラスを置く。
覆われた男の唇の中で、唇を舐められるセシルは目を白黒させる。くすぐったさに隙間が開くと、男の大きな舌が侵入してきた。
「んっ! んんっ!!」
セシルは薄い舌を奥に引っ込めた。男の舌が追いすがり、セシルの小さな舌を絡めとる。舌の裏側を舐められ、たまらずセシルは背を伸ばす。男の腕が回り込んできた。なすがまま力任せに持ち上げられたかと思うと、ベッドに体を押し付けられる。
さらに男の体重がのしかかってきた。膝を立てると、膝裏に手を添えられ、大きく足を開かれる。
(なに、これは、なに?)
セシルは、両手で男の肩を抑えた。押し返そうとしても、動かない。
口内を遊ぶ舌は歯列をなぞる。嫌だと舌で押し返そうとしても、セシルの力は足りなかった。胴の上を男の身体が擦れてゆく。伸びていた片足の下に、男の膝が滑り込んでくる。両足は開かれ、男の身体が重い。
膝裏に添えられていた男の手が滑るように落ちてきた。股を探る二本の指が下着の中にすべりこむと、陰核をきゅっと挟んで押した。
ぎんとセシルの脳に一筋の衝撃が走る。そこが何か彼女は知らない。ただ、今脳天を走った刺激に両目を開いた。
デュレクの手がセシルの頭部に添えられて、唇が離れた。息を大きく吸って吐いてをセシルは繰り返す。
(なに? なにが、起こった)
見開く目は、近すぎる男の顔を捕らえた。
驚きのあまり放心するセシルにデュレクは笑いかける。
セシルの下着に入れた二本の指を陰核の上で、くるりと回す。
「あっ……やん」
口から洩れ出た声に耳を疑い、セシルは拳を口に寄せた。
何をしたと問いただす言葉も出ない。あまりのことに息があがり、濡れた唇の違和感が溜まらなかった。
「やりたい」
デュレクのストレートな言葉の意味が分からないセシルは、きょとんとする。
(やる? なにを……)
ぶわっと、今日、屋敷で部屋を開いた際に見た風景を思い起こす。元婚約者と使用人の娘、いや、妹が長椅子で何をしていたか、分かっていないわけではなかった。
ただ、それが、身に降りかかっていることが、セシルは呑み込めずにいただけだった。
『男女』と罵られたばかりである。男の誘い方もよく分かっていなかった。ただ、なんとなく、相手の言葉に乗っかっていただけのセシルは、なぜ男がむけてくる行為の意味がぴんと来なかった。
女ではないと烙印を押されたばかりのセシルは呆気にとられるばかりだ。
(妹と元婚約者が為していたことを、この男は私に求めているのか? だと、すると……)
「私が、女に見えるのか」
この期に及んで、そんなセリフを告げられると思わないデュレクは青ざめる。
(やばい。何も知らないだけの娘かよ)
かと言って、すでに引けるような状態でもなかった。すまないと謝っても、許されない場合もある。
(押し切るか……)
デュレクはセシルの額にキスをした。唇を添えたまま囁く。
「当たり前だろ」
シャツの上に片手を添えて、撫でる。
セシルは上目遣いに男を見た。眼帯を外した紅の瞳が光っている。口角が少し上がっている。男が余裕で笑んでいるように見えた。
(私が女に見える男もいるのか)
罵られ、病んだ気持ちがさっと晴れ、セシルは安堵した。これから何が始まるのかまでは理解しきってはいなくても、たった一人でも女と受け止めてくれる人間がいることに、安らぎを覚えた。
「そうか……」
セシルは目を閉じた。
デュレクは同意が欲しかった。
衣類の上から柔らかく撫でる。怖がらせないように、優しく頭部を摩る。
セシルの真横に体を横たわせ、耳元に唇を寄せた。
「初めて?」
セシルは目を閉じたまま、首を縦に振った。
「優しくする。抱きたい。抱かせて……」
デュレクは、セシルの横顔を見つめる。心音は高くなっていた。合意か、決裂か。
セシルはデュレクに顔を向けて、瞼を開く。菫色の瞳が、艶めいた。
「いいよ」
(言質はとった!)
デュレクは、笑んだ。腹に添えらえていた手が動く。セシルのシャツを掴む。
男の手の速さに女はあっけにとられて、身を固める。
「両手を上げてね」
おずおずと従う女から、シャツをざばっと引き上げた。
デュレクは、落ちる間際にそのグラスを掴んだ。背後に腕を伸ばして、サイドテーブルにグラスを置く。
覆われた男の唇の中で、唇を舐められるセシルは目を白黒させる。くすぐったさに隙間が開くと、男の大きな舌が侵入してきた。
「んっ! んんっ!!」
セシルは薄い舌を奥に引っ込めた。男の舌が追いすがり、セシルの小さな舌を絡めとる。舌の裏側を舐められ、たまらずセシルは背を伸ばす。男の腕が回り込んできた。なすがまま力任せに持ち上げられたかと思うと、ベッドに体を押し付けられる。
さらに男の体重がのしかかってきた。膝を立てると、膝裏に手を添えられ、大きく足を開かれる。
(なに、これは、なに?)
セシルは、両手で男の肩を抑えた。押し返そうとしても、動かない。
口内を遊ぶ舌は歯列をなぞる。嫌だと舌で押し返そうとしても、セシルの力は足りなかった。胴の上を男の身体が擦れてゆく。伸びていた片足の下に、男の膝が滑り込んでくる。両足は開かれ、男の身体が重い。
膝裏に添えられていた男の手が滑るように落ちてきた。股を探る二本の指が下着の中にすべりこむと、陰核をきゅっと挟んで押した。
ぎんとセシルの脳に一筋の衝撃が走る。そこが何か彼女は知らない。ただ、今脳天を走った刺激に両目を開いた。
デュレクの手がセシルの頭部に添えられて、唇が離れた。息を大きく吸って吐いてをセシルは繰り返す。
(なに? なにが、起こった)
見開く目は、近すぎる男の顔を捕らえた。
驚きのあまり放心するセシルにデュレクは笑いかける。
セシルの下着に入れた二本の指を陰核の上で、くるりと回す。
「あっ……やん」
口から洩れ出た声に耳を疑い、セシルは拳を口に寄せた。
何をしたと問いただす言葉も出ない。あまりのことに息があがり、濡れた唇の違和感が溜まらなかった。
「やりたい」
デュレクのストレートな言葉の意味が分からないセシルは、きょとんとする。
(やる? なにを……)
ぶわっと、今日、屋敷で部屋を開いた際に見た風景を思い起こす。元婚約者と使用人の娘、いや、妹が長椅子で何をしていたか、分かっていないわけではなかった。
ただ、それが、身に降りかかっていることが、セシルは呑み込めずにいただけだった。
『男女』と罵られたばかりである。男の誘い方もよく分かっていなかった。ただ、なんとなく、相手の言葉に乗っかっていただけのセシルは、なぜ男がむけてくる行為の意味がぴんと来なかった。
女ではないと烙印を押されたばかりのセシルは呆気にとられるばかりだ。
(妹と元婚約者が為していたことを、この男は私に求めているのか? だと、すると……)
「私が、女に見えるのか」
この期に及んで、そんなセリフを告げられると思わないデュレクは青ざめる。
(やばい。何も知らないだけの娘かよ)
かと言って、すでに引けるような状態でもなかった。すまないと謝っても、許されない場合もある。
(押し切るか……)
デュレクはセシルの額にキスをした。唇を添えたまま囁く。
「当たり前だろ」
シャツの上に片手を添えて、撫でる。
セシルは上目遣いに男を見た。眼帯を外した紅の瞳が光っている。口角が少し上がっている。男が余裕で笑んでいるように見えた。
(私が女に見える男もいるのか)
罵られ、病んだ気持ちがさっと晴れ、セシルは安堵した。これから何が始まるのかまでは理解しきってはいなくても、たった一人でも女と受け止めてくれる人間がいることに、安らぎを覚えた。
「そうか……」
セシルは目を閉じた。
デュレクは同意が欲しかった。
衣類の上から柔らかく撫でる。怖がらせないように、優しく頭部を摩る。
セシルの真横に体を横たわせ、耳元に唇を寄せた。
「初めて?」
セシルは目を閉じたまま、首を縦に振った。
「優しくする。抱きたい。抱かせて……」
デュレクは、セシルの横顔を見つめる。心音は高くなっていた。合意か、決裂か。
セシルはデュレクに顔を向けて、瞼を開く。菫色の瞳が、艶めいた。
「いいよ」
(言質はとった!)
デュレクは、笑んだ。腹に添えらえていた手が動く。セシルのシャツを掴む。
男の手の速さに女はあっけにとられて、身を固める。
「両手を上げてね」
おずおずと従う女から、シャツをざばっと引き上げた。
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