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ビースト共和国

ルパ対青年

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「プルス、なんでテシャネイロ街じゃなくてこのリマクスコ街で襲って来たんだろう」

「そうですね。範囲が狭く、位置を絞りやすかったからじゃないですかね。あと、避難できる建物が多いですし、超多くの獣族がいるわけでもありません。黄蛇の眼は熱で敵を感知しますから、大量の生き物がいると特定の者を選ぶのが苦手なんです」

「なるほど。だから、テシャネイロ街では襲ってこなかったのか。でも、朝っぱらから襲ってくるなんて……。相手も相当血気盛んなんだな」

「いいですね、いいですね。血気盛んな相手は大歓迎です!」

 プルスは翼をはためかせながら燃え盛るように喜んでいた。

「に、ニクス。どんどん近づいてくる……。ふぅ……。大丈夫。私も戦える……」

 ルパは頬を叩き、気合いを入れていた。周りの者が人族ではなく獣族だから、恐怖心が薄いのだろう。だが、相手は神獣の一体。ルパは毒に掛かったら毒で苦しんでしまう。なるべく戦わせない方が良い。

「ルパ、ミアと一緒に宿に戻るんだ。プルスを身に着けている僕は敵から丸わかりになる。相手は純粋に僕を狙っている。だから、離れて」

「そ、そんな。また私、戦わせてくれないの……。に、ニクスを倒そうとするやつは私が倒してやる!」

 ルパは無鉄砲に勢いよく走り出した。

「ちょっ! ルパ、駄目だって!」

 僕は声をかけるも、ルパは立ち止まらず聞いてくれなかった。

「に、ニクスさん。ルパちゃんの後を早く追いましょう。敵と接触したら危ないです!」

 ミアは僕の服を引っ張りながら言う。

「うん。すぐに後を追う。ミア、敵の位置にあんないして」

 僕はミアを抱き上げ、そのままルパを追って走りだした。ミアはルパの匂いと敵を感じ取り、僕を案内した。屋根を飛び越え、すぐに追いつく。

「はっ! ふっ! おらあああああっ!」

 ルパは黄蛇を首に巻き付けた青年と戦っていた。

「ハハハッ! イイナ、イイナ、ソノウゴキッ!」

 青年はルパの攻撃を見極め、攻撃を華麗に回避していた。体の使い方が独特だが、動きが様になっている。

「ルパ、危険だ! 今すぐ離れて!」

 僕はルパに向かって叫ぶ。だが、ルパは集中してしまっているのか、僕の声が届いていなかった。

「ふっ! はっ! おらあああああっ!」

 ルパは双剣を縦、横、斜めに切り割き、攻撃を続けていた。相手の青年には一発も当たらず、全て回避される。ルパの動きが全て見極められてしまっているらしく、相手に余裕がある。
 ただ、獣族のルパの方が動きが早く、相手も攻め手に掛けている様子だった。ルパがこのまま攻め続ければ、いつか攻撃が当たるかもしれない。でも、相手の攻撃を先に食らったら負けだ。今すぐ止めたいが、この死地はルパを確実に強くする。それがわかっているので、止めたくても止めることができない。

「うらっ!」

 相手の青年はルパに蹴りを放った。ルパは蹴りを受け止め、がっしりと握る。そのまま相手を持ち上げて地面にたたきつけた後、自分を軸に何度も回転して投げ飛ばす。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「イタタ……。マッタク、ランボウナコムスメダナ」

「ジャック、もう少し冷静になれ。ただただ乱暴に動いているだけじゃ、賢い奴らには勝てないぞ。お前は攻撃を一度でもいれれば勝ちなんだ。わかっているのか」

「タタカイハタノシマナイト、イミナイダロッ!」

 青年は後頭部から血を流しているにも拘わらず、ルパ目掛けて攻撃を仕掛ける。

「ふぅ、ふぅ、ふぅ……。くっ!」

 ルパは恐怖心を飲み込み、相手の青年と真正面から攻撃を打ち合う。短剣と短剣がぶつかり合い、金属音が鳴り響く。周りに両者の戦いを止める者はおらず、知らんぷり。逆に観戦している者達もいた。あまりにも異質な戦いにも拘わらず、戦いが好きな獣族は皆、二名の攻防を楽しんでいるようだ。

 生憎、僕もその一人だ。ルパは神獣を扱う者と互角に戦えていた。黄蛇がルパに攻撃しようとするも、ルパは危険だと察知し、攻撃が来る前に相手の行動を止めている。相手の真骨頂は夜に発揮されるにも拘わらず、こんな朝っぱらから攻めてくるなんてよっぽど戦うのが好きらしい。両者の戦いは一時間以上続いていた。体力の多いルパは息を切らしているものの、まだまだ動けそうだ。相手は流血が多く、貧血気味になっていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……。もう、ニクスを襲うなっ! 襲うと言うなら、ここで手足をもいでやる!」

 ルパは短剣の先を青年に向けた。

「悪いが、それは出来ない。襲われたくないのなら、俺達を殺すことだ。嬢ちゃんに出来るのならな」

 黄蛇は舌をシュルシュルと出しながら言う。

「くっ……。殺せるぞ。私はニクスと違って人を殺せる!」

 ルパは手を震わせていた。あんな大見え切っているが、ルパに人は殺せない。彼女は人を殺すために強くなったのに、結局人を殺せるほど、心がすさんでいなかった。
 いや、人と触れ合うことで殺せなくなってしまったのだろう。ルパに人が殺せるのなら、あの青年をとっくに殺しているはずだ。なのに、殺せていない。それだけ、躊躇していると言うこと。

「ジャア、オレモ、ソロソロホンキデイコウカナ!」

 青年は黄蛇の口に短剣を突っ込んだ。その後、長い槍を取り出す。ざっと三メートルの槍で、あの黄蛇の体から出てくるとは思えないほどの長さだった。一体どこに収納されているんだと思うが、相手は神獣だ。驚いても仕方がない。

「黄蛇の体内は巨大な保管庫になっています。どんなものでも飲み込んで、保管しておけるんです」

 プルスは僕の頭上で翼を羽ばたかせながら言う。

「あ、あんな長い武器とルパちゃんは戦ったことありませんよ。これじゃあ……」

 ミアは僕の服を握り、プルプルと震えながらルパの戦いをしっかり見ていた。

 ――確かに、僕と戦う時もあんな長い槍を使った覚えがない。でも、ルパは凄い槍使いの動きを見ている。王都の騎士養成学校主席卒業、自らの強さで騎士団と同等の強さを誇る方。ディアさんの動きを知っているんだ。全く対応できないと言う訳じゃないはずだ……。
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