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離れた生活

ウシウコ町

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「お兄さん、お馬さんが走ってます!」

 ティニアは道を走る馬を見て指を刺した。

「本当だね。お馬さんだね」

「私、ポニーさんになら乗れるんです」

 ティニアは胸を張りながら言う。

「へえ、三歳なのに凄いね」

 僕はティニアの頭を優しく撫で、褒めた。
 今、ワクスモ街を散歩している。ずっと宿にいても息がつまってしまうのだ。

 散歩してティニアを褒めて食事をして宿に戻って勉強してと言うような毎日を送っている。もう、僕はティニアの家庭教師……、いや召使……、執事のような存在になっている。でも、彼女は僕のことを兄のように慕ってくる。妹がいたらこんな感じだろうか。

「お兄さん、お風呂、一緒に入ろう!」

 ティニアは乾いた布を持ち、僕の手を持って脱衣所を指さす。

「もう、入るの? まだ、夕食前だけど……」

「夕食前に入って、夕食後も入るのっ!」

 ティニアは生粋の風呂好きだった。朝、昼、夜、多い時は三回以上入っている気がする。その都度僕も一緒に入ってほしいと言われる始末。そこまでお風呂に入る必要もないのに……。

 僕はティニアに手を引かれ、脱衣所で服を脱いだ後、お風呂場に入る。かけ湯をして体の汚れをある程度落としたあと、少々狭い風呂に入る。

「はぁー。狭いお風呂だけど、お兄さんと一緒に入ると凄く楽しいっ」

 ティニアは水をジャバジャバと持ち上げ、僕に掛けてくる。僕もひと刺し指を使って水を跳ねさせ、ティニアを攻撃した。

「はぁ、お兄さんが本当のお兄さんだったらよかったのに……」

 ティニアは僕の腹に背を付けながら言う。

「ティニアは長女だよね?」

「うん……。私、お兄さんかお姉さんが欲しかったのに……」

「まあ、仕方ないよ。でも、憧れがあるのなら、自分がカッコいいお姉さんになればいい。次に生まれてくるかもしれない妹と弟のために立派なお姉さんに慣れるよう、頑張ればいいんじゃないかな」

「私がカッコいいお姉さん……。成れるかな……」

「きっとなれるよ。ティニアは賢くて礼儀正しい。そのまま、一生懸命頑張れば何も心配いらない」

 僕はティニアを優しく抱きしめ、兄のように接する。そんな日々が一五日ほど続いた後、手紙が届いた。
僕とティニアは部屋で手紙を読む。

「ニクス、本当にありがとう。もう、妻が泣いて喜んでいた。娘が誘拐されてから抜け殻同然だっが、精気を取り戻せた。諦めかけていたころ、手紙が届いて死ぬほど驚いた。なんてお礼を言ったらいいかわからない」

 スグルさんは書きなぐったような言葉で手紙を書いており、本当に焦っていたんだなとわかる。

「ティニア宛てにお父さんから手紙が来たよ」

「う、うん……」

 ティニアは僕から手紙を受け取り、文章を読む。

 スグルさんはティニア宛てに大きな字で数行書いているだけの手紙を送ったようだ。

「無事でよかったって。もう、早く会いたいって書いてある」

「ほら、お父さんはティニアに会いたがっているんだよ。会いに行ってあげないの?」

「ティニアが帰りたくないのなら、ティニアが好きな時に返ってきなさいって書いてある」

「そ、そうなんだ……」

 ――スグルさん、ティニアに甘いんじゃ。

「私、もっとお兄さんといたい」

 ティニアは僕の手を握りながら呟いた。

「仕方ない。スグルさんがティニアの好きなようにしなさいって書いたのなら、一緒に旅をしようか」

 僕は三歳児のティニアに頭に手を置いた。

「うんっ! 旅、する!」

 ティニアはコクリと頷き、微笑んだ。

 ――まあ、数日旅をしたら飽きるだろう。帰りたいと言ったら炎の翼で帰ればいいか。

 僕はティニアと共に旅をすることになった。生憎、ワクスモ街から東国まで時間はある。その間に返りたいと言ってくれればすぐに送る予定だ。三歳児を連れて旅をするなんて普通あり得ない。子供と一緒に旅をするなんて危険すぎる。もっと大人数で守りながらなら良いが、二人旅は危険極まりない。まあプルスがいるので、監視役がいるのでギリギリ許した。

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ! 列車、はやーいっ!」

 ティニアは列車の窓から顔を出し、叫ぶ。僕はティニアの両脇に手を入れ、飛んで行かないよう配慮した。

「こんなことをしたら、本当は駄目なんだからね。はい、おしまい」

 僕はティニアを隣の席に座らせる。

「むぅー、もうちょっとしたかったのに……」

 ティニアは頬を膨らませ、むくれた。

「危険なことはしないって言う約束でしょ。旅は絶対安全と言う訳じゃないんだからね。ティニアの身に何かあったら僕は悲しいから、ティニアも危険なことをしないようにしてほしい」

「はあぃ、ごめんなさい……」

 ティニアはわかってくれたのか、しっかりと座ってくれた。そのまま、頭を僕の膝に当て、寝ころぶ。

 ――列車の中で横になって眠ることも周りの人の迷惑になるから本当は駄目なんだけどな。

「ティニア……」

「ちょっとだけ……。ちょっとだけだから……」

 ティニアは微笑みながら呟いた。

「まったく。本当にちょっとだけだよ」

 僕はティニアの頭を優しく撫で、甘やかす。
 ざっと五時間くらい列車に揺られたころ、列車内で売られているパンや干し肉、乾燥した果実など、お腹に溜まる品を購入した。

「あーん。んー、美味しいー」

 ティニアは僕からパンを食べさせてもらい、ご満悦だ。
 僕たちは外の綺麗な景色を見ながら昼食を得て、街におり、宿に泊まってまた列車で移動すると言う生活を一五日くらい続けた。するといつの間にか東国に向かう船場があるウシウコ街に到着していた。

「えっと……。ティニア、家に帰りたいって……」

「全然思わないです。もっとお兄さんと旅をしたいです!」

 ティニアは綺麗な黄色の瞳を輝かせ、両手を握る。東国は他の神獣が集まる可能性が高い。武器の宝庫なので、確実にいると直感する。

「その、ティニア。僕が今から行く場所はとても危険な場所なんだ。だから、君を連れていくわけにはいかない……。潔く帰ってくれないかな?」

「えぇ、そんな……。私、お兄さんともっと旅を続けたいです。家に帰っても、ずっと独りぼっちで楽しくないんです……。お兄さんといたら、凄く楽しくて、もっともっと一緒にいたいです」

 ティニアは僕にくっ付いてきてねだって来た。
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